スマホを見るたびに疲弊していく SNS時代に「自分軸」を守る方法
2026年10月05日 公開
「自分の投稿に全然"いいね"が付かない」「既読になっているのに返信が来ない」――スマホやSNSを使うのが当たり前な世の中になり、悩みの種が増えたという人もいるのではないでしょうか?
生活を便利にするスマホですが、使い方によっては心を病んでしまうことも。そこで本稿では、言語学者で明治大学教授の堀田秀吾さんに他人軸に振り回されない方法を紹介していただきます。
※本稿は、堀田秀吾著『心理学×脳科学×行動経済学で科学的に証明された 悩まない人の習慣』(ディスカヴァー・トゥエンティワン)より、内容を一部抜粋・編集したものです。
スマホをテーブルの上に置かない
テキサス大学オースティン校のウォードらは、約800人の大学生を対象に、スマホの置き場所が頭の働きにどう影響するかを調べました。参加者は「机の上」「ポケットや鞄の中」「別室」の3つにスマホを置き分け、注意の持続力や作業記憶を測る課題に取り組みました。
結果、机の上に置いたグループの成績が最も低く、別室に置いたグループが最も高い成績を出しました。別室グループは机の上グループに比べて、作業記憶を測る課題のスコアがおよそ10%高かったのです。
さらに、参加者の多くが「スマホがあっても気にならなかった」と答えていたにもかかわらず、実際の成績にはきっちり差が出ていました。つまり、本人の自覚と実際の脳の働きは一致していなかったということです。
ウォードらはこの現象を「ブレインドレイン(脳資源の流出)」と呼んでいます。スマホの画面を見ていなくても、視界にあるだけで、注意の一部がその存在を意識しない状態を保つために使われ、目の前の作業や会話に使えるはずのエネルギーが減ってしまうという説明です。
この働きは意識して止めることが難しく、本人が気をつけようと思っても防ぎきれません。だからこそ、意志の力で対処するのではなく、そもそも視界に入れないという対処のほうが確実なのです。
対策としては、鞄の中にしまうだけでは効果が限定的なため、最も効果が高いのは別室に置くことです。大切な人や家族との食卓ではいったんスマホを別の部屋に置く時間を作ってみてください。これだけで、相手の表情や声の小さな変化にも気づきやすくなります。視界から完全に外してしまえば、余計な処理をする必要がなくなり、その分の余力を会話に回せるようになります。
【今日すぐできること】
・食事や会話をするとき、スマホを別の部屋に置く
・別室が難しい場合は鞄の中にしまう
SNSに反応する基準を先に決める
「返信すべきか」「いいねだけでいいか」「既読のまま流してもいいか」。そんな小さな迷いが1日に何十回も積み重なると、1回ごとは数秒の判断でも、確実に脳を疲れさせていきます。
トンデゥックタン大学のディールらの研究では、SNSを強迫的に利用すること、「いいね」や返信、投稿の確認などを止められない状態が「SNS疲労」と定義される精神的消耗状態をもたらすことが示されています。
さらに「取り残されることへの恐怖(FOMO: Fear Of Missing Out)」も、強迫的な使用を介してこの疲労感を増幅させる要因となることが明らかになりました。何気なく開いたSNSがやがて脳が対応しきれない量のやりとりに変わり、最終的には不安や気分の落ち込みへとつながりかねないのです。この不安があると、通知が来ていなくても自分からアプリを開いて確認しに行くようになり、使用時間そのものが増えていきます。
おすすめしたいのが、スマホを開く前に反応するかどうかのルールを決めておくことです。たとえば「家族や親しい友人の投稿にはいいねを押す、仕事関係にはコメントだけ、見知らぬアカウントには反応しない」。こうして一度ルールを決めてしまえば、目の前の投稿は「対象か、対象外か」を確認するだけになります。
ルールを決めることに罪悪感を覚える方もいるかもしれませんが、毎回もやもやしながら反応を返すより、自分なりの基準を持って淡々と関わるほうが相手にとっても誠実です。すべての投稿に同じ熱量で反応する必要はありません。反応する相手を絞ることは、冷たさではなく、限られた時間とエネルギーを大切な人に振り向けるための工夫です。
「みんなに同じように反応しないと、感じが悪いと思われるのではないか」。そう考えて義理で反応したりしますが、その義理の反応は、相手にもどこか伝わっているものです。心のこもっていない反応より、基準に沿って絞った反応のほうが、結果として誠実に映ります。
【今日すぐできること】
・相手を3層(家族・親しい友人/仕事関係/面識なし)に分ける
・「いいねを押す」「コメントだけする」「反応しない」の3つに決める
「断り方」を決めておく
アリゾナ州立大学のチャルディーニは、人が承諾してしまう典型的なパターンを整理しました。なかでも、「返報性」と呼ばれる働きが強く関わっているとしています。これは相手から何かを差し出されると、こちらも何か返さないと落ち着かなくなる感覚のことです。
この感覚は誘いの場面でほぼ自動的に働きます。誘ってくれた相手の気持ちに応えなければと感じた瞬間、こちらの気持ちはすでに承諾する方向に傾いています。
この働きは意識的に止めようとしても止めにくいという特徴があります。相手の誘いに悪気がなくても、受け取った側は「断ると申し訳ない」という気持ちを自動的に感じてしまうのです。この現象は、相手が親しい間柄であるほど強く働く傾向があり、断りにくさは相手への好意の裏返しでもあります。
口ぐせにしておきたいのが「ちょっと予定を見て、あとで連絡しますね」の一言です。これを言えるようにしておけば、その場で答える必要がなくなります。落ち着いてから判断できるので、時間をおいたほうが自分の本当の気持ちがわかりやすくなります。やっぱり行きたいと思えば返事をすればいいし、無理だと感じたら典型的な断りの文を1つ送るだけです。
「予定を見て連絡する」という一言は、断りの言葉ではなく、判断を先に延ばすための言葉です。この違いのおかげで、相手に対して失礼な印象を与えることなく、自分の時間を確保できます。断ることに慣れていくと、相手との関係もかえって長続きしやすくなります。
【今日すぐできること】
・その場で「行く・行かない」を決めようとしない
・返事に困ったら「ちょっと予定を見て、あとで連絡しますね」と伝える
他人と比較しない
同級生が家を買った、結婚した、出世した。SNSを開くたび誰かの晴れやかな出来事が目に入り、おめでとうと思う気持ちに嘘はないのに、画面を閉じたあと自分の毎日が見劣りして感じられたりします。
これは心理学でいう「上方比較」です。自分より条件がよいと感じる相手と比べることで、自分の状況を実際より低く評価してしまう現象のことです。
「おめでとう」という気持ちと、「自分はどうなのだろう」という気持ちが同時に湧いてくるのは、決して珍しいことではありません。両方の気持ちを持つこと自体は、何もおかしなことではないのです。
トレド大学のヴォーゲルらの調査では、SNSを使う時間そのものより、自分より上だと感じる人と見比べてしまうことのほうが、自尊心の低さと結びついていました。
実験でも、いいねやコメントが多く集まっているページを見たグループは、ほんの数分、他人の人気ぶりを眺めただけで、直後の自尊心が下がっていました。使用時間の長さよりも、何を見て何と比較したかのほうが、気分への影響を大きく左右していたということです。
この調査ではさらに、比較の対象が身近な知人であるほど影響が大きくなる傾向も示されています。まったく縁のない有名人よりも、同級生や同僚のような身近な存在との比較のほうが堪えるのです。これは、そういう人のほうが「自分と同じ条件で人生を歩んでいるはず」という前提があるために、差を感じやすくなるからだと考えられています。
他人と比べてしまいそうになったら、手帳やスマホのメモに、昨日より進んだことを1つだけ書いてみてください。資料が1ページ進んだ、子どもを怒らずに寝かせられた。そのくらいの小ささで十分です。1週間続けて読み返すと、変化がないように見えていた毎日が、実際には少しずつ進んでいたとわかります。
比較の対象を他人から自分自身に変えるだけで、同じ出来事でも受け止め方が変わってきます。他人という基準は自分でコントロールできませんが、昨日の自分という基準であれば、常に手の届くところにあります。誰かの晴れやかな投稿を見て気持ちが沈んだときほど、この習慣が助けになります。比較するなら過去の自分と。他人軸に振り回されても心の平穏は訪れません。
【今日すぐできること】
・「昨日より進んだこと」をひとつだけメモに書く
・1週間分をまとめて読み返してみる