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時を越えて生きる古代出雲の文化

小林祥泰(国立大学法人島根大学学長)

2013年01月01日 公開 2022年12月07日 更新

 ※本稿は『歴史街道』2013年1月号より一部抜粋・編集したものです。
 

神話には意外な「古代の現実」が潜んでいるかもしれない。因幡の白兎に大国主命が教えた治療法は漢方の知識に通じる。大国主命の火傷を治療した薬は、現在、人工皮膚に使われるキトサンを含んでいた可能性がある。日本を形づくる大きな源流となった出雲の文化を、生粋の出雲人が語る!

 

蒲の穂には止血や傷を治す成分が含まれている

現在の島根県出雲市でおよそ300年、医業を営んできた家に生まれた私は医学部に進み、現在は国立大学法人島根大学の学長を務めています。生まれ育った土地柄のせいか、歴史は大好きです。ここ10年ほどは仕事のかたわら、本格的に歴史関係の本を読み、現地に足を運んだりしています。そのなかで出雲文化の素晴らしさを再発見した思いがします。

とりわけ古代の出雲は面白い。素戔鳴尊〈すさのおのみこと〉と八岐大蛇の話、大国主命の国造りと国譲りの話など、『古事記』に記されている神話のうちで出雲に関わるものが3分の1を占めています。

「神話なんて作り話ではないか」と思われる方がいるかも知れません。でも、神庭の荒神谷遺跡からその当時の日本全体の出土数を凌ぐ358本の銅剣、さらに近くの加茂岩倉遺跡から全国最多の39個の銅鐸が一度に出土したり、邪馬台国候補の纏向〈まきむく〉遺跡で見つかった土器に出雲系の影響が大きいことなど、かつてこの地には大きな繁栄を築いた王朝があり、先進的な文化があったことは確かでしょう。それが神話の土台となっているように思うのです。

また、神話は「古代の現実」が織り込まれている部分もあります。私は医学部の出身なので、医療の視点から事例を挙げましょう。

『古事記』には2つほど、薬が出てきます。1つは有名な因幡の白兎です。鰐を騙したために皮を剥がれた兎が、大国主命から「蒲の穂を傷にすり込めば元の通りになる」と教えられましたが、蒲の穂には止血や傷の治癒などを促進する成分が含まれると漢方の本に載っています。そういう医学的な知識が古代の日本にあったことを、この話から読み取れるわけです。

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 医薬の先進地域だった出雲

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