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認知症リスクを高める“ながら行動” 医師が解説する脳の疲労感の元凶

菅原道仁(脳神経外科医)

2026年03月02日 公開

作業をしている最中にスマホの通知が届き、そのまま10分、15分とスクロールを続けてしまう。やるべきことは進んでいないのに、別のことに気をとられ、いつの間にか疲れている――そんな経験はありませんか。

脳神経外科医の菅原道仁さんは、現代人は"マルチタスク"によって作業効率や集中力が大きく低下していると指摘します。

本稿では、菅原道仁さんの著書『ミニマル脳習慣』より、マルチタスクの問題点と集中力を高める方法を紹介します。

※本稿は、菅原道仁著『ミニマル脳習慣』(PHP研究所)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

脳が処理できるのは、たった1つのことだけ

メールの返信をしながら、会議の資料をつくる。
スマホで動画を観ながら、お昼ごはんを食べる。
音楽やラジオを聴きながら、資格や語学の勉強をする。

あなたは、さまざまなことを同時並行で進めていませんか?

つい「効率的だし、時間を節約できる」と考えてしまいますが、実は、この「ながら行動」が私たちの脳を激しく疲弊させて、集中力を低下させる原因になっていることが多いのです。

というのも、実は、人間の脳の構造上、私たちは同時に複数のことを処理する、いわゆる「マルチタスク」ができません。

私たちの脳は、最新のAIにも負けないすごい能力を持っていますが、処理できるのは目の前のたった1つのことだけなのです。

 

マルチタスクが得意な人はいない

このお話をすると、「マルチタスクが得意な人もいる」とか「車の運転は複数のことを同時にやる必要がある」といったご意見をいただくのですが、実際には、脳が高速でスイッチをきりかえて処理しているだけです。

マルチタスクが得意に見える人は、実は、脳のスイッチを瞬時にパパッときりかえるのがうまいだけで、同時に複数のことを処理しているわけではありません。

マルチタスクの典型といわれる車の運転も、複数のことを同時並行でやっているわけではなく、脳は「ハンドルをきる」「ブレーキをふむ」「ミラーを見る」「ウインカーを出す」といった動作を、1つひとつ瞬時に処理しているだけなのです。

さまざまな研究でも、脳はマルチタスクに向いていないことがわかっています。

たとえば、「マルチタスク状態では、集中力や作業効率が大きく低下し、その影響は徹夜明けに近いレベル」と報告する研究もあります。

 

認知症の発症リスクが上がる行動

午前中は頭が働くのに、午後になると、ぼーっとして、なにも考えられなくなるときはないでしょうか?

それは、マルチタスクによる脳の疲弊が原因かもしれません。脳のスイッチを高速できりかえると、脳だけで一気にたくさんのエネルギーを消費するので、頭はもちろん、全身の疲労感にもつながり、集中力が急激に低下します。

また、「マルチタスクを習慣にして、長年、脳に負担をかけつづけると、将来の認知機能の低下や認知症の発症リスクが高まる可能性がある」と指摘する研究結果も報告されています。

ストレスへの反応として分泌されるホルモンである「コルチゾール」の濃度が高い状態が続くと、脳、なかでも特に記憶をつかさどる「海馬」という部分に負担がかかる可能性があるのです。

マルチタスクによって効率よくやっているつもりが、逆に非効率で、しかも脳の健康に悪影響を与える可能性があることは、ぜひ覚えておいてください。

やらなければならないことが山積みでも、私たちの脳が処理できるのは、たった1つだけ。目の前のことに集中するのが、結局、もっとも効率的なのです。

 

瞬時に集中モードに入る、いちばんシンプルな方法

とはいっても、今の世の中は、マルチタスクの誘惑だらけです。

仕事で、メールや電話だけでなく、1日に何度もチャットでのやりとりをしていませんか?しかも、いくつものチャットグループで、同時並行で何人もの人とやりとりをすることが日常になっている人も多いはずです。

複数のグループごとに瞬時に頭をきりかえる必要があるので、これでは脳が疲弊して集中力が下がってしまうのも当然です。

スマホも、脳がヘトヘトに疲れる大きな原因の1つです。

なにか通知がきたり、手持ちぶさたになったりするたびに、ついSNSやニュースサイト、スマホゲームを開いてしまう。

10分、15分、20分......と時間があっというまに過ぎて、「なにも作業が進んでいないのに、ぐったり......」という日もあるのではないでしょうか?

チャットもスマホも便利な道具で、今の時代を生きる私たちにとっては必要不可欠なものです。これらの道具なしには生きていけないし、仕事も家事も、どうしてもマルチタスク的なやり方になるのは仕方ありません。

急に「マルチタスクはよくないのでやめましょう」といわれても、どうすればいいのかわからなくなってしまいますよね。

 

1日のなかに集中する時間を持つ

そこで、私がおすすめしたいのが、目の前の1つのことに集中する時間を、1日のなかに少しだけ確保することです。

私たちは、特に意識せずにいると、1日のほとんどをマルチタスク的なやり方で過ごしてしまいます。それに、ちょっとだけ、あらがう作戦です。

目の前の1つのことに集中する、とっておきの方法があるので、ご紹介します。「ポモドーロ・テクニック」と呼ばれる方法です。

やり方を簡単にお伝えすると、「25分の集中+5分の休憩」を1セットとして、これを4セット繰り返す集中法です。

①「25分の集中+5分の休憩」→②「25分の集中+5分の休憩」→③「25分の集中+5分の休憩」→④「25分の集中+5分の休憩」のイメージです。

ちなみに、「ポモドーロ」とは、イタリア語で「トマト」のこと。この方法の開発者が愛用していたトマト型のキッチンタイマーに由来しています。

 

人間が集中できる、ちょうどいい長さ

25分は、長くもなく、短くもなく、多くの人にとって脳が飽きずに続けやすい、ちょうどいい時間だとされています。脳が「これくらいなら、がんばってみよう」と思いやすい絶妙な長さなのです。

また、途中に5分の休憩をはさむことで、脳がヘトヘトに疲弊する前に立ちどまることができ、集中力が持続しやすくなります。

がんばって集中したあとには、必ず5分の休憩が待っていて、それが脳の報酬となって、ドーパミンが分泌され、やる気も出やすくなります。

著者紹介

菅原道仁(すがわら・みちひと)

脳神経外科医

1970年、埼玉県生まれ。杏林大学医学部卒業後、国立国際医療研究センター、北原国際病院などに勤務。くも膜下出血や脳梗塞といった緊急の脳疾患を専門として、数多くの救急医療現場を経験する。2015年に菅原脳神経外科クリニック(東京都八王子市)、2019年に菅原クリニック東京脳ドック(東京都港区赤坂)を開院。「人生目標から考える医療」のスタイルを確立し、からだのことだけでなく、心や生き方もサポートする医療を行なう。著書に『すぐやる脳』『あの人を、脳から消す技術』(ともにサンマーク出版)などがある。

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