若年性アルツハイマーの母を20歳から19年間介護する、フリーアナウンサーで社会福祉士の岩佐まりさん。在宅介護を支援するための個人事務所「陽だまりオフィス」を立ち上げ、介護に関する相談の受け付けや、全国での講演会活動を行っています。
認知症介護がはじまったら? デイサービスに行きたがらなかったら?? 認知症の家族に延命治療をするか、判断が委ねられたら...??? 岩佐さんに、明日からの介護生活に役立つアドバイスをいただきました。
※本稿は、岩佐まり著『認知症介護の話をしよう』(日東書院本社)より、一部抜粋・編集したものです
「家族会」は認知症介護の強い味方
認知症の本人や家族を対象にした家族会は、日本各地で開催されています。家族会にはそれぞれ個性がありますが、認知症介護の悩み相談や情報交換ができる場という面では共通していると思います。
それだけではありません。同じ境遇の仲間に出会うことで心強くなり、気持ちが理解されることで楽になり、明日の笑顔の介護に繋がっていきます。仲間に支えられ、ときには自分が仲間を支える経験ができる家族会。
認知症介護を始めたら、ぜひお近くの家族会を探してみてください。
早めに介護から離れる時間をつくる
介護が始まったら、できるだけ早い段階で、デイサービスやショートステイを利用し、家族が介護から離れる時間を作っていくことは理想のかたちです。
しかし、認知症の方がデイサービスを拒否することはよくあることです。特に若年性認知症の場合は、周囲との年齢差に驚き、なかなかその場に馴染めないという問題も出てきます。
私の母も最初はデイサービスを嫌がりました。頑なに嫌がるので「動物園に行こう」「ちょっとお散歩しようね」などと、嘘をついてデイサービスへ連れ出すこともありました。
当時私は、ケーブルテレビのキャスターをしていましたから、母がデイサービスに行ってくれない限り、仕事ができなかったのです。
嘘をついてでも必死にデイサービスへ行ける方法を考えたわけですが、この状況が、逆によかったのかもしれません。早い段階から、介護から離れる時間を確保し、自分の精神の安定を保つことができたからです。
嘘をつくことは残酷なようですが、介護では「嘘も方便」だと思っています。介護をする人が倒れてしまっては、そもそも介護が成り立たず、介護される側も不幸になります。
それに、時間はかかるかもしれませんが、デイサービスに馴染むことができたら、本人の生活にもメリハリがつくものです。私の母なんて、いつの間にか大好きな職員さんができて、手を繋いでスキップしてデイサービスへ行くようになりました。あれだけ嫌がっていたのに。
これからの在宅介護のためにも上手に嘘をついて、デイサービスの職員さんの協力も得ながら、介護者の自由な時間を確保するようにしてください。
「延命治療」の2つの意味
私は、胃ろうがすべて延命措置であるとは思いません。延命措置というのは、終末期に一時的に命を延ばす行為です。
延命措置を望まない、という方はたくさんいます。でもここで考えてみていただきたいのですが、延命治療を望まない皆さんが、もし明日、何かの理由で口からものを食べられなくなったとき、胃ろうをして生きることを望みますか? それとも死を受け入れますか?
胃ろう=延命措置という考えに立つならば、死を受け入れることになりますよね。それでいいのでしょうか。
胃ろうの造設は、二度と口からものを食べられなくなることを意味するのではありません。回復次第では再び口からものを食べることも可能だということを忘れてはなりません。
だとすれば、私は、胃ろうには「延命治療」と「積極的な治療」の2つの意味があると思います。この先に回復の可能性を持ちながら胃ろうを選択することは、積極的な治療と言えるのではないでしょうか。
皆さんが今後、胃ろうの判断を迫られるようなことがあったら、胃ろう=全て延命措置と捉えずに、主治医からしっかりと話を聞き、決断してほしいと願っています。積極的な医療としての胃ろうもありえるからです。
【著者紹介】岩佐まり(いわさ・まり)
フリーアナウンサー、社会福祉士。55歳で物忘れが始まった若年性アルツハイマー型認知症の母を、20歳から19年間介護している。現在は、要介護5となった母と夫との3人暮らし。在宅介護を支援するための個人事務所として「陽だまりオフィス」を立ち上げ、相談の受付や、全国での講演会活動を行う。2009年よりブログ「若年性アルツハイマーの母と生きる」を開始。同じ介護で苦しむ人の共感を呼び月間総アクセス数300万PVを超える人気ブログとなる。その後数々のテレビ番組でも特集され話題となり、2021年、TBSドキュメンタリー映画祭にて「お母ちゃんが私の名前を忘れた日~若年性アルツハイマーの母と生きる~」が上映される。著書に『若年性アルツハイマーの母と生きる』(2015,KADOKAWAメディアファクトリー)がある。