眠るのに時間がかかる、深夜や早朝に起きてしまう、熟睡ができない...。60歳以上の3人に1人が「不眠に悩む」といわれ、睡眠のストレスを抱えるシニアが増えています。本稿では、書籍『精神科医が教える 毎日がスッキリする「老後の快眠術」』より、体内時計を調整する「メラトニン」の増やし方についてご紹介します。
※本稿は、保坂隆著『精神科医が教える 毎日がスッキリする「老後の快眠術」』(PHP文庫)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
体内時計を調整する「メラトニン」が睡眠障害に有効
「メラトニンが不眠に効くらしい」「メラトニンで免疫力が上がる」といった噂が伝わり始めたのは、20年ほど前からです。そして、1993年、メラトニンを飲んだ人の眠りが深くなるというデータが公表されると、「天然の睡眠薬」として一躍有名になりました。
簡単に説明すると、メラトニンは人の体内時計と連動して、夜眠る頃に自然に分泌される脳内物質で、「睡眠ホルモン」とも呼ばれています。昼間明るい状態ではあまり出ませんが、夜暗くなると分泌量がどんどん増えて、体に睡眠の準備をさせるのです。
この分泌量が減ると、体内時計や自律神経が乱れ、不眠症などの睡眠障害を引き起こす可能性まであります。
ところが、残念なことに、メラトニンの分泌量がピークを迎えるのは十代なのです。一生のうちで幼児期に最も多く分泌され、成長期を頂点として、どんどん分泌量が減っていきます。実は、子どもがよく眠るのも、加齢とともに人の睡眠時間が短くなるのも、この分泌量が関係しています。
すなわち、良質な睡眠をとるのに欠かせないメラトニンは、年齢を重ねるにしたがって減り続け、反対に睡眠障害のリスクは上がるというわけです。
不規則な生活習慣や太陽光を浴びないのも体内時計を乱れさせ、メラトニンを減少させる原因になります。そして、うまく分泌できないと、寝る時間になっても寝つけなかったり熟睡できなくなってしまうわけです。
また、メラトニンには生活リズムを調節する作用があることから、時差ボケの治療に利用されることもあります。この時差ボケの解消法は欧米ではよく知られており、国際線のパイロットや客室乗務員の間では、メラトニンによる時差ボケ解消は広く行なわれているようです。
年齢とともに減少する睡眠ホルモン「メラトニン」を増やそう
メラトニンは睡眠の質や生活リズムを調整するだけでなく、細胞の老化や酸化を防いで病気の予防までしてくれる貴重なホルモンですから、ぜひとも増やしておきたいものです。
年齢とともに減少するので、意識的にその分を増やす努力をしなければなりません。作るには材料が必要ですが、その材料となるのは脳内の神経伝達物質「セロトニン」です。
セロトニンの不足は、うつ病の主な原因としても知られており、最近とくに注目されています。うつ病の人の多くに、メラトニンとセロトニンの不足が見られることから、ますますその重要性が認められるようになってきました。
セロトニンとメラトニンは、それぞれ自律神経系の働きに連動しています。昼間、交感神経が働いている時間はセロトニンが優位に活動し、夜になって副交感神経が優位になるとメラトニンの分泌が増加するなど、昼と夜で交互に活性化されます。
つまり、昼はセロトニンが正常に機能することで、夜は睡眠ホルモンであるメラトニンの分泌が促進され、両方の分泌がよくなると、よく眠れるようになるわけです。反対に、セロトニンが不足するとメラトニンの分泌量も減り、不眠症などの睡眠障害やうつ病にかかりやすくなるとも考えられています。
この両者の関係を考えると、メラトニンを増やすには、セロトニンも増やす必要があるということになりますね。
さらに、セロトニンを作る材料は「トリプトファン」という必須アミノ酸なので、なるべく欠かさないように摂ったほうがいいでしょう。というのも、トリプトファンは体内で合成できず、食品で補給するしかないからです。
トリプトファンの多い食品としては、牛乳やヨーグルトなどの乳製品、豆腐や味噌などの大豆製品、カツオやマグロなどの魚類、アーモンドなどのナッツ類が挙げられます。また、トリプトファン以外でも、セロトニンはビタミンやマグネシウム、ナイアシンから合成されます。
しかし、一生懸命にセロトニンを作っていても、メラトニンの分泌を妨げる習慣を取り入れていたのでは意味がありません。そこで、メラトニンの分泌を妨げる習慣も挙げておきますので参考にしてください。
まず、メラトニンは目の網膜から入る光の刺激によって影響を受けるため、睡眠前にまぶしい光を見るのはタブーです。
とくにスマホやパソコンなどの電子機器からは、ブルーライトといって脳を覚醒させる働きのある光が出ています。眠る前にこのような電子機器のブルーライトを目に入れると、メラトニンの分泌が妨げられる可能性があります。
そして、意外に気づかないのが室内のLED照明です。種類によってはブルーライトを多く発するものもあり、一度チェックしたほうがいいでしょう。電球や蛍光管を直接見るのも避けたいので、夜の室内照明はできるだけ「間接照明」を取り入れるといいでしょう。
また、お風呂好きの人の中には「熱いお湯でなければ入った気がしない」という人もいると思います。しかし、安眠という視点からは、眠る直前のあまり熱いお湯はおすすめできません。
ただし、お風呂に入っていったん体温を上げて、眠るときに急速に下がるよう計画的に行動して、眠りやすくするという方法もあります。
さらに、コーヒーや緑茶などに含まれるカフェインの覚醒作用が持続している間はメラトニンの分泌が抑制されるので、寝る時間から逆算して3時間はカフェインの摂取を控えるようにしましょう。
交感神経を興奮させるような行動も控えたほうが無難です。たとえば、夜中に激しい運動をしたり、お酒を飲んだり、ゲームに夢中になるといった行動は交感神経を刺激してメラトニンの分泌を妨げてしまいます。
もちろん、昼間に十分太陽の光を浴びたり、軽くウォーキングをしてストレスを解消するのも大事なことです。日頃からヨガやストレッチ、瞑想などで心身をリラックスさせれば、自律神経も整ってきますから、相乗効果で眠りの質も上がります。