写真:干川修
小説家・町田そのこさんの最新作『ハヤディール戀記(れんき)』。本作について町田さんは、「大好きな設定を詰め合わせた」と語ります。本稿では、刊行にあたっての率直な心境を語っていただきました。
※本稿は、『文蔵』2026年1・2月号より内容を抜粋・編集したものです。
私の大好きな設定を詰め合わせました
作家になるぞと決めて、幸いなことに作家になれた。あこがれ続けていたので、いまでもときどき、原稿を書いたりゲラのチェックをしている自分にびっくりする。そして新鮮に感動する。何てしあわせなことだろう、と。
新刊である『ハヤディール戀記』は、作家になりたいと願っていたころに書き始めた作品だ。その数年後に作家として出発することが叶い、様々な作品を上梓してきたが、その間もコツコツと書き進めてきた。つまり、10年以上の時間をかけている。
本作は私の大好きな設定をすべて詰め合わせており、夢と希望と憧れのオリジナルスペシャルパフェ(そんなに甘い話ではないのだが)と言い換えてもいい。
愛情たっぷりだし、手間暇もかけているし、いつか多くのひとに楽しんでもらいたいと願っていた。しかし、膨大な文字数になってしまったので、勝手に「商業作品にはなりえないだろう」と諦めてもいたのだった。
それがまさか、世界観を忠実に描いた装丁で世に送り出していただけることになるとは。ゲラ作業中、何度もびっくりした。装丁の案を見ると、言いようのない幸福感に包まれた。何てしあわせなことだろう。ほんとに!
そして、普段はファンタジー要素の少ない物語を書いていることから、デビューし直したような緊張感を覚えている。初々しい気持ちでこの作品を送り出せることに感謝したい。