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日本人はなぜ休めない? GDPで日本を抜いたドイツに学ぶ“時間の使い方”

サンドラ・ヘフェリン(エッセイスト)

2025年12月10日 公開

2023年、GDPで日本を追い抜き、世界第3位となったドイツ。「仕事以上に休むことを大切にする国民性」を持つドイツが、GDPで日本を追い抜いたと知ったとき、日本人の母とドイツ人の父を持つ著者サンドラ・ヘフェリンさんは強い衝撃を受けたといいます。

ドイツ人は「休むこと」について、どのような考え方を持っているのか――ドイツ人の休み方戦略について、書籍『ドイツ人の戦略的休み方』より紹介します。

※本稿は、サンドラ・ヘフェリン著『ドイツ人の戦略的休み方』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

従業員への優しさが休暇にも表れている

日本では従業員の冠婚葬祭に合わせて休みを取得できる「慶弔休暇」がありますが、ドイツの場合も冠婚葬祭の際は有休に加えて休むことができます。ドイツではこれを「特別休暇」(Sonderurlaub)と言いますが、これには冠婚葬祭のほかに「家族の病気」「両親の金婚式」、子供の「堅信式」(Konfirmation)、「初聖体拝領」(Erstkommunion)などの宗教上のイベントも含まれています。

前述の「堅信式」や「初聖体拝領」はカトリックのものですが、もちろんイスラム教をはじめとするほかの宗教の場合も、特別休暇を取得することは可能です。そのほか、事故に遭った、家に泥棒に入られた、警察に勾留されたなどといったことも特別休暇の対象となります。

後者に関しては、後に「不当に勾留された」ことが判明した場合のみです。女性の地位向上に伴い、近年は「流産」を特別休暇の対象とする企業もあります。ドイツの特別休暇は、従業員に優しいことが特徴で、例えばパートナーや配偶者が死亡した場合、葬式といった「特別な日」だけではなく、会社と相談した上で複数日の特別休暇がもらえます。

というのもドイツでは、「プライベートでショックなことが起きたときに仕事でパフォーマンスを上げるのは実質的に不可能だ」という共通認識があります。自分の身に起きた辛いことを消化するためには時間が必要だからです。

繰り返しになりますが、プライベートでショックな出来事が起きた社員に仕事をしてもらっても生産性が上がらないのは言うまでもありません。仮に「その場」では生産性が上がったとしても、それはいわゆる精神論で持ちこたえているだけのことであり、健全な状態だとは言えません。

「人生、何があるかわからないから」というのは、日本では「1人ひとりが自分の人生を考えるときに心得ておくべきこと」だととらえられています。でもドイツにいたっては、会社も「(社員の)人生、何があるかわからないから」と休暇の制度をあらかじめ用意しているわけです。

 

“友達と会えない働き方”はありえない

ドイツ人にとって大事なのは「クリスマス」、そして「自分と家族の誕生日」です。「大事な身内の誕生日に休みを取らせない」というのは、日本に置き換えると「家族で両親と1月1日に茶の間のコタツでくつろいでいるところに、どうでもいい仕事の電話をかけてくる」ぐらい非常識なことです。

また、「勤め人という立場でも1年に30日間必ず休める」という安心感があるからか、「会社Aから会社Bへと転職をする際に、空いた時間で長期の旅をする」という人は意外にも少ないものです。

私にはアパレル業界で働くRさんという日本人女性の友達がいます。業界的にどこの会社に勤めていても忙しいらしく、なかなか会うことができません。けれど彼女は会社Aから会社Bへ転職をするとき、体を休めるために必ず数週間、自由になる期間を設け、その期間中に必ず私に連絡をくれるのです。このことを私は、とても嬉しく感じています。

でも、これは日本的な感覚かもしれません。ドイツだと「友達に会えないような働き方をする」というのは、そもそも「ありえない」話なので、数年間友達に会っていなかったら、残念ながら友達としてカウントされなくなってしまう可能性があります。このように、「人間同士の付き合い方」についても、その国の働き方を知ることによって、その国の「前提」のようなものが見えて面白いです。

 

お金よりも大切な“自分の時間”

それにしても、ドイツ人は「時間」というものを大事にしていると感じます。多くのドイツ人と話していて、「あっ、この人にとってはお金よりも時間のほうが大事なんだな」と思う場面が何回もありました。日本に住むドイツ人女性リナさん(Lina さん)もその1人です。

彼女はデザイナーですが、ずっとフリーで活動していて、今まで日本にいて会社員になったことはありません。「仕事としてはね、会社員のほうが活躍できたかなって思うことはあるけど、やっぱりフリーだと自分の時間を自分でつくれるから、後悔はしていない」とのこと。

確かにリナさんは、私の誘いにいつも快く応じてくれます。時間があればあるほど1人で考え込んで悩んだり、1人でお酒を飲んだりしてしまうならば、忙しいほうがいい場合もあるでしょう。でも心身ともに健康な人の場合、時間がたっぷりあればあるほど、家族との時間や友達との交流、自分の趣味、仕事につながる活動など、時間を有意義なことに使えます。

「時間」と「幸せ」の関係性って侮れないと思うのです。心身ともに疲れて自死したり、過労死したりする人も、結局は「時間が足りない」ことが遠因のように思います。常に時間に追われている状態では余裕がなくなってしまいます。

例えば何か難しい問題が起きて、解決案について冷静に考えたい場合、寝不足で予定が先々まで詰まっているときではなく、オフの日にゆっくりお風呂に入っているときに、「これ!」という案が浮かんだ......という経験がある人もいるのではないでしょうか。

ドイツ在住でチームリーダーとしてフルタイムで働くリサさんに「幸せを感じるのはどんなときか」と聞くと、「やっぱり、誰からの指示もない自由な時間が幸せだと感じる。なんの義務も生じない時間ね。私は平日に仕事を早く上がれるし、恵まれた働き方をしていると思うけど、それでも平日は仕事関連などで『〇時に〇〇をしなければいけない』というプレッシャーがどこかにあるじゃない?それがない週末はやっぱりいい!」とのことでした。

話を聞いていると、リサさんは、平日は「仕事を中心に計画された日常」を送っているからこそ、「計画」というものと無縁の週末に心からリラックスできている印象を受けました。

著者紹介

サンドラ・ヘフェリン(さんどら・へふぇりん)

エッセイスト

ドイツ・ミュンヘン出身。日本在住28年。日本語とドイツ語の両方が母国語。自身が日独ハーフであることから、「多文化共生」をテーマに執筆活動をしている。著書に『体育会系 日本を蝕む病』(光文社新書)、『なぜ外国人女性は前髪を作らないのか』(中央公論新社)、『ほんとうの多様性についての話をしよう』(旬報社)、『ドイツの女性はヒールを履かない』(自由国民社)、『ドイツ人は飾らず・悩まず・さらりと老いる』(講談社)など。
【X】https://x.com/SandraHaefelin

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