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AIで効率化したのに、むしろ疲労が蓄積? カウンセラーが教える「いま必要な休み方」

木村章世(Smart相談室カウンセラー,保健師)

2025年08月01日 公開

休んでも休んでも疲れが取れない。有休を取得しやすくなったのに心身のコンディションはなぜか変わらない。そんな慢性的な疲労にはAIやデジタルツールの普及により生まれた、"新しいタイプの疲れ"が隠れているかもしれません。

Smart相談室カウンセラーで保健師の木村章世さんが、本当に必要な休み方を解説してくれます。

 

有給取得やAIによって時間は増えたのに、なぜこんなに疲れているのか?


出典:一般社団法人日本リカバリー協会 (2024)健康および生活状況に関する調査「ココロの体力測定」

一般社団法人日本リカバリー協会の健康および生活状況に関する調査「ココロの体力測定」によると、2023年から2024年の疲労状況の推移をみると、「疲れている人(高頻度)」は2023年の38.6%から2024年39.8%と微増し、疲れている人(高頻度)は計測以来のピークを更新しています(*1)。

厚生労働省の調査によれば、2019年に義務化された「年5日の年次有給休暇の確実な取得」により、有給休暇の取得率は過去40年間で最高水準を記録しました(*2)。

一見すると、「休みが取りやすくなった」とも言える状況ですが、現実には「休んでも疲れが取れない」と感じている人が多いのが実情です。

その背景には、AIやデジタルツールの急速な普及によって生まれた、"新しいタイプの疲れ"があるのかもしれません。テクノロジーの進化で暮らしや仕事は格段に便利になった一方で、「常に誰かとつながっていること」が当たり前となり、心や体に知らず知らずのうちに負荷がかかっています。

SNSやビジネスチャットの通知が途切れることなく届く今、頭を休めるはずの隙間時間さえも侵食され、「心の整理がつかないまま日常に戻る」という悪循環に陥っている人も少なくありません。

 

AI社会が生んだ「新・疲労のかたち」

AIの導入や生成AIの普及により、業務のスピードやアウトプットが「見える化」され、レポート作成やチャットの返信、会議中の発言まで数値で比較される時代になりました。これにより、「人間としての価値」が評価されているような感覚にプレッシャーを感じる人が増えています。

さらに、「とりあえずAIで調べて」「何か案を出して」といった依頼が日常化し、常に何かを生み出し続けることが求められる中、思考を休める時間も奪われつつあります。実際に、週52時間以上のスクリーンタイムをもつ若手社員は、脳疲労やメンタル不調のリスクが高まるという調査結果も出ています(*3)。

加えて、「技術に強い人こそ活躍できる」という期待が無言のプレッシャーとなり、「新しいツールに遅れてはいけない」「もっと詳しくなければ」と自らを追い込む社員も少なくありません。

こうした状況が続くと、「自分はもうついていけないのでは」「質問するのも怖い」といった感情が強まり、孤立感・無力感・不安感といった心理的ストレスを深めていく可能性があります。

 

保健師が教える、本当に必要な休み方とは?

1.AI活用による業務効率化と心身のバランスの重要性

ルーチン業務の自動化や議事録作成など、AIは業務を支える存在になっています。AIの力で創造的な思考に集中できる時間が増えた一方、「考え続ける」ことで交感神経が優位になり、自律神経の乱れやストレスホルモン(コルチゾール)の過剰分泌が、免疫力の低下・睡眠障害・慢性疲労などの不調につながるリスクもあります。

 

2.「ただ寝る」「ただ休む」では心は回復しない理由

「休んでいるはずなのに、疲れが取れない」「休日で、逆に疲れてしまった」というお声を伺うことがよくあります。昼近くまでだらだら寝たり、一日中ごろごろしたり、ぼーっとしてなんとなく休日をやり過ごすような消極的な休み方をしていませんか。心の回復には、「質の良い睡眠」と心が満たされる時間を過ごす「積極的休養」が大切です。

●「質の良い睡眠」

睡眠中は副交感神経が優位になり、心身の回復が促されます。休日に寝すぎると体内リズムが乱れ、「社会的時差ボケ」を引き起こすことも。平日と大きく変わらない時間に起床し、朝日を浴びて体内時計を整えましょう。昼寝は寝つきに影響するため、長時間は避けるのがベターです。

●「積極的休養」

認知行動療法では、気分が低下しているときこそ、無理のない範囲で行動することで、達成感や楽しさが得られ、意欲が高まるとされます。休みを消極的に過ごすより、「少し動いてみる」ことが心の回復につながります。

 

3.「ゆっくり考え、話す時間も持つ」休息の重要性

思考が加速する現代では、「ゆっくり考え、話す時間」を意識的に取らないと、自分の本心を見失いがちです。立ち止まって自分と向き合うことで、流されずに意志ある選択ができるようになります。カウンセリングやジャーナリングは、その手助けとなる有効な手段です。

●カウンセリング

カウンセラーとの対話を通じて、問題が解決したり、わかってもらえたと感じたりしたときには喜びや安堵感、感情を⾔葉にすることでスッキリする「カタルシス効果(浄化作⽤)」を得ることがあります。また、自分の価値を再認識できることで自己肯定感が高まります。

●ジャーナリング

「書く瞑想」とも呼ばれるジャーナリングは、モヤモヤを言語化して思考を整理し、感情を落ち着かせる手助けになります。見返すことで自分の考え方の癖や価値観に気づき、自己理解も深まります。思うままに書けて、いつでも手軽にできるのも魅力です。

どんなに便利な時代になっても、Well-beingは、デジタルツールだけで支えられないのかもしれません。AI疲れ・情報疲れに必要なのは、"対話"というアナログなリカバリーです。カウンセリングを通じて、「考え続ける脳」から「感じ直す心」への回復を設計することが重要なのかもしれません。

*1:日本リカバリー協会「日本の疲労状況2024」
https://www.recovery.or.jp/recobar-news/5429/
*2:厚生労働省「令和6年就労条件総合調査」https://www.mhlw.go.jp/toukei/itiran/roudou/jikan/syurou/24/dl/gaikyou.pdf
*3:パーソル綜合研究所「若手従業員のメンタルヘルス不調についての定量調査」
https://rc.persol-group.co.jp/thinktank/data/young-mental-health.html

著者紹介

Smart相談室(すまーとそうだんしつ)

株式会社Smart相談室は、「働く人の『モヤモヤ』を解消し、『個人の成長』と『組織の成長』を一致させる」をミッションに、法人向けオンライン対人支援プラットフォームを開発、運営しています。
主なサービスとして、社外相談窓口サービス「Smart相談室」と、コーチングサービス「Smartマイコーチ」を展開しています。
https://smart-sou.co.jp/

木村章世(きむら・あきよ)

Smart相談室カウンセラー,保健師,EMISIA保健師事務所 代表

産業保健師として、都内総合電機メーカー、大手自動車メーカーのグループ企業複数社にて従業員の健康支援に従事。また、行政保健師として、ゆりかごから墓場まで幅広い年代への支援も経験している。現在は、EMISIA保健師事務所を開設し、中小企業で働く人の健康管理、キャリア形成をサポートしている。従業員がこころもからだも健やかで自分らしく活躍できることを目指している。

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