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「昔の病気」ではなかった...いま結核が増えている”他人事ではない”理由

武井智昭,吉澤恵理

2026年06月11日 公開 2026年06月11日 更新

結核というと「昔の病気」というイメージを持つ人も少なくありません。しかし現在でも、日本では毎年1万人以上が新たに発症しており、およそ1,500人が亡くなっています。長引く咳の陰に結核が隠れている可能性もゼロではありません。今回は、高座渋谷つばさクリニック院長の武井智昭医師に、結核の現状と注意すべき症状について話を聞きました。(文・吉澤恵理)

 

結核は「過去の病気」ではない

福岡県では、2024年12月29日から2025年5月17日までの結核患者の累計は286人で、前年同時期より24人増加しているという報告がありました。

一方、SNSでは、「咳だけがずっと続く」「コロナでもインフルでもない」「熱はないのにだるい」といった、謎の体調不良を訴える声も広がっています。もちろん、その多くは一般的な感染症と考えられます。しかし、こうした長引く咳の陰に、結核が隠れている可能性もゼロではありません。

ただ、結核について実はよく分からないという人も多いのではないでしょうか。

武井医師は次のように説明します。

――結核は過去の病気ではないと考えるべきでしょうか?

「そうですね。多くの方が、昔の病気という印象を持っていると思います。実際、戦後しばらくの日本では、結核は国民病と呼ばれていました。1951年頃には年間およそ59万人以上の患者がいたとされ、死亡者数も年間10万人を超えていた時代があります。当時は若い世代の死亡原因としても非常に多く、不治の病と思われていました」

「大きな転機になったのが、抗結核薬の登場です。1940年代後半に現在の治療の中心となる薬が次々に登場しました。さらに、栄養状態の改善、衛生環境の向上、BCGワクチンの普及、定期健診や胸部レントゲン検査などによって、日本の結核患者数は大きく減少していきました。その結果、日本は2021年にWHO基準で『結核低まん延国』となりました」

――2021年というと最近ですね。低まん延国とは、まだ感染はあるということですね?

「はい、"ゼロになった"わけではありません。現在でも毎年1万人以上が発症していますし、特に高齢者では、若い頃に感染して体内に潜んでいた結核菌が、加齢や免疫低下をきっかけに再活性化するケースがあります。つまり結核は、昔流行した病気ではあるけれど、終わった病気ではない。古くて新しい病気と言えます」

 

風邪と似た初期症状、特に注意すべきサインとは

――結核の症状とはどういった症状ですか?

「結核の初期症状は、咳・痰・微熱・倦怠感など、一般的な風邪と非常によく似ています。そのため、最初は『風邪かな』『気管支炎だろう』と考えられ、別の診断で治療されているケースも少なくありません」

「結核で特に注意してほしいのは、『2週間以上咳が続く』という点です。さらに、体重減少・血痰・寝汗・食欲低下などがみられる場合には、結核の可能性も考える必要があります」

――最近では、結核を診察したことがない医師も増えていると言われますが、実際にはどうですか?

「はい。特に若い世代の医師では、教科書で学んでも実際に結核患者の診察を経験していないケースは珍しくありません。一時期、日本では結核患者がかなり減少しましたから、診察する機会自体が少なくなっています。そのため、『まず結核を疑う』という経験値が少ないこともあります。ただ、だからこそ重要なのが、長引く咳を軽く見ないことです」

 

診断から治療まで――結核はすぐに確定できない

――結核が疑われた場合は、どのように診断していくのでしょうか?

「まず胸部X線検査を行います。そのうえで、CT検査・喀痰検査・PCR検査・IGRA(T-SPOT、QFTなど)を組み合わせて診断していきます。ただし、結核はその場ですぐ確定診断できる病気ではありません。喀痰検査では菌が検出されるまで時間がかかることもあります。そのため、結核かもしれないと考えて検査につなげること自体がとても重要です」

――結核を発症した場合、必ず抗菌薬の治療が必要なのでしょうか?

「はい。基本的に、活動性結核を発症した場合は、抗結核薬による治療が必要になります。放置すると重症化したり、周囲へ感染を広げたりするリスクがあります。また、途中で自己判断で薬をやめてしまうと、再発や薬剤耐性の原因になることがあります」

 

感染力とBCGワクチンの効果

――結核は、どのくらい感染力があるのでしょうか?

「結核は、空気感染する病気です。患者さんが咳やくしゃみをした際に、空気中に結核菌が広がり、それを吸い込むことで感染します。ただ、インフルエンザや新型コロナのように、短時間で次々に感染するというタイプとは少し違います。一般的には、長時間同じ空間にいる、換気が悪い、家族や職場など濃厚な接触、こうした環境で感染リスクが高くなります」

――多くの人がBCGの予防接種を受けていますが、効果はあるのでしょうか?

「はい、BCGワクチンには一定の効果があります。特に、結核性髄膜炎や粟粒結核など、乳幼児の重症結核を防ぐ効果が重要とされています。ただ、BCGは感染そのものを完全に防ぐワクチンではありません。そのため、『BCGを受けているから絶対に大丈夫』とは言い切れません」

――予防接種を受けていれば、感染しても軽症や自然治癒することもあるのでしょうか?

「感染しても発症しない人は多くいます。ただし、BCGを打っているから自然治癒する、必ず軽症で済むとは言い切れません。特に高齢者や免疫が低下している方では、潜んでいた結核菌が再び活動を始めることがあります」

 

「謎風邪」の陰に結核が隠れている可能性は?

――SNSで広がる謎風邪の陰に、結核が隠れている可能性はあるのでしょうか?

「可能性としては、あるといえますが、謎風邪と呼ばれている症状の多くは一般的な風邪だと思われます。ただ、結核も初期症状は非常に風邪に似ていますので、咳が2週間以上続く、体重減少、血痰、こうした症状がある場合は、一度医療機関を受診してほしいと思います。結核は、早期発見・早期治療が非常に大切な病気です」

著者紹介

武井智昭(たけいともあき)

高座渋谷つばさクリニック院長

2002年、慶應義塾大学医学部卒業。小児科医・内科医として幅広い診療経験を積み、現在は高座渋谷つばさクリニック院長。感染症、アレルギー、呼吸器疾患、予防医学を専門とし、0歳から高齢者まで幅広い世代を診療している。NHK『チコちゃんに叱られる!』、フジテレビ『めざましテレビ』などメディア出演も多数。海外メディアからも注目を集める医師として知られる。著書に『寿命格差という罠〜今、必要なのはハズレ医者を見抜くスキル〜』がある。

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