「厳しい上司」と「優しい上司」 どちらが成果を出せるチームをつくるのか
2026年04月21日 公開
部下を成長させるためには、厳しく接するべきか、優しく寄り添うべきか。多くのリーダーが「優しくしたら成果が出ないのでは」という葛藤を抱えています。しかし、コンパッション(いたわり・優しさ)は単なる理想論ではなく、エンゲージメントや創造性を高める「最強の戦略」です。
本稿では、スタンフォード大学認定コンパッション・アンバサダーである鈴木亜佐子氏の著書『スタンフォード式 自分をいたわる人がうまくいく』より、優しさを組織の「仕組み」に変え、成果を生み出すコンパッション・リーダーシップについて紹介します。
※本稿は、鈴木亜佐子著『スタンフォード式 自分をいたわる人がうまくいく』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
「優しくしたら成果が出ない」という呪い
良心的で誠実なリーダーほど、「優しさを出しづらい空気」との葛藤を抱えています。
会議で部下の意見をていねいに聞けば「甘いマネジメントだ」と言われる。
一人ひとりの成長ペースを尊重すると「厳しさが足りない」と評価される。
その背景には、「歯を食いしばってがんばれば道は拓ける」「愛のムチこそ人を育てる」といった長く日本社会に根づいてきた価値観があります。
その結果、「優しさ=甘さ」「成果と優しさは両立できない」という誤解が、ごく自然な常識のような顔をして広がってしまったのです。
優しさが封じられた職場で起きること
誰かが悪意を持っているわけではありません。
むしろ、「ちゃんとしなければ」「厳しくしなければ」という善意から、優しさが引っ込んでしまうのです。けれど、その結果として次のようなコストが積み重なっていきます。
上司は、本当は助けたい気持ちを押し殺し続け、共感する力がすり減っていきます。部下は、「助けて」と言い出せず、一人で抱え込みます。小さなミスが重なり、やがては大きなトラブルや突然の休職につながってしまいます。
チーム全体では、「声をかけづらい」「弱みを見せづらい」空気が広がり、心理的安全性が低下します。誰もリスクを取りたがらず、新しい挑戦やアイデアが生まれにくくなっていきます。
本書ではこれを、「優しさの不在コスト」と呼んでいます。
優しさを「仕組み」に変える技術
「一人ひとりは優しいのに、組織全体の雰囲気はギスギスしている」「よい人が多いのに、助け合いが個人の善意に任されている」。そんな違和感を抱いたことはないでしょうか。
理由は、とてもシンプルです。優しさが個人に依存している限り、組織の空気は変わらないからです。忙しくなれば、思いやりは真っ先に削られます。場の緊張が高まれば、思いやりは後回しになります。だからこそ必要なのは、思いやりを「仕組み」にするという視点です。
優しさを「仕組み」にしたリーダーたち
実際に、コンパッションを経営の仕組みとして組み込み、成果にまでつなげている企業は存在します。彼らがしているのは、優しさを「思いつき」や「その人の性格」に頼らせず、日常のルールや制度の中に、あらかじめ組み込んでしまうことです。
世界最大級のビジネスSNSを運営するリンクトインの元CEOジェフ・ワイナーは、議論がヒートアップしたとき、「ちょっと待ってください。彼がそこまで強く主張している背景に、どんな経験や感情があるのか理解できているでしょうか」と一言挟みました。相手を言い負かす議論が、対話に切り替わります。優しさは、対立を創造的なエネルギーに変える「場づくりの技術」なのです。
アウトドアブランドのパタゴニアは、「社員の人生が豊かでなければ、会社の仕事も決して豊かにはならない」という哲学のもと、社員の人生を丸ごと支える制度として優しさを形にしました。
セールスフォースとユニリーバは、社会への貢献やコンパッションを企業理念や経営の核に据えました。
どれも、「たまたま優しい人がいたから」続いているわけではありません。会議のルールとして、人事制度として、企業理念として、意図的に設計されているのです。
優しさは、もはや「理想論」ではなく、戦略
「優しさが大事なのはわかる。でも、本当にそれで成果は出るのだろうか」という疑問もあるでしょう。
しかし今、世界中の研究ははっきりと別の方向を指し示し始めています。
大規模な国際調査では、「職場で尊重され、人として大切に扱われている」と感じている人ほど、仕事へのエンゲージメント(熱意・没頭・誇り)が著しく高いことが報告されています。人は、「ここでは自分が大切にされている」という感覚を持った瞬間、脳の中の「脅威モード」が緩みます。「失敗したらどうしよう」という防御のエネルギーが弱まり、その分、創造性や問題解決に力を使えるようになるのです。
優しさは、エンゲージメントを高め、離職を防ぎ、顧客満足度を底上げし、創造性と挑戦を支える。つまり、単なる「いい人であろう」という姿勢ではなく、成果を生み出すための「構造」そのものなのです。
短期の数字だけを追いかけ、人を消耗させる経営は、もはや長く持ちません。優しさは、もはや「理想論」ではなく、人間らしさをそのまま競争力に変える最強の経営資源なのです。