1. PHPオンライン
  2. 社会
  3. 日本中にある稲わらを、なぜ中国から輸入? 広がり始めた「国産飼料の生産」

社会

日本中にある稲わらを、なぜ中国から輸入? 広がり始めた「国産飼料の生産」

山口亮子(ジャーナリスト)

2025年11月26日 公開

「農業の衰退」や「食料危機」といった言葉を、ニュースやSNSで耳にすることが増えています。高齢化や後継者不足、耕作放棄地の拡大など、日本の農業は課題を抱えていますが、現場ではどんな変化が起きているのでしょうか。

本稿では、農業ビジネスに詳しいジャーナリストの山口亮子さんの書籍『農業ビジネス』より、飼料としての稲わら・麦わらの利用実態と日本の飼料自給率の課題について解説します。

※本稿は、山口亮子著『農業ビジネス』(クロスメディア・パブリッシング)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

中国から稲わらを輸入し続ける意味

主に肉牛のエサとなる稲わらは、年間約90万トンが飼料として使われ、うち約20万トンを中国から輸入してきました。コロナ禍には、輸送の乱れで価格が高騰する事態が起きました。

日本全国、水田のあるところならどこにでもある稲わら。その大半は収穫時にコンバインで細断されて田んぼにすき込まれるか、焼却されてしまいます。

稲わらの収集が進まない理由には、農家に商品だという意識が薄いこと、稲わらをロール状にまとめる機械や貯蔵する倉庫が必要になることなどがあります。

稲わらは、ウシのエサとして引き合いがあるにもかかわらず、農水省によると国内で飼料として使われるのは1割弱に過ぎず、一部を輸入に頼っています。その主要な輸入元である中国からの調達がコロナ禍で滞り、価格が高騰して畜産農家を悩ませる事態まで起きました。そこら中に稲わらがあるのに足りないというのは、悪い冗談のようです。

日本の飼料自給率は、わずか25%に過ぎません(2021年度概算、農水省調べ)。干し草や稲わら、サイレージ(サイロなどで発酵させたエサ)といった「粗飼料」は国産が比較的多く、自給率は76%。国は2030年度にその自給率を100%まで引き上げると掲げています。

粗飼料の国産割合が87%に達していて、その割合をさらに高めようとしている農業法人があります。愛媛県西予市で独自のブランド牛「はなが牛」やブランド豚「はなが豚」を飼育する株式会社ゆうぼく。「環境への負荷の少ない、無理のない農業を目指す」のが経営の特徴です。

地元でとれる稲わらや稲発酵粗飼料(稲WCS)、麦わらなどをエサとして与え、畜舎から出る堆肥を地元農家に使ってもらう。そんな循環型農業に早くから取り組んできました。

 

耕畜連携で持続可能な社会を目指す

近年、化学肥料の高騰やロシアのウクライナ侵攻で「世界のパンかご」と呼ばれる穀倉地帯が戦場になったことを受けて、飼料価格が高騰しています。ただ、価格上昇はそれ以前から繰り返し起きており、長期で見ると値上がり基調にあります。2008年には、米国でトウモロコシをエタノールに使う量が増え、オーストラリアで干ばつが続いたことなども影響し、価格が急騰しました。

ゆうぼくはこれ以前から、エサを自家配合してきました。「自分で必要なものだけを厳選してエサを作ったら、エサ代がかなり安くなった」と社長の岡崎晋也さんは言います。

「自分たちでできることを広げる」ことを目指すなかで、粗飼料を自前で調達できないかと考え、稲わらを飼料にしてはどうかと思い至りました。そこで、創業者である岡崎哲さんは、地元の稲作農家とともに飼料用稲の生産で先進地である熊本県を訪れました。稲わらの収集をどうやって事業として成り立たせているか視察し、稲作と畜産の農家双方にメリットがあると事業の立ち上げを決めます。

こうして、ゆうぼくも含め、3軒の農家で稲わらや麦わらなどの収集組織「3F(スリーエフ)クラブ」を立ち上げました。「F」は「ファーマー(農家)」の頭文字。哲さんが出資して機械を購入し、稲わらなどの収集作業にも加わっていました。

3Fクラブは2016年に発展的解消を遂げます。メンバーだった牛の肥育と稲作を兼ねる農家が代表となって、農事組合法人JRBを立ち上げたのです。JRBは稲わらや稲WCS、麦わら、燕麦(えんばく)や牧草などを生産したり収集したりしています。

3Fクラブのころと違って、ゆうぼくはJRBと資本関係はなく、稲WCSを中心に飼料を購入します。発酵させている分、牛は稲WCSへの食いつきが最もよく、次に稲わらを好んで食べます。

岡崎さんは「国産飼料の割合を一層高めたいし、地元の飼料も今以上に増やしていきたい。自分たちも飼料の生産にまでかかわりたいという思いがあるので、何らかの形でJRBの活動を手伝えるようになれたらと考えています」と話します。

地元の飼料を使い、堆肥を農地に施してもらう耕畜連携ができれば、地元への貢献になります。海外から穀物を輸送するのに比べ、二酸化炭素の排出削減にもなります。地域内での循環を重視した生産をすることで「地球環境への配慮や、持続可能な社会などSDGsの観点に関心を持つ方にも、商品を選んでいただいています」(岡崎さん)とのことです。

 

関連記事

アクセスランキングRanking