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「育休明けの部下」の業務負荷の軽減は本当に必要か?

前川孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役)

2023年11月09日 公開 2024年12月16日 更新

共働き家庭が当たり前になった現代においても、依然として、子育てをしながら働き続けることは生易しいことではない。多くの女性社員が時短勤務を選択し、子育て中はキャリア形成を中断せざるを得ない状況に陥っている。それと同時に企業側も人手不足の問題を抱える中で、子どもを抱える社員とどのように向き合えば良いのか。

※本稿は、前川孝雄著「部下を活かすマネジメント"新作法"」(株式会社労務行政)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

残業規制、休暇・休業取得促進等で進む労働時間の減少

国を挙げての働き方改革の推進、何より企業の労働環境改善の努力により、残業規制や休暇・休業の取得が進み、近年、長時間労働は着実に減少傾向にある。

[図表4-2]は、総務省「労働力調査」の結果を基にリクルートワークス研究所が整理したグラフだ。この約20年間で、週60時間以上の長時間労働の就業者は2000年の13.0%から2021年の5.5%へと大幅に低下している。

また、年間就業時間で見ると、2013年の1963時間から2021年の1817時間と146時間も減少している。

また、[図表4-3]は年次有給休暇の取得率の推移を約35年間追ったもの。1988年の50.0%からバブル経済期の1993年まで一度上昇するも、2005年には46.6%へと再度低迷。しかし、近年は大きく上向き、2022年では58.3%と、1984年以降で過去最高となっている。

さらに、[図表4-4]は育児休業(以下、育休)取得率の推移を見たものだ。2022年10月に拡充された男性育休の取得促進が注視されているが、女性の育休取得率は2009年以降8割台で定着している。

2023年3月17日、進む少子化に危機感を募らせた岸田文雄首相が、産後の一定期間に男女で育休を取得した場合の給付率を"手取り10割"に引き上げると表明するなど、今後も男女共にさらなる取得率向上が期待される。

長時間労働の是正、年次有給休暇の取得促進、そして育児・介護等に関わる休暇・休業制度の運用改善と、社員のワーク・ライフ・バランス尊重と労働時間の軽減は、着実に進んでいる。

 

制度を上限まで活用して仕事の負荷を下げるべき?

こうした動向を踏まえ、上司には育児や介護などの制約を抱えた部下に対してより一層の配慮が求められる。では、どのように対処すべきか。

私の会社がこのテーマを企業研修などで取り上げる際に提示するケーススタディーを以下に紹介する。自らが育児を抱える部下の上司になったつもりで考えてほしい。

・仕事の負荷を下げてほしいと申し出てきたAさん

【上司】 育休明けの勤務について相談があるそうだけれど、どんなことかな?

【Aさん】 実は...申し訳ありませんが、仕事の負荷を下げていただけないかと思いまして。

【上司】えっ! そうなの...。やはりこれまでどおりの仕事ではきついのかな。

【Aさん】 はい。保育所の送迎もあり、残業もできません。子どもの具合が悪ければ、遅刻・早退やお休みをいただくことにもなります。夫は育児に協力的ですが、忙しい職場なので多くを頼れず、自信がありませんので。

【上司】確かにお子さんが小さいうちは、何かと大変だからね...。

【Aさん】 そこで、短時間勤務にしていただき、在宅勤務も利用の上限日数までお願いしたいのですが...。職場の皆さんにご迷惑をかけずに済む範囲の仕事にしていただきたいと思いまして...。

【上司】そうかぁ。これまでリーダー役で頑張ってくれていたのにね...。

【Aさん】はい。とても残念ですが、どうぞよろしくお願いいたします。

育休明けの女性部下から上司への相談事例だ。部下は、育児に時間が取られることから短時間勤務や在宅勤務を希望すると同時に、仕事の負荷を下げてほしいという。

育児と仕事の両立支援策が拡充されてきたとはいえ、子育てをしながら従来と同じ業務量をこなすのは並大抵のことではない。

時間当たりの仕事の密度や生産性向上がよりシビアに求められる側面もあるだろう。女性部下の申し出は切実なものと考えられる。あなたがこのケースの上司なら、どのように応じるだろうか。

部下思いの上司としては「Aさんの申し出はもっともだ。特に女性のライフステージ上では、仕事より育児や家庭が優先の時だろう」と考え、「よし、分かった! Aさんの希望どおりに人事部と調整して、短時間勤務と在宅勤務の手続きを進めよう。また、仕事も負荷が高いリーダー役から負荷の少ない仕事に改めよう!」と快く応じるかもしれない。

現状の制約状況に配慮し、制度の範囲内で育児と仕事の両立のために仕事の負荷を極力下げるべきだと考えるだろう。

しかし、こうしたマネジメントは、本当に部下本人のためになるだろうか。古いマネジメントにありがちな、アンコンシャス・バイアス(無意識の偏見)ではないか。そう疑ってみる必要がある。

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部下の本音を聞き、真の両立支援への道を共に考える

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