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精神科医が案じる「しんどさに気づけない人」...心が壊れてしまう前兆とは

藤野智哉(精神科医)

2024年08月05日 公開

日々「しんどい」と感じつつも、こんなことで弱音を吐いてはいけないと頑張りすぎてしまう人がいます。しかし我慢し続けて、自分でも気づかないうちにメンタルを壊してしまうことも...。精神科医の藤野智哉さんによる書籍『「そのままの自分」を生きてみる』から「心をラクにするコツ」を紹介します。

※本稿は、藤野智哉著『「そのままの自分」を生きてみる 精神科医が教える心がラクになるコツ』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「しんどさ」になかなか気づけない人

「しんどい状態」が普通になっている人が多いですよね。

今の日本って、賃金もなかなか上がらないし、円の価値も下がっているし、他人を助ける余裕のある人も少ないし、そもそもコロナ禍を経て、人とのつながりが希薄になっていたりします。

でも、みんな文句を言わずに、がんばって日常を続けてますよね。こんな環境では、心がしんどくなって当たり前なんです。それなのに「しんどいって言わずに、我慢してがんばるのが美徳」みたいな風潮がまだまだ日本にはあったりします。

それが普通になってしまっているのはまずい。だって、人間はそんなに強くないです。しんどい状況が続くと、気持ちがもたなくなることだってあるでしょう。でも調子悪いのがメンタルのせいだと思えなかったり、思ってはいけないという風潮もあったりするんですよね。

それに、「しんどいときほど休めなくなる」という人もいます。「みんなだってこれくらいしんどいだろう」と勝手に思ってみたり、「自分だけが甘えてるんじゃないか」と自分を責めてみたり。

そもそも「みんなが」とか「自分だけ」とか他人と比べる必要はないんです。それぞれバックグラウンドも違えば、状況も、本人の性格も何もかも違うんですから。自分が「しんどい」と思ったら、それはもう「しんどい」ってことです。

ただ、「しんどさ」になかなか気づけない人も多いです。そういう人は、「いつもと違う自分」に目を向けてみてください。

たとえば、

・なんだかイライラする
・SNSに誰かを傷つける言葉を書いてしまった
・暴飲暴食をしてしまった
・お風呂に入るのがしんどい
・朝、起きるのがつらくなってきた

などです。

普段の生活の中でこういう「いつもと違う自分」に気づいたら、「何か我慢してることやストレスになっていることはないか」を考えてみるのです。「あ、私、今ストレスいっぱいかも」「私、つらい気がする」そんな自分に気づいたら、思いきって休んだり、自分をケアするスタート地点です。

これは僕が30年以上人間をやっていてたどり着いた真理なんですが、ごはんを美味しいと思えないときは、何をやってもうまくいかない。がんばる前に、しんどい気持ちをまずはケア。これ、大事なことです。

 

メンタルをケアするタイミング

人間には一人ひとり「容量」があります。体力もメンタルも無限ではありません。けっこう、あっという間に限界に到達したりします。気づいたら起き上がれなくなっていた、会社に行こうとすると涙が止まらない......なんてことはいくらでも起こりうるのです。

しんどいときはイヤなことばかり目につくし、みんなが敵に見えるからうまくいくものもうまくいかなかったりして。怒りの沸点も低くなるし、小さいことが気になったりもします。こんなふうに「しんどい」「もうイヤ」と思ったときは、ゆっくりお風呂に入り、よく寝て、しっかり食事をとってみてください。

するとどうでしょう? 嘘みたいに疲れがとれず、相変わらずしんどいのです!

たまった疲れというのは、そんな一朝一夕でとれるものではありません。だからこそ、たまる前からケアやご自愛が必要なのです。「体」はマッサージに行ったり、ストレッチをしてケアするのに、「メンタル」は全然ケアしない人が多すぎますよね。

「疲れた」「イライラする」「なんか苦しい」と思うなら、メンタルをケアするタイミングです。

絶対大人にもイヤイヤ期ってあるよね? 何もしたくなさすぎる。こんな感じになったときは、休みをとってゴロゴロしたり、自然の中でリラックスしたり、友人とおしゃべりして発散したり、とにかく休むなり、ストレス解消できそうなことをするなり、ご自愛を開始してください。

それでもまだ、「疲れた」とか「イライラする」などと感じているうちはいいかもしれません。苦しいときより、苦しいと感じなくなったときのほうが危ないということは知っておいてほしいです。

感情が動かなくなったら要注意。何も感じないから大丈夫、ではないのです。そんなときは「助け」を求めてください。僕は精神科医ですから、気軽に精神科を受診していただくのもありだと思いますが、もし、まわりに話せる人がいるなら、「助けて」という話をしてみてもいいかもしれません。

強そうに見える人ほど助けを求めづらくて、結果、しんどくなっちゃうことが多くあります。みんな、つぶれる直前まで他人からは強く見えていたりするんですよね。傷が浅い、しんどすぎない段階で対処することが大事です。メンタルも、しんどさがたまる前からケアやご自愛が必要なんですよ。

著者紹介

藤野智哉(ふじの・ともや)

精神科医

1991年生まれ。精神科医。産業医。公認心理師。 秋田大学医学部卒業。幼少期に罹患した川崎病が原因で、心臓に冠動脈瘤という障害が残り、現在も治療を続ける。 学生時代から激しい運動を制限されるなどの葛藤と闘うなかで、医者の道を志す。 精神鑑定などの司法精神医学分野にも興味を持ち、現在は精神神経科勤務のかたわら、医療刑務所の医師としても勤務。 障害とともに生きることで学んできた考え方と、精神科医としての知見を発信しており、メディアへの出演も多数。

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