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生き方

恋人がいれば不安は消えるはず...恋愛依存に陥る人の“虚しい期待”

加藤諦三(早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員)

2023年04月19日 公開 2023年07月26日 更新

 

「熱しやすくて冷めやすい人」は恋愛で苦労する

私はあるアメリカの名言集を訳した。そこに「椅子やソファーは何度か座り心地を試してから買うこと(註)」とあった。

自分が今なぜ何のために必要かを考えて物を買うことが大切ということである。

家具を買うときには家のスペース、場所などを考えて買うことが大切である。何かを買うときには、自分の目的を知ってそれにふさわしいものを買うことが大切である。人間関係も同じ。

熱しやすくて冷めやすい人には注意が必要である。自分がつきあうのにふさわしくない人と無理をしてつきあおうとする人がいる。

椅子やソファーは買うのに座り心地を試してみないで、買ってしまう。後から大切なお金を無駄に使ったことを後悔する。

あるいは見た目が気に入って机を買ってみたけれども、自分の部屋に入らないということもある。

先に、「なぜ何のために必要かを考えて物を買うことが大切ということである」と書いた。何よりも買うのは「この自分」なのである。

自分にふさわしいものを買わなければ買っても意味がない。時間とお金と労力を無駄にするだけで、嫌な思いをするだけである。

情緒的に成熟した人の第一印象は正しいことが多い。信じるに値する。情緒的に成熟した人は自己執着を離れている。だから相手そのものを見る。そこで相手の本質を見抜く。

しかし情緒的に未成熟な人の第一印象は間違いが多い。なぜなら情緒的に未成熟な人は相手を見ていないからである。相手が自分をどう思っているかを気にして、相手に自分をよく印象づけることしか考えていない。

心の底が孤独だから表面の優しさにすぐに騙される。いずれにしろ自己執着が激しいから相手が見えない。相手の人柄には関心がなく、相手が自分を褒めてくれるかどうかにしか関心がない。

劣等感が激しいから褒められると舞い上がる。そして一目惚れする。劣等感が激しいからけなされると深く傷つく。相手を嫌いになる。

「理想の人が見つかった」などというのはこの心理である。英雄崇拝も同じであろう。

熱しやすく冷めやすい人も同じである。自分が深く求めている人がいて、ある人をその「求めていた人」と見なすことで熱する。しかし現実にはそのような人はいないからすぐに冷める。

目の前の現実のその人を見ていないで、心の中の憧れの人を目の前の人を通して見ているだけである。これを心理的に外化という。

外化とはありのままの自分の心の中で起きていることを外で起きていることと思ってしまうことである。

自分の憧れが強すぎて、ある人を現実のその人を見ないで「求めていた人」と見なしてしまう。自分の深い依存の欲求を満たそうとして、その人が自分の依存心を満たしてくれると見なしてしまう。

しかし現実にはそのような人はいないからすぐに冷める。怖い環境である人の顔を見せて、その人がどういう人であるかを判断させる。

すると「悪い人」と判断する傾向にある。自分が怖いと、人を見ると「悪い人」に見える。自分の恐怖感を相手に外化したのである。

依存心の強い人は、自分のわがままを満たしてくれる人を求めている。いい歳をして、無責任な子ども時代のような世界を自分に与えてくれる人を求めている。それを「あの人」が与えてくれると勝手に思い込み、熱を上げる。

恋人の顔は「あばたもえくぼ」という。好きな相手を見ているようであるが、相手という鏡に映った自分の心を見ているに過ぎない。

(註1)H. Jackson Brown, Jr., Lifeʼs Little Instruction Book, Rutledge Hill Press, 1994,『名言は人生を拓く』加藤諦三訳、1994年、講談社

【著者紹介】加藤諦三(かとう・たいぞう)
1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

 

著者紹介

加藤諦三(かとう・たいぞう)

早稲田大学名誉教授、元ハーヴァード大学ライシャワー研究所客員研究員

1938年、東京生まれ。東京大学教養学部教養学科を経て、同大学院社会学研究科修士課程を修了。1973年以来、度々、ハーヴァード大学研究員を務める。現在、早稲田大学名誉教授、日本精神衛生学会顧問、ニッポン放送系列ラジオ番組「テレフォン人生相談」は半世紀ものあいだレギュラーパーソナリティを務める。

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