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ケンブリッジ大学は生徒の帰宅を禁ずる? 天才を生む「カレッジ制」の実態

飯田史也(ケンブリッジ大学工学部教授)

2026年03月23日 公開

ニュートンやダーウィン、そして数多のノーベル賞受賞者たち。なぜケンブリッジ大学は、800年もの間、時代を動かすリーダーを輩出し続けられるのでしょうか。その答えは、世界でも類を見ない独自の教育システム「カレッジ」に隠されていました。書籍『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』より解説します。

※本稿は飯田史也著『あなたの一生を支える 世界最高峰の学び』(日経BP)より一部を抜粋・再構成したものです。

 

カレッジは学生と教員を「缶詰」にする場所

ケンブリッジの学生たちが充実した学生生活を送ることができる理由は、「カレッジ」という独自のシステムにあります。ケンブリッジ大学とオックスフォード大学は、世界で唯一の「カレッジ制大学」として知られており、カレッジの存在はこの2大学が成功するための秘策とも言えます。

カレッジは、いわば小さな大学のような独立した組織です。

ケンブリッジ大学には29の学部生用のカレッジがあり、それぞれが独自に運営されています。各カレッジには独自の図書館やダイニングホール、校長もいて、まるで29の小大学がひとつの大学内に存在しているかのようです。

ケンブリッジ大学全体に設置される学部や学科に加えて、それぞれのカレッジが独自の医学部や工学部、心理学科や哲学科などの科目を教え、入学試験も各カレッジが独自に行っています。普通の大学の中にさらに29の小大学が存在しているため、一見すると非常にむだが多い体制に見えますが、こうした複雑なしくみが必要なのは、学生に最高のエリート教育を提供するために他なりません。

この独自の体制こそが、ケンブリッジで学ぶ学生たちにとってかけがえのない教育環境をつくり出しています。

新入生は必ずいずれかのカレッジから入学許可を受け、ケンブリッジの29あるカレッジのいずれかに所属します。すべてのカレッジは全寮制の教育施設で、地元出身の学生であっても必ずカレッジの寮に住むことが求められます。学期中は、特別な事情がない限り実家に帰ることは許されず、カレッジ内に閉じ込められる形となります。

また、教員も例外ではありません。原則としてケンブリッジを3日以上離れることが禁止されており、出張などには特別な許可が必要です。100年ほど前までは、カレッジに所属する教員が結婚して家庭を持つことも禁じられていたと言われています。

つまり、先生も学生もカレッジという「缶詰」の中で生活することになるのです。このような厳しい生活規則は、おそらく何世紀も前の修道院のような制度に由来しているのでしょうが、いずれにせよ、こうした閉ざされた環境こそが最高の学びの原点となっています。

 

学びは授業時間だけではなく、生活そのもの

ケンブリッジの1学期は8週間と短期間ですが、その間、朝から晩まで、週末も含めてさまざまなことが次々と起こります。

大学の授業は学部全体での集団授業から始まります。私が所属する工学部では教養科目や専門科目が開講され、すべてのカレッジから学生が集まります。

この点は他の大学とあまり変わりませんが、ケンブリッジではこれらの授業がすべて午前9時から12時までの間に集中して行われ、他の大学なら1日かけて行う授業を半日で終わらせます。

午後の時間は、カレッジ独自の学習に使われます。

カレッジの学習とは主に授業で出された宿題に取り組むことですが、ここにケンブリッジならではのエリート教育が凝縮されています。カレッジの学習は、まず自分で宿題を解き、さらに先生と一緒に議論する個別指導が組み込まれています。これは、ひとりの教員が2、3人の学生を指導するとてもぜいたくなシステムです。それぞれの学生は、毎日何時間にもわたって、このような個別指導を受けます。

個別指導では単なる答え合わせにとどまらず、宿題をしていない学生にはお説教や生活指導がなされます。

また、宿題を完璧にこなした学生には掘り下げた議論が行われ、宿題の背景や関連知識について話し合います。学年末試験に備えた対策や、苦手分野の克服のために追加の宿題も出されます。このように、授業に出席し、宿題に取り組み、個別指導の準備と復習を何科目にもわたって行っているうちに、学びは生活そのものとなっていきます。

風邪をひいたり、体調が優れない日もあるかもしれませんが、それでも次々と押し寄せる課題をこなさなければなりません。

この学びは100メートル走のような瞬発力ではなく、マラソンのようにペースを配分し、遅れてしまったときには少しずつ取り戻し、計画に沿って生活のリズムをつくることが求められます。

このような生活を通じて、教師陣だけではなく、学生たちもそれぞれの生活をカレッジのペースに合わせていくことになり、そこでのさまざまな人との濃密な交流を通じて、自然と全員が「特別なコミュニケーション」を実践していくことになります。

 

著者紹介

飯田史也(いいだ・ふみや)

ケンブリッジ大学教授

1974年、東京生まれ。ケンブリッジ大学工学部教授、ケンブリッジ大学コーパスクリスティカレッジフェロー、東京大学大学院工学系研究科教授。理学博士。小中・高・大・院と日本で教育を受けたのちに海外留学生活を始める。2006年にスイス・チューリヒ大学博士課程修了後、ドイツ・イエナ大学と米国・マサチューセッツ工科大学で研究員、スイス連邦工科大学チューリヒ校の教員を経て2014年より現職。研究の専門分野はロボット工学で、スイスと英国で16年間教壇に立ち、200人以上の教え子を世界中に輩出してきた。

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