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「育休明けの部下」の業務負荷の軽減は本当に必要か?

前川孝雄(株式会社FeelWorks代表取締役)

2023年11月09日 公開

 

部下の本音を聞き、真の両立支援への道を共に考える

このケースの場合、上司は女性部下の表面的な申し出をそのままうのみにせず、まず部下の本音や背景をよく聴くように努めることだ。

育児と仕事の両立が大変なことは事実だ。キャリア意識が高い女性ほど、現在の日本企業の働き方自体に不安を感じている場合が多い。最近は働き方改革で過重労働は是正されつつあるものの、現場ではまだまだ急な会議やトラブル対応が生じ、残業や出張なども発生することがあるだろう。

また、中堅社員やリーダーともなれば、後輩やチームメンバーの面倒を見る中で自分ではコントロールできない突発的な事案も生じてくる。

一方の育児では、子どもの急な病気や看護など不測の事態が起こり、自分ではコントロールできない事情で仕事に遅刻したり、早退や休まざるを得ないことが頻発したりする。

そこで、職場や同僚に迷惑をかけてはいけないという責任感と共に遠慮もあって、重要な仕事を拒み、勤務時間の短縮や業務量の軽減を申し出ている可能性があるのかもしれない。

つまり、短時間勤務や仕事の負荷軽減への申し出は苦渋の選択であり、制約がある働き方をする自身が少数派である職場では、責任を果たせる自信が持てないからではないか。育児期に仕事への意欲やキャリアへの希望を表すことを躊躇しているのではないかと、本人に寄り添って考えてみることが必要だ。

何より上司は、育児と仕事の両立を希望する女性社員はみな育児優先の価値観を持っていると決めつけてはいけない。実は育児と仕事の両方を頑張りたいと願いながらも、職場の状況を慮って自信が持てずにいる部下がいるかもしれないことを理解する必要があるのだ。

とはいえ、本人に意欲がある場合でも、従来の働き方をそのまま続けることには無理がある。子育て中の社員は短時間勤務になっても、退社後の生活の負担は大変なものだ。

退社後も親の事情など関係なく分刻みで対応しなければならない育児が待っている。前記のAさんの場合、夫は協力的とはいえ多忙な職場とのこと。男性育休の取得も奨励され始めたが、現実の壁はまだ高い。

そこで、上司は「長時間で責任の重い仕事」か「短時間で責任の軽い仕事か」という二者択一の発想から脱し、「短時間で責任の重い仕事」という第三の選択肢を考えるのだ。

上司は、部下と一緒に仕事の棚卸しと進め方の見直しを行い、育児や夫の協力など家庭の状況等もよく聴き、真の両立支援への道、つまり、キャリアアップできる役割と働き方を共に考える伴走者となることが求められる。

 

制約があってもキャリアアップできる仕事を任せよう

では、上司は、具体的にどのように部下と対話し、支援に臨むべきか。

まずは部下と共に本人の仕事の精査と見直しを図ることだ。部下の仕事を、やめてもよいもの、改善すべきもの、他者と分担できるもの、本人がさらに深め伸ばしたいものに仕分けていく。その上で、短時間勤務や在宅勤務でも十分に本人の力を発揮でき、チームに貢献できる仕事を取捨選択していく。

ITツールを使えば、在宅勤務でもリアルタイムでのやりとりやオンラインでの会議参加など可能になるものも多いはずだ。仕事の段取りと職場での情報共有さえしっかりしておけば、思いのほか滞りなく進めることができるものである。

ポイントは、短時間勤務や在宅勤務によって、仕事をレベルダウンさせることなく、さらにキャリアアップできる仕事を任せることだ。そもそも時間と仕事の成果はイコールではないことを念頭に置きたい。

例えば、これまでの実績を踏まえて、同僚を束ねるリーダ役を任せることも十分考えられる。リーダーは、常に会社にいてリアルタイムで後輩を指導すべきと考えがちだ。

しかし、そもそもリーダー業務を担うとは、自分で手を動かすプレーヤー業務から人を動かす仕事、いわばマネジメント業務へと変わることとも捉え得る。工夫次第で、遠隔でも十分可能なはずだ。要所要所でメンバーと相談し、フォローをしっかり行っておけば、常時対面で顔を合わせなくてもこなすことができる。

こうした新しいチーム運営が実現すれば、育児と仕事を両立する社員の活躍のみならず、リモートワークを取り入れた働き方改革のモデルにもなるだろう。時間に制約のある部下への活躍支援の先には、さまざまな制約や事情を抱える社員が活躍し続けられる"新しい組織の姿"も見えてくるだろう。

 

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