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日本の雑誌がいち早く取り入れた? 「星占い文化」が広まった意外な背景

鏡リュウジ(占星術研究家・翻訳家)、望月麻衣(作家)

2023年06月13日 公開

 

英語圏よりも先取りしていた! 日本の星占い文化

【望月】そう考えると、今の星占いの形が確立したのはごく最近なんですね。ちなみに、日本ではいつ頃から星占いが浸透していったのでしょうか?

【鏡】日本に一気に星占いが広がったのは1966年、占星術師・門馬寛明著『西洋占星術』がきっかけでした。ここでお気づきかもしれませんが、英語圏の『Sun Signs』は1968年出版。門馬さんの『西洋占星術』は1966年出版です。つまり、西洋占星術は英語圏よりも2年も早く、日本に浸透していたんです。

もう1つ言うと、1925年には『生まれ月の神秘』という本を、あの作曲家の山田耕筰さんが出されています。そう、「赤とんぼ」などで有名な偉大な音楽家の山田耕筰ですよ!

この本は、厳密にいえば「生まれ月」による性格占いの本ですが、書かれている内容は完全に星占いなんです。大正14年7月5日に初版、同年9月には5刷と、驚異的なスピードで重版されているところからも、当時の人々からの人気ぶりが伺えますよね。

その後、星占いが現在のような市民権を得たのは、1970年、1971年にそれぞれ女性ファッション誌『anan(アンアン)』と『non-no(ノンノ)』が星占いの連載をスタートしたことがきっかけです。当初から誌面では大きく取り上げられ、まさに「キラーコンテンツ」でした。星占いは若い女性のもの、特に恋愛を占うものという印象が強くなったのはここからですね。

【望月】ちなみに、『誕生日事典 366日の「魔法の言葉」』では、占星術と一緒に用いたという「数秘術」ですが、こちらにも起源などはあるのでしょうか。

【鏡】数字の意味については元々普遍的なものがありまして、ピタゴラスの時代、つまり古代ギリシアからあるんですね。ただ、誕生日をもとにして個人の占いに応用されるようになったのは20世紀に入ってからです。

現代数秘術の祖とされる、アメリカのミセス・ヴァリエッタという女性の功績が大きくその著書によって世界に広まっていきました。余談ではありますが、「誕生石」もここ最近確立されたものの1つなんですよ。

 

星占いに突如登場して消えた!?「へびつかい座」の謎

【望月】実は私、鏡先生にずっとお聞きしたかったことがあるんです。ちょっと前ですが、色々な星座占いに突如「へびつかい座」が加わったことがありましたよね? でも、いつの間にか再び消えていました。あれは一体何だったのか、教えていただきたいなと思いまして。

【鏡】それはですね、国際天文学連合(International Astronomical Union:IAU)という組織がありまして。

当時、連合の役職を務めていた天文学博士のジャクリーン・ミットン氏が「占星術師たちが使っている12星座は実際の天体とは"ズレて"いる。本来の天体の動きに則って占星術をするならば、"へびつかい座"を入れないとおかしい」といった趣旨の批判記事を新聞に載せたことがあったんですね。

まあ、これは実際当たっていて、占星術で用いている星座はサイン、実際に見えている星座はコンステレーションといって別物。しかも占星術が体系化された時代と今ではサインとコンステレーションの位置が大きく変わっています。

そのために天文学の立場から占星術は実際の天体の位置にも対応していないと批判し、本当に『星占い』をするなら13の星座を入れて星座の境界線も変えなきゃだめだといったわけです。一種のパロディ的な痛烈な占星術批判です。ほんまやったらこっちやろ、という「イケズ」ですね。

【望月】イケズな「ツッコミ記事」ということですね。

【鏡】そもそも、天文学者にとって占星術師とは、「科学教育」を阻害する存在なので、基本的に仲が良くないんです。ですから、ジャクリーン・ミットン氏も占星術家に対して、"イケズ"なことをパロディ的に書いたわけですね。

ですが、日本のメディアの中には"イケズ"を真に受けてしまったところもあって、「占星術は13星座にするべきだ」といった論調になり、実際一部の占星術師は「へびつかい座」を加えた星占いに便乗するかたちなりました。

もちろん、新しい占いが出てくるのは僕も反対はしませんが、12星座を13星座にする、しかも占星術が誕生した文化圏ではない国で勝手に改変を行うというのは、文化の破壊でしかないんですよね。

ですから僕は、「へびつかい座」には反対したんです。イギリスの占星術協会も、すぐに反論していました。とまあそんなこんなで、一時期は「へびつかい座」が世間を賑わせた時期もありましたが、今は登場したりしなかったりする、という感じでしょうか。

【望月】今教えてくださった、「天文学者と占星術師は仲が良くない」というお話も興味深いですね。

【鏡】もちろん、天文学者のみなさん全員がジャクリーン・ミットン氏と同じとは限りません。例えば、日本のロケット開発の父と呼ばれている糸川英夫さんは偉大な天文学者でもありますが、同時に占星術にも造詣が深く、また占星術普及に貢献されたくらい。

『糸川英夫の細密占星術』という、日本を代表するホロスコープ占星術の本も出されています。この科学者の中で占星術という非科学的なものがどう科学と共存していたのか、興味深いです。

それに、冥王星を惑星から準惑星に変更した際の中心人物の一人、天文学者のマイケル・ブラウン氏は自身のブログで、「私は占星術家が好きだ」というコメントをハートマーク付きで出したことがあります。

彼は科学者なので占星術を信じているわけではありません。ですが、占星術家が行ってきた営みは「星を愛する」からこそであり、その点においては自分と同じである。だから、占星術そのものは信じないけれど、占星術家たちのことは愛している、と。

このお二人のように、科学教育とは別視点で占星術を捉える天文学者の方たちがいらっしゃることも、僕としては付け加えておきたいところですね。占星術は科学とは別なかたちで星と人生を結び付ける、詩的なアートだと僕は思っています。

 

【鏡リュウジ(かがみ・りゅうじ)】

占星術研究家・翻訳家。国際基督教大学卒業、同大学院修士課程修了(比較文化)。占星術の心理学的アプローチを日本に紹介し、従来の「占い」のイメージを一新。占星術の背景となっている古代ギリシャ哲学や神話学、ヨーロッパ文化史等にも造形が深く、日本の占星術シーンをつねにリードしている。英国占星術協会会員。日本トランスパーソナル学会理事。平安女学院大学客員教授。京都文教大学客員教授。東京アストロロジースクール代表講師。

著書に『鏡リュウジの占星術の教科書ⅠⅡⅢ』『占星術の文化誌』、訳書にハーヴェイ夫妻著『月と太陽でわかる性格事典』、ヒルマン著『魂のコード』、グリーン著『占星術とユング心理学』等多数。責任編集をつとめたユリイカ増刊号『タロットの世界』は学術的アプローチが話題となる。

【望月麻衣(もちづき・まい)】

作家。北海道生まれ。2013年にエブリスタ主催第2回電子書籍大賞受賞し、作家デビュー。京都を舞台にした『わが家は祇園の拝み屋さん』シリーズ、『京都寺町三条のホームズ』シリーズなどで多くの読者の支持を得ている。2016年『京都寺町三条のホームズ』で第4回京都本大賞を受賞する。近著に『満月珈琲店の星詠み』『京都船岡山アストロロジー』『京都 梅咲菖蒲の嫁ぎ先』などがある。京都府在住。

 

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