コロナ禍によって普及したリモートワークにより、ビジネスマンの働き方は急速な変化を遂げた。しかし、オンライン化が進んだことで、部下のマネジメントに不安を抱く管理職は少なくない。働き方の過渡期を迎えた現代で、管理職が注意すべきこととは。前川孝雄氏が解説する。
※本稿は、前川孝雄著『部下全員が活躍する上司力5つのステップ』(株式会社FeelWorks)より一部抜粋・編集したものです。
リモートで激化する「上司と部下」の関係
新型コロナウィルス感染症の世界的な拡大による急激な環境変化の中で、日本企業においてもさまざまなマネジメント課題が顕在化しました。ことに象徴的だったのは、多くの企業が十分な準備の間もなく、急きょ在宅勤務などのリモートワークを導入したことによる影響でした。
コロナ禍直後、上司層に対してリモートワーク下での部下マネジメントへの不安を訊ねた調査においては、部下の仕事ぶりが見えず、報連相に不安を持ち、サボってはいないかと疑心暗鬼に陥り、人事評価にも悩む上司の姿が浮き彫りになったのです。
しかし、今後、コロナ禍が収束しても、社内のマネジメントやコミュニケーション手段のリモート化、オンライン化は一般化するでしょう。
注目すべきは、調査で挙げられた上司の不安は、コロナ禍に関係なく、日々のマネジメントでの関心事ばかりであること。実は、真面目で優秀なプレーヤーだった上司ほど、こうした悩みを抱えがちです。コロナ禍で新たな問題が起こったというよりも、もともとあった問題が強く顕在化したといえるでしょう。
「部下の仕事ぶりが見えない」「思うように成果を上げられない」という不安と焦りから、上司は部下への監視や統制を強めがちです。
実際に、リモートワークになり、熱心な上司ほど部下の仕事時間の管理を徹底し、報告を執拗に求め、仕事内容に過渡に干渉し、指示命令を多発する例や、ITツールで常時監視することで部下がメンタルを病んでしまう例なども生じています。
熱心な上司が陥る「5つの落とし穴」
では、この真面目な上司が陥りがちなリスクを、どのように理解すればよいでしょうか。ハーバード・ビジネススクールでリーダーシップを教えるリンダ・ヒル教授が、新任管理職にありがちな問題行動を調査分析して明らかにした「5つの落とし穴」がヒントになります。
(1)隘路に入り込む
・狭い路地に迷い込んだように周囲が見えなくなり、自分で全てを解決しようとする。
(2)批判を否定的に受け止める
・部下の異なる意見を自分への批判と受け止め、聞き入れられなくなる。
(3)威圧的である
・管理職の自分に権限があるからと、一方的に命令や叱責を行う。
(4)拙速に結論を出す
・部下の意見や状況を顧みず早く解決しようと、決めつけて判断する。
(5)マイクロ・マネジメントに走る
・部下を自分の操り人形のように微に入り細に入り指示し、動かそうとする。
こうなると、部下の心は離れてしまい、やる気を失い、マネジメントは空回りし始めます。すなわち、早い成果を出そうとの焦りが、かえって成果を遠のかせるジレンマ(=クイック・ウィン・パラドックス)の罠に陥ってしまうのです。
クイック・ウィン・パラドックスはコロナ禍以前に打ち出されていたコンセプトですが、部下の仕事ぶりが見えづらい焦りから、さらに起こりやすくなっていると言えます。つまり、リモートワークの急速な普及によって、本質的なマネジメントの変革が待ったなしの急務になったと言えるのです。
これを機に、上司に求められる本来の役割を正しく捉え直し自己変革を果たし、上司の本領を発揮することが望まれます。そこで、マネジメントに変革が求められる、より本質的な時代背景を俯瞰しておきましょう。