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日銀新総裁はどう決まった? 評論家が「植田和男氏だけが適任」と語る理由

池田健三郎(経済評論家/政策アナリスト)

2023年09月20日 公開

 

日銀新総裁の仕事は信用不安を台頭させないこと

植田和男・新総裁に対しては、並外れた頭脳の持ち主で、極めて聡明な方であることがさまざまに報じられる一方、「学者ゆえに政治やマーケットなど、切った張ったの勝負をやっている人々とコミュニケーションを取っていくのは難しいのでは」という声も聞かれますが、そのようなことはないでしょう。

現に、彼の学者としてのキャリアの中でも、彼の教えを受けて役所や政界に行った人は少なからずいますし、マーケットの最前線でシビアなビジネスを手掛けている人たちもいます。そうした相手ともずっとコミュニケーションを取ってきたのですから、「人脈がない」という指摘も当たらないでしょう。

象牙の塔に閉じこもって黙々と論文を書いているだけといったタイプの学者ではなく、非常にコミュニケーションが巧みな方とみています。

植田氏が総裁候補に浮上した際、週刊誌は、20年以上前の日銀政策委員会の審議委員だった頃、六本木の高級クラブ通いを報じられていたことを取り上げ、「庶民の気持ちが分かるのか」というお決まりのフレーズで蒸し返しの記事を掲載しています。

しかし、むしろそういう幅広さがある学者だから信認するに足る人物ともいえます。夜の世界のことも知らず、机上の理論だけを重視するタイプの学者であれば、政策も偏りがちになるリスクを勘案しなければなりません。

学者としては学術的見識のみならず、人間としての幅広い識見なしに、とても今後の日銀総裁の職務は全うできないでしょう。ちなみに、もともと大学の教授で並外れた高給取りでもなかったわけであり、当然、庶民の心も分かっておられるはずです。

世界の超一流の学者たちから、夜の世界の人たちまで、極めて幅広く世代や業種を超えたコミュニケーション能力を持っているのだから、筆者は肯定的に受け止めるべきと思っています。

もっとも、政策的には、従来の黒田路線から急激に変えるとショックが大き過ぎるので、段階的に自分の色を出していかざるを得ないでしょう。

現状の日銀は政府債務を世界のどの中央銀行よりも大量に引き受け、事実上の「財政ファイナンス」との疑いが濃厚な状況となっており、金利上昇による国債価格下落が自身の債務超過と直結するリスクを抱えているだけに、対外的には「現状においては問題になっていない」と平静を装いつつ、日銀自身の持続可能性を確保しながら、日本経済の舵取りを行わねばならないという、曲芸のような高度な技が求められる状況下にあります。

そのためには、海外の政策当局やマーケット参加者を相手に、極めて高度なコミュニケーションをとり続ける必要があるため、今後も様々な当事者との対話を非常に重視していくことになるだろうと考えます。

 

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