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認知症の薬は飲むべき? 専門医が語る「無理に飲ませない」という選択肢

繁田雅弘(精神科医、認知症専門医)

2026年06月01日 公開

「私は日本の精神科医のなかでも、かなり長い時間をかけて認知症の人の話を聴いてきた一人ではないかと思います。」
認知症の人、そしてそのご家族に寄り添いながら診療を続けてこられた精神科医で認知症専門医の繁田雅弘氏に、認知症の薬とどう向き合うべきかについて解説して頂きます。

※本稿は、繁田雅弘著『認知症になって幸せな人、不幸せな人』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

より長く「その人らしい生活」を続けられる

よく「薬の効果」について、質問を受けます。
端的に言うと、進行を遅らせる効果に関しては、薬にまさる治療はありません。リハビリや、認知機能のトレーニングなどのデータは、エビデンスの観点から、量的にも質的にも、薬にはかないません。

一方で「服薬しなければこのように進行すると予想される」と説明できればよいのですが、それは難しいことです。
進行のスピードは、個人によって大きく異なります。また、アルツハイマー型認知症と診断されても、別の認知症の可能性を完全には否定できないことも、説明を難しくしています(診断は100%確実ではないからです)。

わかっているのは、薬での治療を始めても、飲み薬や貼り薬の場合で、うまくいってもスピードを1割遅らせられるかどうか、ということ。
もちろん進行を遅らせることができれば、より長く「その人らしい生活」を続けることができ、新たな不便に直面するまでの期間は長くなります。

 

「後悔」は、一つでも減らしたい

たしかに、本人や家族にとっては効果を実感することが難しいし、「脳に作用する薬」ということで、抵抗やとまどいを示す方も少なくありません。「認知症の人」とみなされる不安もあるでしょう。アルツハイマー型認知症ということは認めても、「薬を飲むほど、私はぼけていない!」と訴える人もいます。

「だめでもともと。副作用が出ない限り、ある意味『サプリ感覚』で、気持ちのためにも飲んでみるのもいいですね」と、ハードルを下げたこともありました。
もちろん、人によっては下痢や食欲の低下、眠気などの副作用がでるので、「いつやめてもいい」「様子を見ながら飲んでみる」ことが大前提です。服用を辞める方も2、3割います。一方で、服薬が体に合っていて、次の診療時には晴れ晴れとした表情で来られる方もいます。そういう方にはぜひ、服用を続けてほしいと思います。

認知症が進むと、本人のとまどいや混乱はもとより、家族が後悔に苛まれる姿をたくさん見てきました。
「もっとなにかできたんじゃないか」と苦しむくらいなら、「やるだけのことはやった」と思えることを一つでも増やしておきたい。

飲み薬は、軽度でも中度でも、高度でもどの段階でも(言い方を変えれば亡くなるまで)、飲むことができます(貼り薬も同様に)。後悔しないように、一度は試しておくことをお勧めします。

一方で最新の治療薬である点滴薬は、進行を遅らせるスピードは2割から4割です。こちらは認知症の一歩手前、グレーゾーンの状態(軽度認知障害)や、軽度アルツハイマー型認知症の人が受けられる治療です。もの忘れはあるものの、日常生活はほぼ自立できているため、点滴薬の治療を受けながら、現役で仕事をされている方もいます。

 

「薬を飲まなきゃ!」と叱るのでは、逆効果

ここで念押ししたいのは、薬は「飲まなくてはいけないもの」ではないということです。
やみくもに「忘れずに薬を飲まなきゃ」と本人をせっついたり、叱ったりするのは、マイナスの影響しかありません。

飲み薬ならば「1割程度遅らせることができる」と記しました。
言い換えれば「9割ほどは進んでいく」ということで、元の病気のスピードが大きく変わるわけではありません。
長い目でみたら、やはり「進行はしてしまう」ということです。

最新の点滴薬に関しても、2週間、あるいは4週間に1回、点滴をするために病院に通う必要があります。そこに家族が同伴しなければならないケースも往々にしてあります。加えて点滴薬には、脳の出血やむくみなどのリスク(副作用)があることも忘れてはいけません。自覚症状が無いため、2、3カ月に一度、MRIで脳を確認する必要もあります。

 

「治療をしない選択」もあります

治療した場合より進行は早まりますが、「その時間がもったいないから、薬での治療はせずに、自由に暮らそう」という選択肢も、その一方でもちろん私はありだと思います。

「自分が認知症になったら、点滴薬で治療するだろうか?」と考えることもありますが、定年前の現役の間は迷わず治療するでしょう。今は「半現役」になったので、じっくり考えたいところです。通院の時間をとられるぐらいなら、自分の好きに暮らしたいという気持ちもないわけではない。

「効果がその程度なら薬はいらない」と、治療に伴う負担を考えて判断する人もいます。いい意味で「自分自身で考える」ようになってきたのかもしれません。

 

「医学」を持ち出し過ぎてはいないか?

薬での治療は、より症状が軽い段階から始めたほうがよいでしょう。遅いからといって効かなくなるわけではないですが、進行を軽い段階から遅らせることで、その分長く、さまざまな「本人らしい暮らし」ができるでしょう。

しかし私が問題だと思うのは、多くの人の頭から、その「本人らしい暮らし」が飛んでしまっていることです。
「自分らしく」というタイトルで講座を依頼されてお話しすることも多いのですが、講座の最後に、みんなで揃って体操したり脳トレをしたりして、「自分らしい暮らしって、今、言ったばっかりじゃない」と、笑ってしまいます。

家でも、認知症の人は「お薬を忘れずに飲みなさいよ」「夜は何時に寝てるの。そんなに夜更かししていたら体に悪いですよ」と、ガミガミ言われます。
夜更かしをしてまで見たかったテレビが、本人にとってどんな価値があったかなんて、考えていないんです。

全部、「医学」になってしまう。
だから私は「医学を生活より優先しないで」と言いたい。
医学は自分らしい生活をするための、手段のはずです。

なんでその花を育てているのか。
「その花が咲くまで元気でいたいね」というのだったら、多分、意味はある。
だけど、「リハビリ的に『よい』と言われているから、園芸療法をやります」というのは、多分、違う。その人らしくない。

 

「治療をするか、しないか」は、本人に尋ねたい

私は「薬での治療をするか、しないか」ということにおいても、本人に決めてほしいと思っています。本人が決められなくても、本人の気持ちを十分に踏まえて決めてほしいと思います。
そのためには、本人と病気や薬に対する思いを理解することなく、医学的な理屈を押し付けてはいけません。

私自身、過去には何度も、本人と話をすることなく処方していました。
しかし今は、本人と、家族と一緒に、「本人にとっての薬の価値」について考えたい。本人が自ら必要性を感じて、考えて、治療を受けるかどうかを決断してほしいと思っています。

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大切なことは、「本人らしい暮らし」を
少しでも長く続けること。
そのために、薬での治療をするか、しないか、
本人が決断してほしい。
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著者紹介

繁田雅弘(しげた・まさひろ)

精神科医、認知症専門医

1958年神奈川県生まれ。東京慈恵会医科大学医学部卒業。スウェーデン・カロリンスカ研究所研究員を経て、首都大学東京(現東京都立大学)健康福祉学部学部長、同大学副学長、東京慈恵会医科大学精神医学講座教授、同大学附属病院精神神経科診察部長などを歴任。栄樹庵診療所院長。東京慈恵会医科大学名誉教授、東京都立大学名誉教授。日本認知症ケア学会理事長。メモリーケアクリニック湘南名誉顧問。

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