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話が通じない人とは“脳タイプ”が異なる...科学者が説く、人間関係のモヤモヤの原因

西剛志(脳科学者)

2024年03月19日 公開 2024年05月02日 更新

「あの人とはうまく通じ合えない」「なぜわかってくれないのだろう?」「話しているとストレスを感じる」......そんな苦手な相手とのコミュニケーション方法を脳科学の観点から、解説します。

※本稿は、月刊誌『PHP』2024年4月号より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

脳のバイアスと3つのタイプ

一つの物事からイメージしたり、感じたりすることは人それぞれ。その違いを起こしているのが「脳のバイアス」です。

バイアスとは思い込みや偏った常識のことで、遺伝や性差のほか、生まれ育った環境やジェンダー観、経験など、後天的な要因によっても作用します。こうした脳のバイアスによって情報処理の方法が異なることが、人がわかり合えない根本にはあるのです。

情報を処理するときに私たちは五感を使いますが、人によって優先される感覚が異なります。大きく分けると視覚を優先する「視覚タイプ」、聴覚を優先する「聴覚タイプ」、触覚、味覚、嗅覚など体の感覚を優先する「体感覚タイプ」の3つに分けることができます。

 

コミュニケーションのストレスは減らせる

たとえば同じように海を見たときに、視覚タイプは「海の青さ」が、聴覚タイプは「波の音」が、体感覚タイプは「潮の香り」や「潮風の心地よさ」などが、より強く記憶に残るのです。

お互いの認識が異なる前提でいれば、コミュニケーションにともなうストレスを軽減することができるはず。「きっとわかってくれるはず」と思うから、「なんでわかってくれないの」になる。

そうではなく、「この人とは脳のタイプが違う」ととらえること。そのためには、まずは自分自身を知ることが重要です。

さっそく自分のタイプを診断してみましょう。

 

脳タイプ診断

各質問のA~Cの項目にそれぞれ点数をつけて、最後に合計点を出してください。

・かなり当てはまる....2点
・やや当てはまる.......1点
・当てはまらない.......0点

---合計点数が最も高いものがあなたの脳タイプです---

A:視覚タイプ
B:聴覚タイプ
C:体感覚タイプ

たとえば自分が視覚タイプとわかっても「仕事のときは視覚タイプだが、プライベートでは体感覚タイプ」など、場面によってタイプが異なる場合も少なくありません。私たちの脳はうまく環境に適応するために、場面に応じて違う脳タイプになることができるからです。「全体の傾向として〇〇タイプ」と理解してください。

●自分と違う脳タイプの相手とかかわるときは?
相手の脳タイプに合わせた伝え方をするとうまくくいくことがあります。

 

自分の「脳のバイアス」をチェックしてみよう

人や物事に対する考え方や見方から、あなたの脳にどの程度バイアスがかかっているかがわかります。以下の項目で、自分がよく抱く感覚や考えを選んでください。

□最近の若い人の考えが理解できない
□歳をとっている人はやっぱり考え方が古い
□あそこに行くのは縁起が悪い
□あの人はいつも同じ考え方をする
□年齢が若くないとチャレンジできない
□遅れてくる人は時間にルーズな人だ
□うまくいかないのは環境や他人のせいだ
□同じことをやっているほうが安心する
□一度反対されると、その人を敵とみなす
□あの人はどうせうまくいかない
□自分の意見を主張する人は、わがままだ
□自分にできることは誰でもできる
□うまくいかないときは何をやってもダメだ
□私の組織のほうがユニークな考えを持っている
□自分の意見が通らないと、否定されているように感じる
□相手に笑顔がないのは、自分が嫌われているからだ
□この世の中は「勝ち組」と「負け組」でできている
□一つ気になることがあると、その人の悪い面ばかりが見える
□人は強くなければならない
□過去にうまくいったから、今回もうまくいく
□充実よりも楽なほうを選択する

\あなたの脳のバイアスの程度は?/
チェック項目が多いほど脳にかかっているバイアスが大きく、相手とわかり合えない状況をみずから作り出している可能性があります。

・0~3点...誰に対しても円滑なコミュニケーションができる可能性が高いです。
・4~8点...努力することでさらにすばらしい人間関係を築けます。
・9~12点...人のよい面を見ることができますが、特定の人にストレスを感じがちです。
・13~16点...対人関係がうまくいきにくい人。ストレスを受けやすく人間関係がおっくうになりがちです。
・17~21点...人間関係で激しい感情を持ちやすい人。人を信頼できない傾向があります。

 

多くを占める「認知バイアス」

人間関係がうまくいかない背景にある脳のバイアスにはいろいろな種類があります。その中でも、自分の育った環境や経験などから価値観や物事の見方が偏ってしまうような認知の歪ゆがみを「認知バイアス」といいます。これらのバイアスがあることが、あなたの人間関係がうまくいかない原因になっているかもしれません。

・確証バイアス
自分の信念を裏づける情報だけを探し求め、それ以外を見ない。
例:自称「晴れ男」「晴れ女」、血液型で性格を決めつける

・現状維持バイアス
何かを判断するときに、変化を求めずに現状維持にこだわる。
例:転職に踏み切れない、いつも同じメニューを注文する

・過度の一般化バイアス
たった1回の出来事をすべてに当てはめてしまう。
例:一度転んだだけなのに、自分は転んでばかりいる、またきっと転ぶと思い込む

・想起バイアス
楽しかったことだけを覚えていて「いいこと探し」に終始する。
例:過去を振り返かえるとき、よかったことばかりに目を向けて課題や反省点に目を向けない

 

自分が変われば人と通じ合える

わかり合えない相手との溝を少しでも埋める方法をお教えしましょう。相手を変えることは難しいので、自分の「認知バイアス」と「環境」を変えるのです。

1. 認知バイアスを変える

認知バイアスは視野を広げることで減らすことができます。まずは自分の判断が偏っていないか、思い込みではないかという客観的な視点を持つことが大切です。そのうえで、これまで拒絶していた異なる意見を受け入れましょう。

とはいえ人は簡単には変われません。そこでおすすめなのが「少し変えてみる」ことです。あえてコミュニケーションとは関係ないところで、たとえばカレーのルー、ランチのメニュー、牛乳のメーカー、散歩コースなど、いつも無意識に選んできた物事をほんの少し変えてみるのです。

失敗もあるでしょうが、新しい発見も多くあるはず。成功体験を重ねれば、脳は「変化を体験すると喜びを感じる」と学習します。その結果、視野が広がり、自分とは異なる意見にも耳を傾かたむけることができるようになるでしょう。

 

2. 環境を変える

もう一つ、人とコミュニケーションをとるときにおすすめなのが、環境を変えてみることです。私たちの脳は環境によって違う傾向を示すことがわかっているのです。ちょっとした環境の工夫で相手とうまくコミュニケーションをとることができます。

次のいずれも研究報告があり、思った以上に効果を感じられるはずなので、ぜひ試ためしてみてください。

●やわらかいものに座ると心がおだやかになる
●温かいものを持っているとやさしくなる
●甘いものを食べると親切になる
●天気がよい日は行動がポジティブになる
●緑のある場所で暮らすと創造性が高まり、攻撃性がやわらぐ

 

ミラーニューロンを活用しよう

ミラーニューロンは近年発見された脳の神経細さい胞ぼうの一つで「共感細胞」「ものまね細胞」とも呼ばれます。

「テレビで極寒の地で震えている人を見たら、自分も同じように寒さを感じた」など、他者の行動を脳内で鏡のように自分にも投影させることで、他者の行動や感情、感覚などを、自分も同じ体験をしたように感じることができるのです。

ミラーニューロンを利用することが、人とうまくコミュニケーションをとる助けとなります。

たとえば話が通じない相手でも、相手の話に耳を傾ける、なるべく相手と同じスピードで話すなど、相手を理解しようとする態度をとると、相手の脳は「共感してくれた」「理解してくれた」と喜びを感じます。

その相手の感情が今度は自分の脳のミラーニューロンを通して投影されることで自分も気持ちがよくなり、相手との信頼関係を築くことに役立つのです。

 

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