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感情的に怒る上司をかわす 行動経済学が示す「脳のクセ」を活かしたハラスメント対策

竹林正樹(行動経済学者)

2026年07月28日 公開 2026年07月28日 更新

つい言い過ぎてしまったり、相手の態度を過剰にうかがってしまったり...しんどい人間関係も、脳のクセを理解してナッジを設計することで解消できるといいます。行動経済学者の竹林正樹さんは著書『すぐやる人の脳のクセ!』にて、認知バイアスをうまく活用して行動を変えるための技術を解説しています。

本稿では、対人関係のストレスを解消するためのちょっとしたコツを紹介します。

※本稿は竹林正樹著『すぐやる人の脳のクセ!』(飛鳥新社)より一部を抜粋・編集したものです。

 

言いすぎ、気にしすぎを和らげるナッジ

「なんであんなこと言っちゃったんだろう」「相手の態度はよくなかったけど、あそこまで怒る必要はなかった」「あのときの反応、嫌な印象を与えたかも」。このように、私たちは毎日、想像以上に人間関係に心を揺さぶられています。

本稿では感情の揺れやコミュニケーションのすれ違いなどを優しく整えるナッジを紹介します。「人とかかわるのがしんどい」から「人とかかわるのも悪くない」に変えるナッジを設計することで、あなたの心と人間関係を軽やかにします。

 

ゆっくり小さめの声で話す

こんな人にオススメ:家族にきつく言ってしまう人
ナッジ:ペースナッジ

許せないことがあると、ついきつい言葉をぶつけてしまいます。そんなときに効果的なのが、ゆっくり小さめの声で話すことです(ペースナッジ)。早口で大声で話すと、それに合わせて興奮状態になり、衝動的な言葉が出やすくなります。一方で、ゆっくり小さめの声で話すと、自然と思考も落ち着き、感情も穏やかになるのです。これは、「行動が先、思考が後」という脳のクセが関係しています。

さらに、私たちには同調バイアスがあるため、話すトーンは相手に伝染します。あなたが感情的に話せば相手も感情的に、あなたがゆっくり落ち着いた様子で話せば相手も落ち着いたペースになる可能性が高いのです。同じ言葉でも、早口で言えば責めているように聞こえ、ゆっくり言えば、受け取る印象が和らぎます。

イライラがこみ上げてきたら、一度深呼吸して、話すスピードを2段階ほど落としてみてください。それだけで、不必要な衝突を減らすことができます。

 

オウム返しする

こんな人にオススメ:他人にないがしろにされていると思っている人
ナッジ:フィードバックナッジ

感情を爆発させる上司を前にしたとき、あなたはどんなことを考えていますか。パワハラを受けるのは、自分のメンタルにとって非常事態です。多くの人は、「自分が我慢してこの場をやりすごせばいい」「聞いているフリだけして、嵐が過ぎるのを待とう」などと正常時のような対応をしてしまうのです(正常性バイアス)。

実はそれが「逆効果」になることも多々あります。なぜなら、相手は、「この人にはこれくらい言わないと響かない」という基準ができ、次回にはさらに攻撃的な言動をエスカレートさせる可能性があるからです。だからこそ、我慢を重ねて心身を壊す前に、ナッジを使って攻撃を「そらす」という選択がいいのです。

そこでオススメしたいのは、相手の言葉をオウム返ししながらメモを取ることです(フィードバックナッジ)。一見、社会人の基本のように思えるこの行動が、実はパワハラを抑止する力を持っています。

私も若い頃、ある上司から「お前は小学生か」「君は頭が弱い」「痛い目に遭わないとわからないようだな」などと、一方的に怒鳴られ続けたことがありました。当時の私はただ下を向いて耐えていましたが、今ならこう言います。

「ご指導ありがとうございます。同じミスを防ぐために、メモを取らせてください」「『お前は小学生か!』とおっしゃったのですね」

相手は「この内容が記録に残る」となると、ペースが狂いはじめます。かといって、「メモを取るな」とは言いづらい―。その結果、攻撃的な言葉を発しにくくなり、自らトーンを変えざるを得なくなるのです。

 

相手にする価値があるかの線引きを明確にする

こんな人にオススメ:SNSでトラブルに巻き込まれることの多い人
ナッジ:明確化ナッジ

SNSで不快なコメントをもらったとき、私たちはすぐに反論したくなってしまいます(返報性バイアス)。しかし、そこに時間と労力を費やす前に、「この相手にかかわる価値があるかどうか」を、自分の中であらかじめ明確に線引きしておくこと(明確化ナッジ)をオススメします。

この線引きができていれば、不快な言葉を投げかけられても、「相手にする価値なし。却下」と、広い心でスルーすることができます。多くの場合、攻撃的なコメントの主は、暇を持て余していて他人を自分の土俵に引きずり込みたいだけです。もし暴言まがいのコメントを受けても、「これは、自分に酔っているSNS上の酔っぱらいだ」と考えると、そんなに腹も立たなくなります。実際、駅前で酔っぱらいが騒いでいても、わざわざ言い返す人は少ないですよね。言い返して大喧嘩になるのは、割に合いません。

SNSでも同じで、「そっと離れる」「目に余るようなら通報する」という対応がベストです。相手にわかってほしいと願って丁寧に説明しても、酔っぱらいには通じません。「きっと伝わるはず」という気持ちは、「自分が状況をコントロールできる」という幻想(コントロールバイアス)かもしれないのです。

私たちの理性も、時間も、労力も限られた資源のようなものです。酔っぱらいをわからせるのに有限な資源を使うのは、ムダ使いです。絡まれたら、呼吸を整え、相手に「この人は酔っぱらい」のラベルを貼り、静かに距離を取る。こうして、心の安全を守りましょう。

著者紹介

竹林正樹(たけばやし・まさき)

行動経済学者

青森県出身。立教大学経済学部、米国University of Phoenix大学大学院(Master of Business Administration)、青森県立保健大学大学院修了(博士(健康科学))。
若い頃、祖母に通院するよう説得して拒絶された経験から、「人を自発的に健康行動へと動かす」ことの探求をはじめてナッジ理論に出合う。現在、「頭ではわかっていても、健康行動できない人を動かすには?」をテーマにした研究を行っている。「ホンマでっか!? TV」(フジテレビ)をはじめ、各種メディアでナッジの魅力を発信し、年間約200回の講演を行っている。
著書に『心のゾウを動かす方法』(扶桑社)、『ビジネスパーソンのための使える行動経済学』(大和書房)、『行動経済学トレーニング』(かんき出版)などがある。

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