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何年も留年してた学生が一流企業に...専門医が語る「ADHDのポテンシャル」

岩波明(精神科医/昭和大学附属烏山病院病院長)

2023年10月25日 公開

発達障害の受診者の大部分は、就労はしているが、職場でなんらかの不適応を起こして受診に至ったケースが多い。成人期のADHDには、どのように対処すべきなのか? 専門医である岩波明氏が、発達障害にまつわる誤解を正し、就労への道を示す。

※本稿は、岩波明著『職場の発達障害』(PHP新書)を一部抜粋・編集したものです。

 

400万〜500万のADHDの人がいる日本

ADHDは頻度の高い疾患であり、その有病率は人口の3〜4%という研究が多いが、これより高い数字も報告されている。

いずれにしろ、日本においては、常に400万〜500万人のADHDの人が存在していることになる。そして、その大部分は、自分なりに工夫をしながら、通常の社会生活を営んでいるのである。

ADHDの症状のために、家庭内の不和や仕事における不適応をはじめとする成人期特有の問題が認識されるようになったのは、比較的最近である。社会的な視線が現在ほど厳しくなかった時代においては、ADHD的な行動パターンへの許容度は高かったと考えられる。

わが国においては、発達障害者支援法が成立し、ADHD治療薬の成人期における使用が開始されたことなどにより、ADHDを持つ人たちの社会生活における適応状態の改善はみられているが、現状では、十分な治療環境や支援体制が整っているとは言えない。

現在、精神科の外来を受診する成人期のADHD患者は、以下に大別される。

1.小児期から問題行動が目立ち、治療歴や療育歴があるケース(受診を中断している者も多い)

2.小児期から一定の不適応や問題行動はみられるが、大きな問題には至らず、大人になって初めてADHDが疑われ来院するケース

3.小児期からADHDの軽度の特性は認めたが、学校での適応には問題はみられず、進学、就職、昇進などの社会的転機に伴い課題が表面化したケース

4.抑うつ状態、不安など他の主訴で来院したが、ADHDと診断されたケース

この中で1のタイプは全般に少なく、発達障害の専門外来では2と3、精神科の一般の外来では4のケースが多い。

 

「復活」のポテンシャル

受診する患者において、本人の特性の内容、程度、社会適応度など、その状態、症状の違いは多様である。受診者には、社会的な成功者、高学歴で専門的な職業に就いている人も珍しくない。一方、学校では留年や中退、仕事においては転職を繰り返し、不安定な状況にいる人もしばしばみかける。

ここで興味深い点は、不登校などいったん不適応が強い状態になったケースにおいても、「復活」し一流大学に合格したり、きちんと就職する人が少なからずみられる点である。もちろん、こうした例においては、ベースの高い能力を発揮したにすぎない、という見方もできるし、本人の努力も重要な要素である。

臨床の現場では、中学、高校とほとんど引きこもりであった女性が一念発起して受験勉強をして、一流大学の経済学部に合格したことがあった(この人に投薬はしていない)。

また何年も留年、休学を繰り返し、「大学に入ってから勉強したことがまったくない」と言っていた大学生が、投薬の助けも借りて短期間に卒業に必要な単位を取得して東証一部上場の優良企業に就職し、その後も問題なく仕事を継続している例もある。

実際にこのような人たちに接していると、ADHDにはかなりのポテンシャルがあることが実感される。もっとも、逆に能力はありながらも、短期間で仕事を転々として、その結果、アルコールやギャンブルに依存してしまう人も少なからずみられるのも事実である。

このため、治療や支援のあり方としては、症状のみでなく各人の困り事、生活状況について十分に把握をし、各々のニーズに合わせた計画を立てることが必要である。症状が軽度で問題行動の目立たないケースでは、比較的社会適応の良好な例が多いので、職場環境の調整や投薬のみで改善する例が多い。

一方で、不適応の強いケースにおいては、上記に加えて障害者雇用や福祉機関の利用も含め、行政や支援機関と連携し支援を行うことが必要である。また、他の精神疾患を併存している例については、合併するうつ状態などの治療が優先されることが多い。

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成人期ADHDの治療方針

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