なぜいまの60代は若いのか? 調査で見えた「世代間の差」が小さくなった理由
2023年11月21日 公開 2024年12月16日 更新
ビジネス書を中心に1冊10分で読める本の要約をお届けしているサービス「flier(フライヤー)」(https://www.flierinc.com/)。
こちらで紹介している本の中から、特にワンランク上のビジネスパーソンを目指す方に読んでほしい一冊を、CEOの大賀康史がチョイスします。
今回、紹介するのは『消齢化社会 年齢による違いが消えていく! 生き方、社会、ビジネスの未来予測』(博報堂生活総合研究所著、集英社インターナショナル)。この本がビジネスパーソンにとってどう重要なのか。何を学ぶべきなのか。詳細に解説する。
年齢によるセグメント分けがなくなっていく
今、年相応の趣味や生活と言われると少し嫌な気持ちがするかもしれません。その感情の理由は以前の年齢に対する考え方と今の実態が離れているからでしょう。タイトルにもなっている「消齢化社会」の意味が本の初めに定義されています。
「生活者の意識や好み、価値観などについて、年齢による違いが小さくなる現象「消齢化」が進んでいる社会」
最近までマーケティングの領域では年齢や性別などの客観的な指標が主要な区分だと考えられてきました。今そこに本質があるのかを突き付けているのが本書です。
例えば、フライヤーという本の要約サービスを運営している私自身、取材の中で主なターゲットとなる年代は? と聞かれることが多くあります。少しの引っ掛かりを感じながらも20代から50代を中心にほぼ均等に分布しています、というような答えをしています。
つまり、実際のところフライヤーのサービス自体も年齢のターゲティングを明示的に行っておらず、他の属性や嗜好性に注目しています。
孔子の『論語』には、年代別に人がどう変わっていくかを語られている有名な言葉がありますね。SNSでも孔子の言葉の通りです、という発信をされている人は見かけず、不惑の年になりましたが毎日悩んでばかりです、というような使われ方になっている投稿がほとんどです。
まず本当に消齢化社会が到来しているのかどうか、本書の分析内容に触れながら確かめていきます。
消齢化の3類型
本書では生活定点という博報堂生活総合研究所が2年1度行っている調査をもとに、1992年から2022年の変化を追いかけています。
焼き肉が好きな人と言われて、20代~30代をイメージするかもしれません。2002年の調査では「焼き肉が好き」という調査に対して60代の人は約40%の人が好きだと答えていたのですが、2022年の調査では60代でも60%以上の人が好きだと答えているそうです。
20代の人は2002年・2022年のどちらの調査でも好きだと答えた人が70%台だったことから、年代による差が徐々に小さくなっていることがわかります。
これと同様に「携帯電話やスマホは私の生活になくてはならないものだ」という調査に対しても、高齢になるほど上昇傾向が続き、結果として年代による違いが小さくなっているという調査結果が紹介されています。
このように、生活者の気力や体力、知識の面での変化を要因として、特に上の年代の上昇傾向が強く、結果として年代の差が小さくなっていくパターンを、上昇収束型の消齢化と呼んでいます。
次に、「子どもは親の老後の経済的な面倒を見る方がよいと思う」「家庭生活よりも仕事を第一に考える方だ」というような調査に対しては、全体としてそうだと答える人が減っています。
それとともに、やはり年代による違いも小さくなっています。これを下降収束型の消齢化としています。社会から「すべき」が減り、皆がそれにとらわれずに暮らすようになったことが背景にあるようです。
もう一つのパターンは、中央収束型です。「ものやサービスの購入についてこだわる方だ」「流行やトレンド情報に関心がある」「お酒を飲む」などの調査に対しては、各年代の違いがなくなり徐々に中間の方に寄っていく傾向があります。生活者の嗜好・興味・関心について、年代の差が縮小していることがうかがえます。
上昇、下降、中央のいずれの収束パターンでも、年代による違いが小さくなっているというトレンドであることは共通しています。この現象を私たちはどう解釈すればよいのか、本書に考察が示されています。
人生ゴムバンド
年代による価値観は年齢そのものによって形成されるよりも、より時代背景や社会情勢の影響を受けると考えられています。
今の60代までは戦後生まれという点で共通しています。また1990年のバブル崩壊以降の失われた30年と言われるゼロ成長時代で、社会人としてのほとんどの時期を過ごしている点も共通です。この成長という観点での変化が乏しい期間の共有は、世代を超えて価値観を似せていく影響がありそうです。
健康寿命が長くなっていることも、重要な要素です。寿命が70年だった時代の70歳と、寿命が100年の時代の100歳は、だいたい同じであるという考え方もできます。
「人生ゴムバンド」という考え方をすると、人生100年時代の60歳は人生70年時代の40歳くらいにあたるのだそうです。今の年齢に0.7をかけると、一昔前の年齢の感覚に近づくということになります。
今、この記事を書いている私自身は40代です。子ども時代に親戚の集まりで見ていた40代と、自分の周りの40代の友人とは印象が全く異なっています。自分が成長して40代が若く見えるようになったのではなく、40代の人の外見自体が若くなっているようにも感じています。
皆さんは世代による違いをどのように感じているでしょうか。やはり、年代による違いが小さくなる傾向と、各年代の若返りを感じているのではないかと思います。
社会と人がどう変わるのか
年齢による趣味嗜好の違いが小さいことを踏まえると、まずマーケティングの世界が変わることになります。今までは30代女性というように、必ずと言っていいほどデモグラフィックが活用されていましたが、それに意味がなくなっていくでしょう。それに加えて、年功序列の考え方も、段階的に機能しなくなっていくでしょう。
年齢というヨコ串の特性よりも、その人の性格や趣味嗜好といったタテ串を主に見ていくことが求められます。よくZ世代という言葉も使われていますが、実際にはZ世代の人もそれぞれ異なっていて、世代論を振りかざすこと自体が危ういとも言えます。
世代という考え方は私たちの考える量を減らしてひとくくりにできる、というメリットがあります。ただ、それでは世の中を見る解像度が低いのかもしれません。より人そのものを理解することがマーケティング領域だけでなく、あらゆる組織で求められているようでもあります。
『FACTFULNESS』で語られたように、世界では戦争や紛争による犠牲者数も減少傾向にあるなど、よりよくなっている指標が多く見られます。その改善しつつある今よりも、さらに世の中を生きやすくしていくためには、大くくりで考えるのではなく、より高い解像度でものごとを見ていく必要がありそうです。
そして私たちの多くが〇〇代の人と見られたいのではなく、オンリーワンの存在として扱ってほしいと願っているようでもあります。その個々の人に注目していく流れはこれからも続いていくでしょう。
「消齢化社会」という言葉は、現代のトレンドをうまく表して、私たちの理解を促してくれます。今の起きている現象を応用範囲の広い概念に高めた本書は、ビジネスシーンだけでなく政治や趣味の世界など、幅広く応用されるべき一冊でしょう。