重要なのは期初の役割設定
部下への評価で、本人の納得を得るのに最も重要なのは、期初の部下の役割と目標の設定です。
大事なのは、期初の部下の役割と目標が、部下自身も納得して定めたもので、上司と部下でしっかりとその中身と意義を握り合っていること。そして、一度任せた仕事の当事者は部下自身とはいえ、上司も伴走して喜怒哀楽を共にしていることです。
その上で、期末時点の評価は、部下自身が決めた目標の達成度合いに基づいて厳正に行うのです。部下自身が当初目標に向けて創意工夫し仕事を頑張っても、顧客や環境の変化の影響で、数字として業績が上がらないことは十分に起こりえます。その場合、上司も評価自体は厳しくせざるを得ません。
そうであっても、上司が伴走者として部下の努力を適切にサポートできており、今後の課題や部下の挽回の道筋を共に考える姿勢であれば、部下は上司からの評価を前向きに受け止めることができるのです。
自分の成長可能性を信じる人が伸びる
フィードバックによって、いかに部下のモチベーションと能力を高めるか。その1つのヒントとして、アメリカの心理学者キャロル・S・ドゥエックが提唱する「成長マインドセット」の考え方を紹介しましょう。
ドゥエックは、「人間の能力は、学習や経験によって伸ばせるものか、生まれ持ったもので変化しないものか」という論争が昔も今も続いているが、20年来の研究で明らかになったのは、そのどちらを信じるかによって、その人自身の未来が大きく変わることだと言います。
すなわち、「人の能力は、石版に刻まれたように変わらない」と信じている人を「固定マインドセット(fixed-mindset)」とし、「人間の基本的資質は、努力次第で伸ばすことができる」という信念を持っている人を「成長マインドセット(growth-mindset)」とし、その違いでその人の成長が大きく異なってくるというのです。
固定マインドセットは自分に限界をつくる
固定マインドセットの人にとって能力は固定的なので、自分の賢さ、才能、価値を実証でき確認できれば成功ですし、つまずいたら失敗です。落第点を取る、試合に負ける、会社を解雇される、人から拒絶されるといったことは、全て能力や才能がない証拠です。
挫折と同様に、努力さえも忌まわしい行為です。なぜなら、そもそも能力が高ければ努力や苦労の必要はないからです。そのため、他人からの評価を気にし、自分の有能さを示すことに腐心し、自分は勝ち組でいられるか、負け組にはならないかを、常に心配してしまうのです。
固定マインドセットの人が失敗や挫折を経験すると、「自分はダメ人間」「負け犬」「価値のない人間」などと感じ、これが自分の限界だと諦めてしまう。そして、無力感に陥り、再起・成長のための努力や工夫を放棄してしまいがちだというのです。