人生は「運・鈍・根」
人生にムダなことは、何一つありません。全部、自分に役立つ、そして、やり続けることが大事。
――投げやりになることなく、ずっとこの世界で仕事を続けていられたのは、何が支えてくれたんでしょうか。
あのですね、この世界は「運・鈍・根」なんです。ですから「運」がよくなくちゃいけない。
そしてあんまり器用に、何でも簡単にできるっていうんじゃなく、いくらか「鈍」であって。
それからあと大事なのは、「根」。つまり、根気よくやらなくちゃいけない。それがあれば、どんな人でも、ある程度のところまでいけるんです。満員電車に乗っていても、いずれ席は空く。自分の座る席が必ずどこかに空くんで、その時、座ればいいんです。
――「運」、これは運命だからしょうがないですよね。自分ではどうしようにも難しいことです。
「運」は、自分でつかまなくちゃいけない。
このつかむということは、例えば漫画を描いているとすれば、仕事がこなくても、絶えず描いていなくちゃいけないんです。そうしないと、運は巡ってきません。やめてしまえば、そこで終わり。必ず続けていなくちゃいけない。
すると、何かしら運というのはやってくるんです。その時に、パッとつかむんです。ただ、つかむためには、自分がやり続けていないといけない。
あるバレエの評論家が、「やなせさん、私はこの頃仕事がすっかりなくなって、いったいどうすればいいでしょう」って聞いてきた。僕は「それはねえ、あなたにとって、とてもいいんじゃないですか。いま、時間がたくさんあるでしょう。この空いている時間を利用して、バレエについての研究をしなさい。それを一生懸命やればいいんですよ」と言ったんです。
それから2年くらい経って、その人に会ったんです。「やなせさん、ありがとうございました。じつは言われた通り、私は仕事じゃなしに、やり残していたバレエの研究を始めたんです」って言うの。すると、その研究をやっているうちに、仕事がどんどんくるようになったって。そういうもんなんですね。つまり、やっている人のところには、なぜかくるんだ。何もしてない人のところにはきません。
いま、世の中は不景気で、困った、困った、困ったということが溢れていますけど、困ったと言ってるだけじゃ、何も始まらない。絶えず、自分がやっていないとダメなんです。どんな状況になっても、やり続ける。その場を楽しむように。
それと根気なんだよね。やっぱり、根気がないとダメなんだ。
――漫画家になりたいという強い思いがあって、いまは絵本を中心にお描きになっていますけど、それまでやってきた仕事とはつながっているんですか?
そうだね。巡りあってしまうと、それまでやってきたことが全部役に立つ。
テレビで『それいけ! アンパンマン』の放映が始まったでしょ。僕は以前、アニメーションの仕事、それからシナリオの仕事もやっていたから、シナリオをパッと見て読めるんですよ。シナリオって初めての人にはちょっと読みにくいと思うの。
ところが僕は、シナリオの仕事もやったから違和感なくパッと見て読めるんです。あとステージの仕事やなんかもやっていたので、アンパンマンのコンサートをやる時にそれが役立ちます。
僕はもっと若い頃に世に出たかったんです。
ただ遅く出てきた人というのは、いきなりダメにはなりません。こんなことをしていていいのかと思っていたことが、みんな勉強になり、役に立っていく。人生にムダなことなんて1つもないんですよ。