仕事や家事、勉強をするときに「今日は10時から始めよう」など、開始時間を決めることが多いと思います。ですが、開始時間よりも「終了時間(締め切り)」を先に決める方が先延ばし癖を克服することに繋がると、株式会社ハイパフォーマンス代表取締役の名郷根修さんはいいます。
本稿では、名郷根さんがオススメする「すぐやる人になるための2つのコツ」を見ていきましょう。
※本稿は、名郷根修著『瞬動力』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
開始時間より終了時間を決める
先延ばしを防ぐうえで効果的な方法があります。それは、「いつはじめるか」よりも、「いつ終わらせるか」を先に決めることです。その理由をくわしく解説していきましょう。
【「いつまでに完了するか」を決めると、先延ばしは起きにくくなる】
多くの人は仕事や家事に取りかかるとき、「9時からはじめよう」「午前中にとりかかろう」といったように開始時間に意識を向けます。しかし、行動科学の観点では、開始時間だけを決めても、人は思ったほど動けないことがわかっています。むしろ行動が起きるのは、「いつまでに完了させるか(終了時間・締め切り)」を決めたときです。
これは心理学で「締め切り効果」と呼ばれています。締め切りが明確になると、人は行動しやすくなることが多くの研究によって示されています。
【なぜ「締め切り」があると動けるのか?】
その理由は、これまでも解説してきたように、脳が負担の大きさに非常に敏感だからです。締め切りがないタスクは、「どれくらい時間がかかるのか」「どれほどのエネルギーが必要なのか」「終わりが見えない」など、曖昧な状態が続きます。曖昧さは、脳にとって脅威です。扁桃体が不安反応を起こし、「今やらないほうが安全だ」と判断してしまいます。
このため、「はじめたいのに、動けない」「気づいたら後回しになっている」という、先延ばしグセを持つ人が多く存在するのです。これは脳が終わりの見えないタスクを危険視しているためで、この曖昧さを解消すれば、タスクは脅威ではなくなります。
【「いつまでに終わるか」を決めると、不安が消える】
終了時間を先に決めると、脳は「負担が限定されている。これは処理できる」と判断します。これが、締め切り効果の本質です。行動科学の研究では、締め切りをつけることで不安が減り、今やったほうが得であると感じられて行動開始率が高まるということが確認されています。
このとき脳内で起きているのは、不安のブレーキが弱まり、瞬動力を発揮しやすくなるという変化です。つまり、締め切りは脳を動きやすいモードに切り替えるスイッチなのです。
【締め切りがあると、集中力が自然と高まる】
「いつまでに完了するか」を決めることには、もうひとつの強力な効果があります。それは、前頭前野の集中力が自然と高まるということです。仕事は時間が無限にあると、無限に膨張するという性質があります。これは心理学では「パーキンソンの法則」と呼ばれています。
たとえば、分量としては3日間で終わる仕事でも、締め切りを設けないと3日経過しても、5日経過しても、1週間経過しても終わらない、という傾向があります。実際は30分で終わるような内容の会議も、終了時刻を決めておかないとあれもこれもと議題が上がり、1時間を優に超えてしまうこともありえます。
しかし、締め切りが設定されると、脳は「限られた時間で終わらせよう」と動きます。その結果、集中して時間で物事が終わるようにセッティングします。これは「時間的制約による認知焦点化」と呼ばれ、短時間で成果が出る行動パターンとして、多くの研究で支持されています。
「未完了リスト」をつくる
「やらなきゃいけないことは頭にあるのに、なぜか動けない」
「いつも同じタスクを後回しにしてしまう」
そんな人に共通するのが、脳内に未完了のタスクが溜まっているという状態です。心理学ではツァイガルニク効果と呼ばれており、未完了のタスクが脳のワーキングメモリを圧迫し、集中力や行動力を奪うということがわかっています。
つまり、先延ばしは怠けているのではなく、脳の容量がやり残しでいっぱいになって動けなくなっている状態を指します。その解消に有効なのが、未完了リストを活用することです。
【未完了リストのつくり方】
つくり方はシンプルです。頭の中に溜まった未完了のタスクを、一度すべてアウトプットしていきましょう。ポイントは、今すぐやる/やらないに関係なく、頭の中に引っかかっているすべての未完了をアウトプットするという点です。具体的には、次のようなものが該当します。
・返信していないメール
・提出していない資料
・気になっているアイデア
・片づけていない部屋
・読みかけの本
・やらなきゃと思っている細かいこと
・先延ばししている大きなタスク
・保留にしたままのプロジェクト
これらを全部書き出すことで、脳のメモリを解放し、「今やるべきこと」に集中できるようになります。未完了リストの効果として、科学的に次の3つの点が挙げられます。
①未完了を可視化すると、脳が軽くなる(ツァイガルニク効果の逆利用)
人間の脳は未完了を抱えると落ち着かない性質があります。未完了のタスクは、無意識のレベルでずっと脳に負担をかけているのです。これをすべて書き出すことで、情報を頭から外に出すことになり、脳は「覚えておく必要がない」と判断します。その結果、ストレスが減り、行動の集中力が戻ってきます。
②曖昧なタスクが言語化されることで、脳が動きやすくなる
「資料作成」「企画書」「整理する」「準備しておく」など。タスクをこのような大きな言葉で捉えていると、脳が「どうはじめれば良いの?」と混乱します。先延ばしの多くは、タスクが曖昧であることが原因です。未完了リストに書き出すと、曖昧だったタスクが具体的な言葉に変わるため、行動しやすくなります。
③やることの全体像が見えると、小さく分解できる
書き出した後、すぐやる人は大きなタスクを以下のような「最初の一歩」に細分化します。
・「企画書を作る」→「見出しを3つ書くだけ」
・「部屋を片づける」→「机の上の紙を10枚だけ捨てる」
細分化することにより、大きく曖昧だったタスクのどこから手をつければ良いかがわかり、行動に移しやすくなります。未完了リストは、「どこから手をつけるべきか」を教えてくれる地図のようなものなのです。
私も普段仕事に取りかかるとき、未完了のタスクが多く、「この仕事をやらなければいけないけど、まだ残っているタスクがあるな......」と気になってしまい、今、目の前にある仕事に集中できなくなります。
そういうとき、未完了リストに書き出していくと「これをやっていないから引っかかっているんだ」と脳の棚卸しができてスッキリするので、とても役立っています。タスクが終わって、ひとつずつリストを消していくときも「未完了タスクがひとつ減った」と自己効力感が上がるので、ぜひ日ごろのタスク整理として試してみてください。
リストをつくるタイミングに、特別な決まりはありません。「気になることがあって今に集中できない」「別の作業をしているときに『まだやっていないな』と頭に浮かぶ」というような状態になったら、それが未完了リストをつくるサインだと考えましょう。
書き出したタスクをすべて終わらせる必要はありません。まずは書き出すだけで十分です。ここでは「いったん、脳のワーキングメモリを動かせる状態にする」ことを優先させましょう。