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仲村宗悟が語る「声優が向いていないと思った日々」 支えになった介護の経験

仲村宗悟(声優)

2025年09月30日 公開 2025年12月09日 更新

仲村宗悟が語る「声優が向いていないと思った日々」 支えになった介護の経験

声優・仲村宗悟さんは「辞めたい」と思うほどの壁にぶつかりながらも、日々をおだやかに過ごす工夫を大切にしてきました。

支えとなったのは、デビュー前に携わった介護の仕事で得た、人と歩み寄る姿勢や柔軟な考え方。幸せのハードルを高くしすぎない生き方が、声優としての10年を支えてきたといいます。

(取材・文:鈴木裕子)

※本稿は、月刊誌『PHP』2024年9月号より抜粋・編集したものです。

 

生活基盤を作るために取った介護の資格

僕は、最初から声優をめざしていたわけではないんです。高校卒業後にミュージシャンを志して沖縄から上京したのですが、絶対にプロになるという強い意志はありませんでした。

進路を決めるときに、自分がいちばん楽しいと思えるのは何かと考えたら、歌うことだった。親には反対されましたが、東京でアルバイトをしながら音楽の専門学校に通いました。好きな音楽のためならと思うと苦にならなかったし、精神的に追いつめられるようなこともありませんでした。

そう考えると、おおらかな気持ちでいるためには、理想を高く持ちすぎたり、「こうあるべき」という考えにとらわれたりしないほうがいいのかもしれません。「この仕事は、こうしなくちゃいけない」という思いが強すぎると、うまくいかなかったときに身動きが取れなくなる気がします。

僕にしても、ほかのことをすべて切り捨てて音楽一本に絞るというより、好きな音楽を続けるために生活の基盤を作ろうと考えました。何か資格を持っていたほうがいいかもしれないと思い、ハンディを持つ方の自立を支援するNPO法人に就職しました。そこでは、働きながら介護職の資格を取ることができたんです。

僕が担当したのは、重い障害を持っているひとり暮らしの男性の方。部屋を訪問して食事やトイレ、入浴、買い物など日常のあらゆることをお手伝いするのが仕事でした。相手の要望を汲み取れず、うまくいかないこともありましたが、そんなときは、より話し合うことを意識しました。

「イライラしてしまうのはわかるけど、そんなトゲのある言い方をされると僕も傷つきます」と伝えたり、「僕に至らないところがあったら教えてください」とお願いしたりして、歩み寄りつつ我慢しない関係を作りたかったんです。

人と話すときは、自分の思いを伝えることと、相手に興味を持つことが大切だと思います。こちらから心を開くと相手の警戒を解くことにもつながりますし、取ってつけたようなコミュニケーションは相手に見抜かれてしまいます。僕は利用者さんと一緒に映画を見たり、外を散歩したりと、共に生活することで人となりを知ろうと努めました。

その後、友達の舞台を見に行くうちに声優という仕事に出合って志すようになりましたが、声優にならなかったら介護の仕事を続けていたと思います。当時の経験は、今も僕の大きな支えになっています。

 

幸せのハードルを高くしない

声優の仕事で好きなのは、芝居がうまくいかずにくやしかったり、逆に「今の感覚よかったかも」と手応えを感じたりと、感情を揺さぶられる瞬間です。いろんな役を演じるので、負の感情もプラスの感情も、僕にとってはすごく貴重なんですよね。

もちろん最初からそう思えたわけではありません。一日の多くの時間を練習にあてて膨大なセリフを覚えても、本番になるとつまずいてばかりでした。監督にOKをもらうことができず、僕だけ居残り練習の日々。「できないのは自分だけで、この仕事は向いていないのかも」と落ち込むことも多かったです。

でも、先輩方が監督から指導を受けている現場を見せてもらえたときに気づきました。僕から見たら非の打ち所がないように思える先輩も、何度もダメ出しをされている。それは必ずしも悪いことではなくて、ダメ出しをされるのは「君ならもっとできるはずだ」と期待されているからで、能力を引き出せるチャンスなんです。

やり直すたびによくなっていく先輩のお芝居を目の当たりにして、監督は自分に対しても、可能性を感じてやり直しの機会を与えてくれているとわかりました。それからは、失敗したり、思うような芝居ができなかったりしても、それを前向きなくやしさとして練習に励むようになりました。

オーディションに落ちたときはくやしいですが、「なぜあの人が受かって僕が落ちるんだ」とくさっていたら、そこから前には進めない。だから、「あの人と自分の差はどこにあったのか」「自分に何が足りないのか」と自己分析して改善していきます。

こういう考え方は、声優の仕事に限らずすべてのことに役立っていて、他人と自分を比べて焦ったり、誰かをうらやんだりということがなく、おだやかな気持ちで日々を過ごせている気がします。

今は情報があふれる時代で、SNSで他人の成功体験や優雅な日常を目にするから、幸せのハードルが高くなっていますよね。僕は身近にある幸せに敏感でいたいし、自分の置かれた状況でできることを楽しみたい。だから、おいしいごはんを食べたり、ふらっと入ったお店でとなりの人とお酒を飲んだりするだけで最高だと思うんです(笑)。

声優になって今年で10年になりますが、もともとすごく飽き性なので、ずっと同じ仕事をやってこられたなんて、自分でもおどろきます。続けてこられたのは、何事も決めつけないことを大切にしているからかもしれません。お声がけいただいた仕事は、何でもやってみたいと思っています。

人と出会うなかでさまざまな考え方を学んだり、初めての経験で感動を味わえたりと、一つひとつが自分のなかにある「木」を育てる要素だと思います。これからもいろんな経験をして、自分の可能性を広げていきたいですね。

 

【仲村宗悟(なかむら・しゅうご)】
1988年、沖縄県生まれ。2014年にデビュー。19年、第13回声優アワード新人男優賞を受賞。アニメ「ブルーロック」(テレビ朝日系)に出演するほか、”22年に映画「THE FIRST SLAMDUNK」で宮城リョータを演じ話題に。

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