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感動しても困っても「ヤバい」しか言えない 怠けた脳をほぐす二つのコツ

川岸宏司(株式会社DIL 共同創業者)

2026年06月04日 公開

会話のなかで「ヤバい」や「すごい」をつい多用していませんか。これらの言葉は万能である一方、物事をとらえるための思考は徐々に浅くなってしまいます。

かつては「ヤバい」を多用していたと振り返る起業家の川岸宏司さんは、著書『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』にて「ヤバい」に束ねられた感情をひもとく2つの武器を紹介しています。

※本稿は、川岸宏司著『なぜ、あの人の言葉は心に響くのか』(大和出版)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

「ヤバい」「すごい」が出た瞬間こそチャンス

「このラーメン、マジでヤバい」「あの映画、すごかったよね」「推しが尊すぎてヤバい」。私たちは日常的に、この便利な言葉たちに救われています。

「ヤバい」や「すごい」は、いわば会話における「万能調味料」です。美味しくても、不味くても、驚いても、引いても、とりあえずこれを掛けておけば会話という料理は成立してしまう。だからこそ、脳はこのコストのかからない言葉が大好き。そして、人の思考は徐々にゆっくりと浅くなっていく。

ただし、最初に補足しておきたいのですが、私はこの言葉を日常から完全に排除すべきだ、と言っているわけではありません。むしろ、「ヤバい」は人間関係を育むための「必要悪」でもあります。説明を尽くした論理的で丁寧な言葉は間違いなく伝わりますが、どこか他人行儀です。一方で、「これヤバいね!」「わかる、ヤバい!」といった直情的で文脈に依存した言葉は、お互いの感情をダイレクトに繋ぐ、素直で強力な接着剤になります。

ただし、ここには笑えない落とし穴があるからこそ、伝えたいことがあります。

「ヤバい」しか言えない人の周りには、得てして「何がヤバいのか気づかない人」しか集まりません。互いに「ヤバいね」とうなずき合うだけで、その「ヤバい状況」の本質には誰も気づけず、問題は永久に解消されない......という地獄のようなループが生まれます(笑)。

居酒屋で友人と盛り上がる分には、そのループは心底楽しい。ですが、ビジネスや人生の重要な局面でそれをやってしまうと、あなたは「思考を省略してしまった人」と認定され、結果としてあなた自身が周囲から「ヤバい人」扱いとなります。

重要なのはTPOに合わせて「言葉の解像度」をスイッチできるかではないでしょうか。友人と笑い合うときは「ヤバい」という接着剤を使い、思考を深めるときは解像度を上げてメスを入れる。

言語化力を鍛えたいと願うなら、まずは無意識に口をついて出る万能調味料の使用を「禁止」してください。つまり、「ヤバい」という言葉で思考を完結させることを禁止する、という意味です。

 

そのとき、脳内で何が起きているか

正直に告白すると、私自身が「ヤバい」という言葉に脳を汚染されていた人間でした。感動しても「ヤバい」を使い、困っても「ヤバい」と伝える。語彙の貧しさは、思考の貧しさそのものです。

だからこそ、なぜ自分がこれほどまでに思考停止してしまうのか、自分の脳内を徹底的に解剖すると、私の脳内では、次の3ステップで思考が停止していました。

ステップ1:心が動く

美味しい、美しい、恐ろしい、感動、驚き......。外界からの刺激を受け、たしかに私の心は動いています。ここまでは正常。

ステップ2:脳が処理をサボる

ここで脳の悪癖が出ます。「分析するのがめんどくさい」と判断し、詳細な処理をすっ飛ばして、手元にある一番手軽な「スタンプ」を押しにかかります。

ステップ3:出力

「ヤバい」「すごい」。結果として、口から出るのは手垢のついた言葉だけ。これでは何も伝わらないし、誰とも差別化できない。最悪の場合、自分が本当は何を感じたのか、その感情すら忘れてしまいます。

ここまで聞くと絶望的に感じるかもしれません。ですが、「ヤバい」と言いたくなった瞬間は、実はチャンスだと思っています。それは、脳内で「まだ言語化されていないレアな感情」が見つかった合図だから。思考停止ワードが出たということは、裏を返せば「既存の言葉では処理しきれないほど心が大きく動いた」という証拠。そこには必ず、あなただけの言葉のタネが埋まっています。

では、どうやってそのタネを掘り起こすのか。「ヤバい」という圧縮された感情を解凍するための、2つの武器をお渡しします。

 

武器①:「ヤバい」を分解する4つのレンズ

私がイメージしつつ実践しているのは、カメラのレンズをカチャカチャと切り替える作業です。「どの部分」が「どう」ヤバいのか? これらを自問するためのレンズは、経験上4つしかありません。わかりやすく、先ほどの「ヤバいラーメン」を例に、1つの対象を4つのレンズでたとえてみます。

レンズ①:期待とのズレを見る

レンズを通すなら、まずは、真っ先に「何が想像と違ったのか?」を脳に聞いてください。人間が感動するのは、予想通りだったときではなく、いい意味で予想を裏切られたときだけだからです。

(脳内の言語化)「店構えは油でギトギトの床、頑固そうな店主。どう見てもこってりした男飯が出てきそうなのに、出てきたスープが透き通るように繊細で、料亭のお吸い物みたいだった。このギャップがヤバい」→「意外性」に言葉のタネがある。

レンズ②:細部のこだわりを見る

次にズームレンズを使います。「具体的にどこのパーツが効いているのか?」と問うイメージです。なぜなら必ず心を撃ち抜いた「特定のパーツ」があるはずだからです。

(脳内の言語化)「スープもすごいけど、よく見るとチャーシューが違う。煮豚じゃなくて、低温調理されたローストポーク。しかも、スープの熱で火が通りすぎないように、丼の縁に避難させて盛り付けられている。この配慮がヤバい」→「構成要素」に言葉のタネがある。

レンズ③:変化の度合いを見る

今度は時間軸のレンズです。「BeforeとAfterで何が変わったのか?」を見てください。

(脳内の言語化)「半年前にも来たけど、あのときはもっと麺が太かった気がする。スープの繊細さを際立たせるために、あえて麺を細く、しなやかなものに変えたんだ。現状維持を選ばない進化がヤバい」→「成長幅」に言葉のタネがある。

レンズ④:背景や文脈を見る

そして、最後は広角レンズ。「なぜ今のタイミングでこれなのか?」を俯瞰して問います。目の前の現象だけでなく、その背後にある「意図」や「時代の流れ」を読み解く視点です。

(脳内の言語化)「このエリアは最近、若者向けの『二郎系』や『家系』の出店ラッシュで飽和している。そんな中で、あえてターゲットを少し上の世代にずらした『淡麗系』で勝負に出た戦略がヤバい」→「背景・意図」に言葉のタネがある。

「ヤバい!」と思ったら、すぐにこの4つのレンズのどれかに当てはめてみてください。「あっ、私はこの店の『戦略』に反応したんだ」と気づくだけで、言葉は一気に具体的になります。

 

武器②:感情の解凍語彙マップ

4つのレンズを使っても、まだ言葉が出てこないこともあります。というより、そんなことばかりだと思いますので、自分の感情を「逆探知」する必殺技も添えておきます。

ゼロから言葉をひねり出すのは難しいですが、並べられた言葉から「選ぶ」ことなら脳は抵抗なくできます。上図は、私がいつも脳内に貼っている「感情の解凍語彙マップ」です。「あっ、これに近いかも」というタグを選ぶことで、思考を強制的に起動させます。

使い方は簡単です。「このデザイン、ヤバい!」と思ったら、「この表があったな」と思い出してみてください。「『緻密』かな? いや、もっと目に焼き付く感じだから『鮮烈』に近いかも」。そうやって選ぶ過程で、あなたの感情の輪郭は驚くほどはっきりしてくるはず。

人は言葉の中でしか思考を深めることはできません。だからこそ、言葉を見ることで逆探知し、思考を深めることができると思っています。

思考停止ワードを飲み込んで、レンズを当て、タグを選ぶ。まずはここから始めてみてください。

 

痛みや違和感こそ、「宝の山」

「承知いたしました。精一杯やらせていただきます」

あなたは上司の目を見て、爽やかな笑顔でそう答えます。脳内では「ここで仕事を引き受ければ評価が上がる」「断る理由もない」と、完璧な計算が弾き出されているはず。

しかし、その言葉を口にした瞬間、ズン、と胃が重くなる感覚がありませんか?あるいは、喉の奥がキュッと締まり、呼吸が浅くなるような感覚。口は笑い、脳は納得しているのに、なぜか内臓だけが強烈に拒絶している。

このとき、正しいのは言葉と身体のどちらでしょうか?言うまでもなく、正しいのは「身体」です。

前項で、脳は平気でサボり、嘘をつくとお伝えしました。対して、身体は決して嘘をつきません。驚くほど素直で、無垢で、脳が論理で言葉を繕うよりも早く、身体は本音を検知し、痛みや違和感としてアラートを鳴らしてくれます。

多くの人は、このアラートを「体調不良」や「気のせい」だと無視してしまいます。一方で、言語化が得意な人は、この痛みを「宝の山」だと捉えているケースが多い。なぜなら、そのズキズキする痛みの中にこそ、今の状況を正しく認識するための「2つの言語化のタネ」が埋まっているからです。

著者紹介

川岸宏司(かわぎし・こうじ)

株式会社DIL 共同創業者

貧困生活の中、16歳で社会に出て、17歳で貴金属事業を共同起業。自己成長のために本を読み始めるも、「面白いが時間がかかる」という悩みから速読教室に通う。しかし、多額を投じて試した手法はいずれも理解を置き去りにすると痛感する。速読手法を追い求める中で、読書は「文字を目で追いながら、脳内で音として理解する行為」と気づく。
そこで、読書速度の上限は、「脳の内なる声」の処理速度に基づくと仮説を立てる。高速音声を継続的に聴くことで、「脳の内なる声」の処理を鍛えるメソッドを開発。科学的根拠を踏まえた「理解を犠牲にしない速読法」を確立した。自身が運営していた有料読書コミュニティ内で速読講座を開いたところ、1000人以上から高い評価を得た。実務と研究を往復しながら、「速く、深く、人生を変える読書」の体験をひろげている。
現在は、株式会社DILを含む複数会社を経営し、SNS顧問/デザイン/営業代行/書籍プロデュースの業務を担う。Voicy『マグの1%読書ラジオ』は累計再生180万回超。2020年開始のXでは読書術/言語化術を発信し、5年で10万フォロワーを突破。

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