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生き方

ウサギはなぜ、カメに負けたのか...「近道を求める人」が迎える悲劇の結末

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2022年12月17日 公開 2023年07月26日 更新

 

不運を味方につけ「内なる力」を鍛える

私は不運の時には、「自分は今運をためている」と思うことにしている。マインドフルネスの人になる訓練である。「この不運は自分に何を教えているのか」と考える。

不運に耐えているときに人は鍛えられる。鍛えられるということは自分に本当の力がついているということである。「内なる力」がついている時である。

本当に力がつけば運が回ってきたときには鬼に金棒である。

ハーヴァード大学のエレン・ランガー教授は、「成功が続くと確定性(固定)が生じやすくなる。皮肉なことに、成功した企業ほど硬直した精神、マインドレスネスにとらわれやすい」といっている。

誰でもやることなすことうまく行っていれば、反省する機会はなくなる。

だから、「内なる力」がなくて、社会的に成功が続いている事業家に「得意になるな」というほうが無理である。

そして得意になって、自分を見つめる機会がなくなれば、絶望的な崩壊が待っている。特定の分野における連続した成功は、悲劇的な結末に向かって進んでいるといってもいいのではなかろうか。

「イケイケどんどん」の時には、すでに崖っぷちまで来ている。

飛ぶ鳥を落とす勢いの政治家が逮捕されたり、飛躍的に発展する企業の社長が年をとってから逮捕されることがある。年をとってから逮捕されることは、若い人には想像を超える悲劇的な体験である。

彼らは社会的に有能であるが、自分自身の本当の力、つまり「内なる力」を育成しないで、自分自身を見失ったゆえに、1つの視点で頑張りすぎたのである。

やりすぎることの原因は連続した成功である。

途中でなにかにつまずいていればそこまではしなかったであろう。途中でなにかにつまずいていれば自分を見失わなかった。

社会的には力がついているかもしれない、しかし「内なる力」を喪失している。

 

幸福は試練を乗り越えた先にある

栄光の道を走り続けて、社会的な成功で、周りが見えなくなる。自分の努力は「内なる力」を喪失することにつながっていることに気がついていない。

「内なる力」を失った社会的成功者の悲劇的挫折は、その自分に気がつかなかったことである。社会的な成功への道を順調に走りながら、実は自分は「内なる力」を失いつつあるということに気がつかない。

一病息災というが、企業の成功も同じである。どこか体が悪いからかえって体を大切にする。それと同じで、どこかに失敗があってこそ経営者の気持ちも引き締まるし、慢心におちいらない。

決して失敗は悪いものではない。別の視点から見れば失敗こそ悲劇から自分を救ってくれているメッセージかもしれない。マインドフルネスな人の見方である。

成功しているときも、失敗しているときも人は視野が狭くなりがちである。

私自身このようなことを書いていても、もし自分がやることなすこと成功していたらきっと慢心すると思う。人生は絶望の連続であるという絶対の真理を忘れて、世の中や、人生を甘く見て、年をとってから悲痛な体験をするのではないかと思う。

人生の幸福とは、次から次へと絶望的課題を連続して乗り越えることである。

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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