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社会

なぜ孤独な人はネットで攻撃的になるのか 嫌がらせがやめられない心理メカニズム

荻上チキ(評論家)

2026年05月26日 公開

さびしさ、悲しさ、不安感、無力感――。孤独は多くの負の感情をもたらします。荻上チキさんの著書『孤独をほぐす』は、孤独とはなにかを丁寧に解きほぐしながら、この社会がいかなる孤独を生み出しているのかをエッセイ形式で読み解いた一冊です。

本稿では同書より、インターネットと孤独の関係について語られた一節を紹介します。

※本稿は、荻上チキ著『孤独をほぐす』(PHP新書)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

孤独は人を攻撃的にする

SNSはその名の通り、社会的(ソーシャル)な交流(ネットワーキング)を構築・強化するためのサービスです。SNSへのアクセスは、多くの個人情報を委ねる行為でもあります。

閲覧履歴や検索履歴などからあなたの関心事項が学習され、商品の購入や契約の締結へと誘導をします。それまで知りもしなかった商品が無性にほしくなったという経験は、多くの人がしているでしょう。

孤独感は、買い物の意欲を高めたりもします。ほしい物を手に入れたという感覚は、脳に強い報酬を与えてくれます。さびしさを紛らわせるために、つい買い物サイトをめぐってしまったりするのです。

また、ウェブ上は「見せびらかし」で溢れています。広告ということを伏せてPRするようなものも少なくありません。そこから生まれる羨望は、何かしらの消費行動に結びつけられます。

 

SNSが与える報酬

孤独という感情は、市場の大いなる標的となっています。企業にとっては、その人がどれだけ孤独であったとしても、アクセスや購買をやめなければ「よい客」に見えるでしょう。

SNSとの接触それ自体もまた、孤独な人に対し、さまざまな報酬を与えてくれます。ただしそれが、個人にとって、あるいは社会にとって、よいことばかりとは限りません。

たとえば、人は「集団から排除されている」という排斥感を抱くと攻撃的になることが知られています。アメリカの学校での銃乱射事件では、犯人の事前行動に、いじめ被害や孤立、失恋などが関与している割合が高いと分析されています。

ネット上で攻撃的な行動を取る「トロール(荒らし)」の研究でも、孤独感の強い人ほどその傾向があると指摘されています。

インターネット上で普段は抑えているような行動を取ることを、オンライン脱抑制と言います。オンライン脱抑制化には、良性的なものと有毒的なものがあります。良性的な脱抑制としては、普段は恥ずかしくてできない人助けをネット上で行なうとか、自己開示をして相手と親密に関わることなどがあります。他方で有毒的な脱抑制としては、他人を攻撃したり、眉をひそめられるような意見をあえて発信したりすることなどがあります。

人を攻撃する場合というのは、決して無差別に行なわれるわけではありません。人が場面によって自分の姿を演じ分けるのは、ネット上での攻撃も同じです。あるサイトではキラキラした姿を見せ、別のサイトでは何かを攻撃してやまない。どのタイミングで、どのサービスを使って攻撃するのかという態度にも、相応の傾向があります。

 

ダークな性格が「活躍」する

写真共有サイトでは、容貌のいい人がフォロワーを増やしやすく、そのような容姿を持つ人には有利に働きます。一方で、匿名サイトなどでは「顔を出している人」や「名前を出している人」が攻撃されやすい。

では、他者への攻撃を促しやすい効果を持つサイトとはどんなものでしょうか。たとえば誰かをさかんに攻撃するユーザーがすでにおり、他のユーザーから称賛されている。攻撃対象からの報復も見られず、通報しても対応がなされているように思えない。しかもとんでもないことに、サイト管理人などが率先して攻撃を煽っている。そんなサイトは、人の攻撃を助長すると見てよいでしょう。

どのような人が、どのようなネット利用をするのかも重要です。人の性格には、いくつかのダークサイドがあります。よく分析されるのは、ナルシシズム、マキャベリズム(目的のためには手段を選ばない性格)、サイコパシー(共感性の低さ)。それから、サディズム、スパイト(自分で代償を払ってでも相手に損害を与える)、権威主義、不誠実さなどです。

多くの人にとっては躊躇するような行動が、フォロワーに称賛される。そのことで、ダークな性格が増幅され、他人への嫌がらせを続けてしまう。オンラインには、ダークな性格が「活躍」しやすいサイトがあります。他人への攻撃が盛り上がれば、PV数(閲覧数)やインプレッション数(表示回数)が増える。そこは、攻撃者ですら「よい客」としてしまう、ダークステージだと言えます。

イーロン・マスクによる買収後のツイッター(現X)は、わかりやすいサンプルです。インプレッション数を可視化し、その数に応じて報酬を支払い、差別投稿などを放置し、分極化を加速する仕組み(アルゴリズム)を継続する。目立つために手段を選ばないデジタル・マキャベリストや、他人に苦痛を与えて喜ぶデジタル・サディストにとって、格好のステージでしょう。

孤独な人同士が、オンラインでつながる。このこと自体は、よい面も悪い面もあります。ただし、そこで築かれた集合は、合意形成の主体を持たないため、制御が困難になりがちです。

プラットフォームがダークステージにならないためにどのような対応が必要なのかという議論が、ようやく先進国などで始まったところです。

自分がデジタル・ダークサイドに落ちず、孤独ゆえに攻撃的な振舞いをしてしまわないか。自己の特性と、デジタル環境との相性について語るためにも、さらなる分析言語とネット文化史の共有が必要です。

著者紹介

荻上チキ(おぎうえ・ちき)

評論家

1981年兵庫県生まれ。社会調査支援機構チキラボ所長。NPO法人ストップいじめ!ナビ代表。著書に『未来をつくる権利』(NHKブックス)、『いじめを生む教室』(PHP新書)、『みらいめがね』シリーズ(ヨシタケシンスケ氏との共著、暮しの手帖社)など。編著に『「あの選挙」はなんだったのか』(青弓社)など。ラジオ番組「荻上チキ・Session」(TBSラジオ)パーソナリティ。同番組で、ギャラクシー賞を受賞(2015年度ラジオ部門DJパーソナリティ賞、2016年度ラジオ部門大賞)。

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