認知症のある人の心と身体には、どんな問題が起きているのだろうか。
地域や社会の課題解決のためのソーシャルデザインに取り組む筧裕介氏は、認知症を持つ人やその家族の"生きづらさ"を理解し解消していくために、認知症のある当事者100名へのインタビューを重ね、本人たちが実際に見ている世界を伝える書籍『認知症世界の歩き方』を刊行した。
本書は、13の旅ストーリー仕立てになっており、認知症における困りごとを実際に体験できるような内容となっている。そのなかの"はじめに"から一部を紹介したい。
※本稿は、筧裕介 (著), 認知症未来共創ハブほか (監修)『認知症世界の歩き方』(ライツ社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
とにかく、「本人」の視点で認知症を知ることのできる本
認知症のある方の心と身体には、どんな問題が起きているのでしょうか。そして、いつ・どこで・どのような状況で生活のしづらさを感じているのでしょうか。
いざこういうことを調べてみても、これまでに出版された本やインターネットで見つかる情報は、どれも症状を医療従事者や介護者視点の難しい言葉で説明したものばかり。
肝心の「ご本人」の視点から、その気持ちや困りごとがまとめられた情報が、ほとんど見つからないのです。
この大切な情報が不足していることが原因で、認知症に関する知識やイメージに偏りが生まれ、ご本人と、周りの方の生きづらさにつながっています。
「困っていることはあるのに、自分の口で言ってもうまく説明できない」 という、ご本人の気持ち。
「本人に何が起きているのかわからないから、どうしたらいいのかわからない」という、周りの方が抱える気持ち。
そのすれ違いを、少しでも減らすことができないか。認知症のある方ご本人に起こっていること、ご本人が感じていることをより多くの人に理解してもらいたいというのが、この本をつくった一番の思いです。
「認知症のある方が生きている世界」を、実際に見られるように
とはいえ、認知症のある方が抱えるトラブルを理解するのは簡単なことではありません。そこでわたしたちは、認知症のあるご本人にインタビューを重ね、「語り」を蓄積することから始めました。その数は約100名にのぼりました。
それをもとに、認知症のある方が経験する出来事を「旅のスケッチ」と「旅行記」の形式にまとめ、誰もがわかりやすく身近に感じ、楽しみながら学べるストーリーをつくることにしました。それが、「認知症世界の歩き方」です。