学生時代、独学で始めたダンスにのめり込んだTAKAHIRO(上野隆博)さんは、一念発起して単身渡米し、ニューヨーク・アポロシアターのコンテスト番組に出演。なんと9大会連続優勝という歴代最多の偉業を成し遂げます。
『ニューズウィーク』誌の「世界が尊敬する日本人100」に選出されるなど、世界的な評価を受け、マドンナのワールドツアーに参加。その後もダンサー、振付師として第一線で活躍し続けているTAKAHIROさんですが、一度アメリカで挫折しそうになったことがあるのだとか。その経験は意外な場面で訪れたようです。
著書『「私なんて」と考えてしまうあなたも、絶対に前向きになれる40の言葉』で「大きな壁にぶつかった時のマインドセット」について語るTAKAHIROさんにお話を伺ってみました。
聞き手:PHPオンライン編集部(次重浩子)
6回目の防衛戦を前に身体が動かなくなった
――ニューヨーク・アポロシアターの舞台に立つだけでもすごいことだと思いますが、その世界的なコンテスト番組で歴代最多の9大会連続優勝を成し遂げたそうですね。
アメリカの競争社会で、同じくダンスを志す人たちに揉まれて、くじけそうになったり、やめたいと思ったりしたことはなかったのでしょうか。
【TAKAHIRO】あります。くじけそうになったのは、そのアポロシアターのコンテスト番組で勝ちを重ねた時でした。
学生時代に夢中になってのめり込んだダンス人生の「最後の1ページ」を作ろうと思って単身渡米した僕は、24歳のときにアポロシアターの「アマチュアナイト」ダンスの中で1位を獲得しました。
それで翌年には『Showtime At The Apollo』に出演します。これは全米でテレビ放送もされるコンテスト番組でした。1回、2回...と勝利を重ねていき、ディフェンディングチャンピオンとして6回目の防衛戦に臨む日の朝、どうしても身体が動かなくなってしまったんです。
最初は踊れるだけで楽しかったのに、この頃は「負けるのが怖い」という感情に支配されるようになっていました。
渡米した当初は、特にアメリカに知り合いがいるわけでもないですから、例えば変な踊りをして周囲に笑われたとしても全く平気でした。夢の中にいるような感覚だったので、見ている人たちはみんな「花の妖精」みたいな存在です。相手が人間じゃなければ、何をどう思われても何とも思わないですよね。
それが、「もっと勝ちたい」とか、「負けたらどうしよう」とか考えるようになって、花の妖精が人間に見えてきて、辛くなりました。
最初は、ただ踊ることやステージを作り上げていくことが楽しかったのに、誰かと比べるためのダンス、自分が今いる場所を維持するためのダンスというふうに、軸がずれていってしまったんだと思います。
ステージが怖い、劇場に行きたくない、と体が動かなくなってしまったんです。
自分のためのダンスから、誰かのためのダンスへ
――それでも「9大会連続優勝」の実績があるということは、その後も劇場に行かれたんですよね。どうやって気持ちを切り替えたんでしょうか。
【TAKAHIRO】アポロシアターのディレクターさんに電話して相談したんです。「もう無理かもしれない」と。
すると、そのディレクターさんから返ってきたのは「私たちはいつでもあなたをクビにすることができるけれど、あなたを応援してくれて、ダンスを楽しみに待ってくれている人もいるのよ」という言葉でした。
それまで僕のダンスは「自分ためのダンス」だったわけです。自分が楽しいから踊っているし、ステージを作れることが嬉しいから作っている。勝負に勝つと嬉しい。負けるのは怖い。
でもディレクターさんの言葉を聞いた瞬間に、「そうか、見てくれている人がいるんだ」っていうことを痛感して、エネルギーが沸き上がってきたんです。
自分のためじゃなく、見てくれる人のために踊りたい!って。
勝てば勝ったで「TAKAがまた勝ったぞ!」って、きっと喜んでくれる人がいる。でも、負けたら負けたで、チャンピオンが変わったぞ!またレジェンドが生まれた!って楽しんでくれる人もいるだろうな。でも、出なかったら、「あいつ来なかったじゃん。ステージが見れないじゃん。つまんないな」と言われて終わり。そうか、だったら出よう!と思いました。
その時に自分の中から燃え上がるエネルギーに、もう一つ「誰かのためにがんばる」というエネルギーが追加された。二馬力、ツインエナジーのダブルエンジンをそこで手に入れることができたんです。
アイデア力は筋肉のように膨らんでいくんじゃないか
――その後、海外での活躍を経て、欅坂46の「サイレントマジョリティー」他アーティストの楽曲やCM、舞台作品、大阪世界陸上開会式などの振付、ステージの演出など、多方面で活躍されていますね。お仕事をされる上で、大事にされていることはありますか。
【TAKAHIRO】モットーは「出し惜しみをしない。全て出す」ということです。
例えば、自分の中に一つのアイディアがあって、このアイディア、いま手掛けている仕事にバシッとはまるな、と思ったら、目の前の仕事に全部注ぎ込むということをモットーにしています。
この先にもっとスケールの大きなお仕事や、世の中に注目されるようなご依頼があるかもしれない。このアイディアはここで使ってしまったらもったいないかもしれないな。ハマり度はやや低いけど、B案でもいいかな、みたいなことはしたくないと思っているんです。今この瞬間、この自分自身が目の前の作品に対してできる最高値を注ぎ込みたい。
ここで使ってしまったら、アイディアが枯渇してしまうのでは、という不安もないわけではありません。自分の能力は、泉のように、すくい続けていったら枯れてしまうのではないか――。
そういう面も実際はあると思うんですけど、僕は信じているんです。筋肉のように何度も何度も反復してトレーニングしていけば、アイディアを生み出す力も膨らんでいくんじゃないかと。そのアイディアはレベルアップして、次の場所に行ったら、さらに新しいアイディアを生み出せるんじゃないかって。
もちろん時間の制約などはありますけど、今できる中でギリギリまで粘って、100パーセントの力でいいものを作り上げていく。そんな姿勢であり続けたいと思っています。