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医師が解説する「60代からの脂質制限」が体に及ぼす悪影響

和田秀樹(精神科医)

2023年08月11日 公開 2023年11月20日 更新

食事の際に肉や卵を控えるなど、メタボ対策に気を使っている方は多くいらっしゃるでしょう。しかし医師の和田秀樹さんは、60代からのダイエットでは逆効果だといいます。一体それは何故でしょうか? 和田さんが高齢者ほど「脂質を摂取すべき」と語る理由について、詳しく解説します。

※本稿は、和田秀樹著『頭がいい人、悪い人の健康法』(PHP新書)から一部を抜粋し、編集したものです。

 

高齢になるほど「足りない害」が大きくなる

健康長寿であるためには、病気を治してもとの状態にしただけでは不十分です。これからは"人生100年時代"だとさらりといわれますが、そのためには70歳や80歳で老人然としょぼくれているわけにはいきません。

つまり、70歳、80歳で年齢相応では満足できず、いま以上に若返りたいとか、もっと元気になりたいと願う人も多いはずです。さらには、できれば50歳くらいの体に戻りたいというニーズも出てくるはずです。そうあってこその健康長寿です。

ですから、いま以上に元気になるためには、「足し算」が大切です。

ところが、日本人は概して、「引き算」が健康長寿の秘訣だと思い込んでいるフシがあります。みなさんも、節制やがまんすることが健康にいいと思ってはいないでしょうか。

「歳をとったから、野菜中心の食事にしている」
「コレステロールが心配だから、肉類は控える」

そう考えている人は少なくありません。さらに、太っているのは不健康、ダイエットをすれば健康になれる、と信じている人もたくさんいます。

でも、こうした「引き算健康法」は間違っています。少なくとも60代以降のダイエットは健康には結びつかず、むしろマイナスになります。

ある程度以上、歳をとると、一般的には足りないほうが、余っているよりも体や脳に悪影響を及ぼします。しかも、歳をとればとるほど、足りないことによる影響が出やすくなります。

60代以降のダイエットは、健康には逆効果でしかありません。

何かと嫌われているコレステロールも、体にとって大切な栄養素の一つです。細胞壁の材料がコレステロールなので、不足すると免疫細胞も正常に働かなくなります。つまり、免疫力が下がります。

免疫細胞だけではありません。コレステロールはさまざまな細胞の細胞壁の材料なので、不足すると体がしぼんで見えるようになり、肌もツヤがなくなってきます。脳にセロトニンを運ぶことにも関係しているので、不足すると、うつのようになって元気がなくなります。

コレステロールを気にして肉や卵を減らすのは、しょぼくれた老人への近道といっても過言ではありません。年齢とともに栄養の吸収も悪くなるので、むしろ意識して積極的に肉や卵を摂ったほうがいいのです。

つまり、「足し算」の健康法で心と体を整えていくべきです。

このように、順を追った思考で納得できるのは、やはり「頭がいい人」だといえます。日頃から、データをもとに自分で論理的な思考を進めることを心がければ、頭のよさをさらに鍛えていくことができるでしょう。

 

「引き算」が前提のメタボ対策からは卒業しよう

実際、日本老年医学会や東京都医師会は、「歳をとったらメタボ対策はやめて、フレイル予防に切り替えましょう」とホームページ上で明記しています。「フレイル」とは、加齢にともなう虚弱状態を意味しており、健康から要介護へと移行する途中の時期を指しています。

年齢を重ねると、誰しも、ちょっとやせてきた、走るとすぐに息切れする、前より疲れやすい、出かけるのが億劫だと感じることがありますが、これがフレイルの入口に立っている状態です。

放っておくと、体も心も、さらに社会的なつながりも弱くなって、本格的な要介護の状態へと進んでいくわけです。

フレイルには、①体の虚弱、②こころと認知の虚弱、③社会性の虚弱、という3つの要素がありますが、メタボ対策は、少なくとも②と③への近道となります。つまり、「サルコペニア」と呼ばれる筋肉の衰えに直結します。

サルコペニアを防ぎ、筋肉を維持するには、まず肉や魚、卵、乳製品といったタンパク質を豊富に含む食事によって、筋肉の材料を体に取り入れることが必須です。もちろん、歩いたり、スクワットをしたり、運動をしたりすることも必要です。

でも、メタボを気にして肉類は控えているといった食生活では、筋肉は材料不足で細くなって衰えていきます。その理由の1つは、加齢とともにタンパク質から筋肉をつくるスピードが低下するからであり、栄養(とくにタンパク質)摂取量の不足でますます筋肉が落ちるからです。

また、肉類には、セロトニンの原料となるアミノ酸、トリプトファン、セロトニンを脳へと運ぶために必要なコレステロールが含まれます。心を元気にするためにも、「引き算」になりがちなメタボ対策は卒業する必要があります。年齢とともに、意識して「足し算」をすることが重要になります。

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「足し算」をするには栄養学が大切

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