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日銀新総裁はどう決まった? 評論家が「植田和男氏だけが適任」と語る理由

池田健三郎(経済評論家/政策アナリスト)

2023年09月20日 公開

長らくデフレが続いていると思っていたら、いつの間にかインフレが襲来し、所得が必ずしも十分に増えない中で身近な商品・サービスが次々に値上がりしています。人生100年時代、少しでもゆとりある生活を送りたいなら、今この瞬間から「お金」に対する考え方を改める必要があります。

今回は元日銀マンであり、経済評論家・政策アナリストの池田健三郎氏が、日銀新総裁の植田氏について語っていきます。

※本稿は、池田健三郎著『「新しい資本主義」の教科書』(日東書院本社)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

誰がやっても「茨の道」を進むしかない

日本銀行新総裁の植田和男氏については、総合的に見ると良い人選であったと思います。なぜかというと、結局、誰がやっても「茨の道」を進むしかない中で、その困難に立ち向かうには彼以外には適任者がいないと思うからです。

黒田総裁の下での副総裁経験者は、自分が総裁になったからといって、「実は黒田さんの政策はおかしいと思っていた......」などと掌返しするにはいかない立場なのです。

この点、植田氏は、筆者がまだ日銀で勤務していたころ、日本銀行法改正(1998年施行)により、名実ともに中央銀行の独立性と透明性が保証されたうえで審議委員の合議で政策を決めるというシステムになり、議事録も10年経ったら公開するという先進国らしい仕組みが整えられた際に、審議委員に就任した最初のメンバーです。

植田氏は学者からの総裁就任で、日銀の歴史としては異例であったものの、ほかの先進諸国からみればまったく違和感のない人事であったといえましょう。

アカデミズムの中にいたPh.D. (博士号)保有者が中央銀行のトップを担うということは、グローバルスタンダードに照らし、ごく標準的なことでまったく珍しくありません。これまでそういう機会が皆無であった我が国のほうがむしろ異様でした。

 

マーケットとのコミュニケーションが重要

言うまでもなく、日銀総裁は組織のトップとして日々決断を迫られる孤独な立場であり、その責任の重さは計り知れないものです。

植田氏ほどの方であれば、すでに経済学者としての地位を確立されたことに加え、今後も例えば外資系投資銀行などで高収入を得ることも難しくない中で、年収3500万円程度の総裁職を引き受けて金融政策の舵取りを委ねられる重圧は、決して若くはない年齢をも踏まえると、易々と受け入れられるものではなかったと推定します。

そうした意味からも、新しい日銀総裁は非常にチャレンジングな人でなければ務まらないとみられており、能力面と就任環境の両面から植田氏がまさに適任。むしろ植田氏という選択肢が存在したことが幸いであったと、一国民としても安堵しています。

新総裁候補として植田氏の名前が出たその日は、「緩和が見直されるのではないか?」という観測からマーケットが少々揺れました。緩和見直しとなれば金利差が縮小するため、早々に為替市場では円高が進んだわけです。

しかし、植田氏はすぐにぶら下がり取材に応じ、「現状の金融政策が適切である」旨の発言をしてマーケットを落ち着かせたので、そうしたマーケットとのコミュニケーションにも長けている人物、という評価が多く聞かれました。

ちなみに、かつて審議委員であった植田氏の政策委員会での発言は(すでに10年以上経過しているので議事録で確認できます)、非常に穏当、妥当なものであったということを、公共政策を専門とし日銀政策委員会の議事録分析に取り組んできた筆者はよく知っています。

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日銀新総裁の仕事は信用不安を台頭させないこと

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