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職場での「言いたいけど言えない」を卒業 空気を壊さずに本音を伝える「翻訳」の技術

黒田悠介(コミュニティ研究家)

2026年06月01日 公開

「本当はこう思うけれど、空気を壊したくない」「反対意見を言ったら評価が下がるかも......」。
日常生活において私たちは「建前」という鎧をまといがちです。職場では特にそうでしょう。しかし、建前ばかりの企業にイノベーションは生まれません。では、どうすれば相手の気分を損ねたり、自身の評価を下げることなく本音を伝えることができるでしょうか。ディスカッションパートナーとして3000人ものビジネスパーソンと向き合ってきた黒田悠介氏が、「本音翻訳」で相手が消化しやすい形に言葉を調理する方法を伝授します。

※本稿は、黒田悠介著『自分の本音を言葉にできる。モヤモヤを「伝わる」に整える、言葉のレッスン』(インプレス)より一部抜粋・編集したものです。

 

職場という舞台装置

月曜日の朝9時。会議室のドアを開けると、すでに何人かが席についています。
「おはようございます」と挨拶を交わしながら、あなたは心の中で別のことを考えています。

「今日の午後のプレゼン、チームで合意したものの本当にこの方向性でいいのだろうか......」
「そういえばこの会議、もっと効率的にできるよなあ......」

でも、こうした本音は、なかなか口に出せません。周りを見渡すと、皆が真剣な表情でプレゼン資料に目を通しています。ここで異を唱えたら「協調性がない」と思われるかもしれない。そんな不安が、あなたの本音に蓋をしてしまいます。
職場で本音を伝えることは、なぜ難しいのでしょうか。そして、どうすれば本音を相手に受け取ってもらえるのでしょうか。

職場は、働く人々が多くの時間を過ごす、独特な力学が作用する空間です。

職場での人間関係を説明する概念として「心理的契約」があります。もともとは組織理論家のクリス・アージリスが提唱し、その後、組織心理学者エドガー・シャインらによって、職場での人間関係を理解するための土台となる考え方として定義・普及してきた考え方です。心理的契約は、給与や労働時間といった書面上の雇用契約とは別に、従業員と組織の間で交わされる暗黙の期待や相互の義務のことです。たとえば「組織は公正な評価をしてくれるはずだ」「従業員は期待以上の貢献をすべきだ」といった、言葉にされない約束事が私たちの行動を規定しています。

この暗黙の了解が、本音を伝える上で大きな心理的障壁となります。なぜなら、空気を読まずに本音を言うことで、この見えない契約に違反してしまうかもしれないからです。

加えて、職場では常に「評価」が行われています。日々の発言や行動の一つひとつが、昇進や処遇、重要な仕事へのアサイン、周囲からの信頼といったキャリアに影響を及ぼす可能性があります。そのため、本音を率直に伝えることにはリスクが伴うと感じ、波風を立てない「無難な建前」を選択しがちになります。

しかし、ここに職場の大きなジレンマがあります。組織の成長にとって、実は本音こそが必要不可欠なのです。なぜなら、建前だけの表面的な合意ばかりでは、イノベーションの創出や、本質的な問題解決は望めないからです。
では、どうすればこのジレンマを乗り越えることができるのでしょうか。

 

本音を伝える「本音翻訳」アプローチ

職場での本音を円滑に伝えるため、「本音翻訳」というアプローチをご紹介します。

異なる言語を話す人同士が会話をする時に翻訳が必要なように、職場での本音も、そのまま相手に投げつけるだけではうまく伝わりません。むしろ誤解を生んだり、関係を悪化させたりすることさえあります。

そこで必要なのが、心の中にある「生の本音」を、相手が受け取りやすい形に「翻訳」することです。これは決して嘘をつくことではありません。いわば、本音という素材を、相手が消化しやすいように調理するようなものです。同じ内容でも、伝え方次第で相手の受け取り方はガラッと変わるのです。
では、具体的な場面でどう使うのか、見ていきましょう。

 

【1】上司に本音を伝える「建設的な提案」

ある外資系企業で働く山田さん(仮名)のエピソードをご紹介しましょう。
山田さんは、新しく赴任してきた上司の方針に強い違和感を抱いていました。「効率重視」を掲げる上司は、これまでチームが大切にしてきた顧客との丁寧なコミュニケーションを「無駄」と切り捨てようとしていたのです。山田さんの本音は「このままでは、長期的に見て顧客からの信頼を失ってしまう」というものでした。

しかし、新任の上司に真っ向から異を唱えるのは、キャリアにとってリスクが大きすぎます。そこで山田さんは、「建設的な提案」という本音翻訳を使うことにしました。
具体的には、こんな本音翻訳アプローチです。

まず、上司の価値観を理解し、共感を示すところから始めました。
「部長のおっしゃる通り、業務効率化は私たちの最重要課題だと思います。実際、無駄な作業を削減することで、より価値の高い仕事に時間を使えるようになりますよね」

次に、データと事実を用いて、現状の課題を客観的に提示しました。
「ただ、以前の顧客満足度調査の結果を分析していて気づいたことがあります。実は、私たちのチームが高評価を得ている最大の理由が『丁寧な対応』だったんです。この強みを活かしながら効率化する方法があれば、競合との差別化にもなると思うのですが......」

そして最後に、具体的な代替案を提案しました。
「そこで提案なのですが、まず3カ月間、顧客を『重要度』で分類して、それぞれに最適化したコミュニケーション戦略を試してみるのはいかがでしょうか。重要顧客には従来通り丁寧に、それ以外は効率化する。これならリスクを最小限に抑えながら、データを収集できると思います」

結果、上司は山田さんの提案を前向きに受け入れ、「君の視点は面白い。ぜひ試してみよう」と言ってくれたそうです。

ここでのポイントは、本音を「上司への不満」ではなく、「チームの成功への貢献」として位置づけ直したことです。上司も部下も、結局は「よい成果を出したい」という共通の願いを持っています。その共通点に立って本音翻訳をすれば、すんなりと受け取ってもらえるのです。

 

【2】同僚に本音を伝える「相談」

次は、同僚との関係を考えてみましょう。

IT企業でエンジニアとして働く佐藤さん(仮名)は、チームメイトの仕事の進め方に内心イライラしていました。その同僚は優秀なのですが、すべてを一人で抱え込む傾向があり、結果的にプロジェクト全体の進捗が遅れることが頻繁にあったのです。

同僚への本音は、上司とはまた違った難しさがあります。それは「対等な関係」だからこそ、アドバイスや指摘が「上から目線」に聞こえやすいという問題です。「お前に言われたくない」という反発を招きかねません。

そこで有効なのが、「相談」という形をとる本音翻訳アプローチです。人は不思議なもので、「教えてあげる」と言われると身構えますが、「相談がある」と言われると心を開きやすくなります。これは心理学でいう「ベンジャミン・フランクリン効果」で説明できます。人は誰かに親切をする(頼みごとを聞き入れる)と、その相手に対してより好意を抱きやすくなるという心理的な効果を指します。助けたという自身の行動と相手への感情を一致させようと、無意識に心が調整するためとされています。

さて、佐藤さんは、こんなふうに切り出しました。
「ちょっと相談があるんだけど、最近タスクの優先順位付けで悩んでてさ。○○さんはどうやって管理してる? いつも手際よくこなしているように見えるけど、実は大変だったりする?」
すると同僚は、「実は......」と自分の悩みを打ち明け始めました。「全部自分でやらないと不安で......。でも、正直キャパオーバーになってきたんだ」と。

そこで佐藤さんは、「実は僕も昔、同じ失敗をしたことがあって」と自己開示をしながら、「もしよかったら、今度のプロジェクトで分担方法を一緒に考えてみない?」と提案しました。
重要なのは「あなたが問題だ」ではなく、「あなたと解決したい」というメッセージを伝えることです。同僚という横の関係だからこそ、「共に悩み、共に成長する仲間」という立ち位置が重要なのです。

 

【3】部下に本音を伝える「成長への期待」

管理職の方なら、部下への本音の伝え方にも頭を悩ませることでしょう。

金融機関でチームリーダーを務める加藤さん(仮名)は、ある若手社員の仕事の質に課題を感じていました。締め切りは守るものの、成果物のクオリティが期待に届かない。でも「パワハラ」と受け取られることを恐れて、曖昧なフィードバックに終始していました。

現代の職場では、ハラスメントへの意識が高まっています。それ自体は素晴らしいことですが、一方で、必要な指導まで躊躇してしまうフィードバック恐怖症とでも呼ぶべき現象も生まれています。

ここで活用したいのが、「成長への期待」という翻訳です。これは、本音を「現状への不満」としてではなく、「将来への可能性」として伝える方法です。

加藤さんはこんな本音翻訳アプローチを取りました。
まず、部下の強みをしっかりと認めることから始めます。
「○○さんの時間管理能力は本当に素晴らしいと思っています。締め切りを守る意識は、チームの中でもトップクラスです」

次に、成長の可能性を「次のステージ」として提示します。
「そして、○○さんにはもっと成長できるポテンシャルがあると感じているんです。次のステージとして、『質』の部分にもこだわってみませんか」

そして、具体的かつ建設的なアドバイスを提供します。
「たとえば、資料作成では『読み手の視点』をもう少し意識すると、格段にレベルアップすると思います」

最後に、サポートの姿勢を明確に示します。
「もちろん、私もサポートします。週に一度、30分ほど1on1の時間を作って、一緒に成長戦略を考えていきましょう」

この方法の素晴らしさは、部下が「批判された」と感じるのではなく、「期待されている」「投資されている」と感じることです。人は批判されると防御的になりますが、期待されると前向きになれるものです。

 

【4】会議で本音を伝える「素朴な疑問」

最後に、会議での本音の伝え方を考えてみましょう。

会議は職場の中でも特に本音を言いにくい場面です。多くの人の前で発言し、その内容が議事録に残り、後々まで影響を与える可能性がある。だからこそ、皆が当たり障りのない意見に終始しがちです。
しかし、チームの生産性を最も高める要因は「心理的安全性」、つまり本音を言える環境です。では、どうすれば会議で本音を伝えられるでしょうか。

ここで威力を発揮するのが、「素朴な疑問」という本音翻訳です。これは自分の立場を低くすることで、相手が防御的にならずに済む問いかけです。

たとえば、明らかに非現実的な計画が提案された時、「この計画は現実的ではありません」と言うと、会議の空気が凍りつくかもしれません。代わりにこう言い換えてみるのです。
「素朴な疑問なのですが、リソースの観点から実現可能性はどの程度でしょうか? もし課題があれば、今のうちに対策を考えておいたほうがいいかもしれません」

あるいは、「ちょっと理解が追いついていないかもしれないのですが......」という前置きも効果的です。これも相手のメンツを保ちながら、本質的な問題を指摘する伝え方です。

実は私も、ディスカッションで「素朴な疑問」をよく使います。「素朴な疑問なのですが、この戦略は御社のビジョンの実現にどう寄与するでしょうか?」この一言が、時に経営戦略の根本的な見直しにつながることもあります。もちろん、クライアントが気を悪くすることはありません。

著者紹介

黒田悠介(くろだ・ゆうすけ)

コミュニティ研究家

2008年に東京大学卒業後、マーケティング企業2社と起業(売却済み)を経て2013年にスローガン株式会社へ入社。2015年にはフリーランスとしてディスカッションパートナーを生業とし、スタートアップから大企業の新規事業まで、主に1on1の議論を通じて立ち上げを支援。その傍ら2017年2月に日本最大級のフリーランスコミュニティ「FreelanceNow」や、同年11月に問いでつながるコミュニティ「議論メシ」を創立。2024年3月よりコミューンコミュニティラボ所長としてコミューン株式会社に参画しコミュニティ研究家として活動。

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