40代半ばで離婚...失意の女性がビーチで遭遇した「人生が変わる予兆」
2023年11月17日 公開 2024年12月16日 更新
結婚生活が終わりを迎えてからというもの、ダイアンは人生の再スタートを待っているような気分から抜けだせないでいた。そんなひとりで過ごす何度目かの夏、取材先でサーフィンと出会ったことをきっかけに、ようやくありふれた日々が動きだす。勇気をもって小さな選択を重ねることで彼女の人生は少しずつ前へ進んでいく。
※本稿は、ダイアン・カードウェル著・満園真木訳、『海に呼ばれて ロッカウェイで"わたし"を生きる』(&books/辰巳出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
仕事を理由にどこか遠くへ
しまった! 強い日ざしの照りつけるハイウェイを走っていて、〈ディッチへ〉という小さな白い案内板に遅れて気づいたときに思った。あそこだったのに! どうしてわたしはいつもこうなの? またも単純な道を間違えた自分に腹が立った。
わたしが運転をおぼえたのは30歳と遅く、それから15年ほどたったが、いまだにひとりでのナビが苦手だ。しょっちゅう曲がりそこねたり、逆方向に行ってしまって引きかえしたりしている。
運よく数分走ると交差点に出たので、そこでUターンして来た道を戻り、開いたサンルーフから射しこむ日ざしを剥きだしの肩に浴びながら曲がりくねった道を進んだ先に、ようやくサーフスポットだと聞かされた簡素な長屋風のイースト・デック・モーテルを見つけて車をとめた。
離婚から3年、光を探す日々
サーフビーチ(ブレイクとも呼ばれる)を訪れるのははじめてで、どういう場所なのか見当もつかなかった。歩いてモーテルの駐車場を抜け、ビーチを見おろす丘に出た。
ビーチの入口には一台のキャンピングカーの屋台がとまっていた。その先のベンチにウェットスーツ姿のふたりがすわっていて、かたわらにはサーフボードが寝かせて置いてあった。
砂の上に立ち、眼下に広がるインディゴブルーの海に目をやって、思わずぎょっとした。数十人のサーファーが、膝の高さほどのゆるい波の手前でパドリングし、ひょいっと立ちあがり、ボードの上で軽く跳んだり交差させた足を踏みかえたりしながら、ゆったり前に進んでいた。
濡れた黒いウェットスーツと長い黒髪を陽に光らせて岸に向かってくるひとりの女性が、腕を上下させるのに合わせて腰を振りつつ、何か呪文をつぶやいているようなその姿は、まるでブレイクの巫女か何かのようだった。
呆気にとられて、秘密の魔族──隠れた入り江に人知れず集まった妖精やニンフの群れ──に出くわしたような気分になった。これがサーフィンだなんて信じられなかった。
サーフィンというスポーツにあらためて注目したこともさほどなく、ただテレビの〈ワイド・ワールド・オブ・スポーツ〉で巨大なターコイズブルーの海をすべり落ち、そして波に呑まれる豆粒みたいな人の姿を見て、あんなそそり立つ壁のような波に乗ろうとするなんてどうかしていると思っていただけだった。
でも、テレビでずっと見てきたモンスター級の大波とはまるで違って、ここの波は小さく穏やかで、輝く海からゆっくりせりあがっては、そこに乗る者をやさしく運んでいた。
1時間ほどもその場に釘づけになっていただろうか。ときどきは砂丘に並んだ色とりどりのサーフボードや、流木と何かの布でつくった即席テントの下でギターを弾く男性、たき火あとの隣で日光浴をするビキニ姿の若い女性たちにも目がいった。
だが、そのたびに魔法の波に注意を引きもどされた。これがサーフィン? そして、心の奥から小さな次の声がした。
これならわたしにもできるかも。
思わず自分で笑いそうになったが──運動神経がいいとはいえない、都会育ちのわたしがサーフィンなんて──それでも、その考えに心がとらわれつつあるのを感じた。