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遺言の書き方...禅僧・枡野俊明の「終活」入門

枡野俊明(建功寺住職/庭園デザイナー)

2013年08月29日 公開 2023年05月08日 更新

遺​言は誕生日などに毎年更新していく

年月が経つにつれて、状況や気持ちは変わっていくものです。ですから、遺言は一度書いたあとも、そのときどきに応じて更新していくようにしましょう。書くことによって、冷静に心を見つめなおすことができます。

欧米などでは、財産をもっている人の多くは遺言書を準備していて、毎年更新しているといいます。日本でもようやく遺言書やエンディングノートが浸透してきました。

なかには年に一度、遺言書を書きなおすことを習慣にしている人もいるようです。遺言を更新することで、自分の人生を見なおしたり、自分の相続人である子どもや孫などへの思いを整理したりするのが理想だと思います。

毎年更新するのなら、そのことを忘れないように、誕生日や年末年始などに行うよう、日にちを決めておくとよいでしょう。その年にあったできごとや、こんな年にしたいという抱負なども書いておくと、励みになるかもしれません。

日々、同じようなことを繰り返していると感じていても、昨年と今年の1年間がまったく同じということはありえません。日常生活のなかにも小さな変化がいくつもあり、人の心もつねに変化しています。

その自分自身の心の変化と向き合うことで、また新たな自分と出会うことができるのです。

遺言書やエンディングノートは、何度書きなおしても大丈夫です。遺言書が複数あった場合、有効なのは日付がいちばん新しいものです。ただし、せっかく遺言書をつくっても、書き方が間違っていると法的効力がなくなるので、きちんと要件を確認しておくことが大切です。

最初は完璧に書こうと思わずに、気づいたときに書き足していき、改訂し続けていってもよいでしょう。それは、生きている喜びを再確認する作業にもなると思います。

 

書いたものを読み返して自分自身を見つめなおす

書くという行為は、不思議なことに心を静める効果をもっています。たとえば、憎しみを声に出して「ぜったいに許さない!」と言えば、憎しみの感情はさらに大きくなります。

それに対して、書くためにはいったん頭のなかで文章を考えなくてはいけません。怒りを伝えるためにはどう表現すればいいか、恨みを表すにはどう書けばいいか、などと考えると、一瞬、頭が冷静になる時間があります。

そうして自分で書いたことを、今度は自分で読んでみる。すると、第三者としての客観的な視点が生まれます。冷静に自分の心を見つめることで、「ここまでひどいことは思っていないな」などと思いなおすことができるのです。

今は、メールで瞬時にメッセージが送れる時代になりました。しかし、怒りや憎しみの感情を勢いのままに書いて、すぐに相手に送ってしまったら、人間関係が壊れてしまいます。

一方、手紙や日記など、文字で書いたものを時間をおいてから読み返すと、怒りや憎しみの感情が薄らいでいることを実感できるはずです。

同様に、1年前、5年前などに書いたノートを読み返してみると、マイナスの感情はやわらぎ、逆に以前は気づかなかった幸せに気づくこともあるかもしれません。人の心は日々移ろい、その心の変化を見つめることが、自分自身を見つめなおすことにもつながっていきます。

怒りや憎しみ、悲しみを抱えたまま、一生を終えるほど残念なことはありません。冥途にまで負の感情をもちこまないためにも、自分の心を文字にしてみましょう。そして、最期には心あたたまるエンディングノートを残したいものです。

禅のことば:知足 (ちそく)
自らの分をわきまえて、それ以上のものを求めないこと。分相応のところで満足することです。人の欲は際限がありませんが、よくばらないで、現実を素直に受け入れましょう。今の状態に満足できれば、感謝の気持ちがわいてきます。そして、周囲に感謝の気持ちをもつと、心が幸せに満たされてくるのです。

 

【枡野俊明(ますの・しゅんみょう)】
曹洞宗徳雄山建功寺住職、庭園デザイナー、多摩美術大学名誉教授

1953年神奈川県生まれ。大学卒業後、大本山總持寺で修行。「禅の庭」の創作活動により、国内外から高い評価を得る。芸術選奨文部大臣新人賞を庭園デザイナーとして初受賞。ドイツ連邦共和国功労勲章功労十字小綬章を受章。2006年には『ニューズウィーク』日本版にて、「世界が尊敬する日本人100人」に選出される。庭園デザイナーとしての主な作品に、カナダ大使館庭園、セルリアンタワー東急ホテル日本庭園など。

 

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