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生き方

言葉は環境に影響される 子どもとの会話が断絶していた親が育った家庭とは

キム・ユンナ(著), 簗田順子(翻訳)

2026年07月15日 公開

「キツいつもりはないのに、そう受け取られてしまう」「なぜか遠回しな言い方しかできない」「感情的になると、言ってはいけないことを言ってしまう」——こうした言葉の癖は、実は自分では選んでいないのかもしれません。

私たちが無意識に繰り返してしまう言葉のパターンには、親やきょうだい、かつての上司など、身近な人から吸収した「記憶」が宿っています。善し悪しの判断なしに取り込まれた言葉の習慣は、心理学的に見ても根が深く、話し方だけを意識して変えようとしてもなかなか変わらないのはそのためです。

本稿では、韓国のコーチング心理学者キム・ユンナが豊富な事例をもとに、言葉の癖が生まれるメカニズムと、そこから抜け出すためのヒントを解説します。

※本稿は、キム・ユンナ(著),簗田順子(翻訳)『余裕があるほど心が満たされることばの器』(ディスヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。

 

人にはそれぞれ口癖がある

「私、言葉がキツイんです。そういうつもりはないんですけど、表現がそうなっちゃうんですよね。そのせいで誤解されることもあるんですけど......どうしようもないですよね」

「もともと、人に注意できないんです。人に言うより自分でやっちゃったほうが楽ですから。感情的になると不安なんです」

「言い方が回りくどいって言われます。ストレートに言うのってなんか気まずくて......それで遠回しな言い方になっちゃうみたいなんです。話すとき、人の目が気になって慎重になりますね」

人にはそれぞれ口癖があります。きつい言葉、大げさな言葉、だらだらした言葉、馴れ馴れしい言葉、控えめな言葉など、会話するときに自分だけのパターンが見えます。

口調や雰囲気は生まれつきの気質の影響もありますが、育ってきた環境を無視することはできません。最も近いところでは親やきょうだい、仲のいい友だち、社会人になってから知り合った人たちの口調に影響を受けるのです。

 

子どもとの会話が断絶していた女性

少し前ケーブルTVに、女性タレントと子どもたちが出演していました。親子の日常をリアルに見せる番組だったのですが、出演者の中でも彼女の会話がとても目につきました。親の立場で見るのが切なくなるほど、子どもとの会話が断絶しており、悩んでいるのがわかるのです。記憶に残っているのは、母親に冷淡な態度を見せる上の娘との間の、次のようなやり取りです。

「理由を言いなさい。あんたがそういう態度を取るようになった理由」
「お母さんが言うことじゃないと思うんだけど」
「はあ?」
「あたしがそう思うってことは、お母さんが今まで何もしてないってことじゃない。あたしに関心を持つ時間がなかったからでしょ?」
「関心ないわけないじゃない!」
「お母さんが何にもしてないのは事実じゃない」
「ずっとそういう気持ちでいたわけ?」
「そうだけど」
「どういう点で何もしてないと思うの?」
「じゃあお母さんは何をしたと思ってるの?」
「......」

母親は子どもとの関係を何とかしようとして会話を試みるのですが、表情はずっと硬直したままで、質問は堅苦しいのです。子どもの心情を理解するのではなく、ここまで努力している自分を認めてくれない娘を恨んでいるようでした。

もしも感情に正直な人だったら、「ずっとそんな気持ちでいたのか」と問いただすのではなく、「そんなことを言われたらお母さんはすごく悲しい」と言っていたはずです。自分の公式を理解していたら、「お母さんは強くてカッコいいお母さんになるべきだと信じていたみたい。でも、それがあなたたちを寂しがらせていたんだね」と言えたかもしれません。でも彼女は、自分の昔ながらの言葉の習慣から抜け出せず、その日の会話を終えました。

その後、私は彼女のことが気になり始めました。他の番組を見て知ったのは、彼女が8人きょうだいの5番目だということでした。男の子最優先の時代に、女の子を4人生んでいたお母さんは、彼女を妊娠したときトラの夢を見たのだそうです。だから家族はみんな、絶対に男の子だと信じていたのに、彼女が生まれたのでした。

家族の信頼を裏切った娘を見て絶望したお母さんは、生まれたばかりの彼女を、厚い布団の下に閉じ込めたそうです。でも、彼女は生き残り、お母さんにとって「息子であるべきだった娘」「間違って生まれた娘」「生まれてはいけない娘」になったのです。

そんな環境で育った彼女は、厳しい言葉、ひどい扱いにも耐えられるように、強くなければなりませんでした。自分を守るため、存在を証明するために、立ち止まらず必死に生きたのです。彼女には、そうするしかない理由がありました。力のない子どもは、冷たい母親に傷つけられまいと必死であがいたのでしょうが、母の言葉は体と心のあちこちに染み込み、彼女とともに育ったのです。

かばって、なだめて、慰める言葉ではなく、指摘し、恨み、非難する言葉になじんでいったのでしょう。「愛してる」という言葉を聞いたことのない娘が、「愛してる」と告白する母親になるのは大変なことです。「余計な口出しするんじゃない!」と言われて育った人が、「大丈夫、きみはきみのままでいいよ」と言える大人になるのは大変なことなのです。環境に適応しているうちに、言葉は母から娘に受け継がれ、彼女の子どもたちも、強い母のせいで寂しがっているのでしょう。

でも、驚いたことに、時間が経って彼女は変化する姿を見せました。子どもたちを見つめる自分のまなざし、表情、口調を初めて明確に認識し、悟ったようなのです。

 

よく聞いた言葉は受け継がれる

親子の間で言葉が受け継がれるのは、彼女に限ったことではありません。

「お母さんのムカつく小言に勝てる人はいない。ホントにうんざり。私は絶対ああはならない」

いつも父親とケンカしている母親を見ながら、こんなふうに決心していた女性が、結婚してから母親に似ていく自分に気づくケースもあります。言葉の遺伝が人間関係の繰り返しを作り出すのでしょう。

「ぼくはお父さんのように不愛想な父親にはならないぞ」と言いながら、子どもたちにどう接すればいいかわからず、固まってしまう人もいますね。これが舌の先にくっついてしまった習慣なのです。空気のように、呼吸のように、なじんでしまった言葉の習慣。

心理学者アルバート・バンデューラは「私たちは、状況の中で多くのことを模倣しながら学習している」と言っています。見ているだけでも、多くの情報を習得できるという意味です。この過程は観察学習(modelling)と言われ、直接経験しなくても、観察するだけでその方法を習得できるということです。また、他人の行動の結果を見て、報酬を得たなど期待した結果に結びつけば、自分もそうしようという思いが強くなり、これを代理強化(vicarious reinforcement)と言います。

言葉も同じ原理に従っています。よく聞いて身についた言葉は記憶の中に保存され、最もなじんだ言葉として飛び出します。特に自分のアイデンティティーや主観ができあがる前に保存された言葉は、必要なものと必要でないものを区別できずに、そのまま内面に居座ってしまうのです。

言葉は対処の戦略でもあります。子どもたちは大人から世の中と人に対する対応戦略を学びます。「ああ、こういうときはこう言えばいいんだな」「この状況ではこう言っちゃいけないんだな」などと学びながら、善し悪しを区別せずに、ひとつの規範として受け入れるのです。好きな歌ではないけれど、母親が洗い物をしながら鼻歌を歌っているのを聞いて、ある日、同じように歌っている自分を発見するように。

「こう言わなきゃ」と決心したわけではなくても、似たような状況で人に会うと、以前聞いた言葉が不意に出てしまうのです。

「私の言葉で傷ついてる後輩がたくさんいるんです。良かれと思って言ってるんですけど、優しい言い方をしたら言うことを聞かないので。だからわざとキツイ言い方をしてるんです。でも、考えてみたら、これって最初の上司の影響みたいですね。とてもキツイ言い方をする人でした。私もすごく傷ついたんですけど、とても長くその人の下にいたので、いつのまにか同じ言い方をするようになったんだと思います。こういうのも受け継がれてるって言うんでしょうか?」

言葉の影響は親から受け継ぐものばかりではありません。一緒に働いていた上司の話し方に似ていく人もたくさんいます。目上の人の言葉を真似して、ひとつの対処方法にしているのでしょう。後輩がミスをしたとき、結果が気に入らないとき、自分でも気づかないうちに、以前聞いた言葉が再生されるのです。

話し方は相手と状況によって変わるべきなのですが、他の言葉が必要な状況でも、オウムのように同じ言葉を繰り返す人もいます。癒やしが必要なのに忠告し、激励が必要なのに非難してしまうのです。

このような人たちの最も困ったところは、自分がどんな言葉の習慣を持っているのか、それがどこに起因するのか自覚できないことです。口数は多いのですが、自分の言葉を顧みないため、結局、失言を繰り返すことになります。会議のとき、報告するとき、報告されるとき、会食の席で、「自分の意志で話す言葉」と「口になじんだ言葉」を区別できず、どんな言葉が相手を混乱させるのか、それ以外に必要な言葉は何なのか気づかないのです。

あなたにも、今まで気づかなかった言葉の習慣がありませんか?それは何でしょう?

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