1. PHPオンライン
  2. 仕事
  3. 1万人の体験から学んだ「聞く技術」――他人と心を通わせるコツ

仕事

1万人の体験から学んだ「聞く技術」――他人と心を通わせるコツ

大塚寿(エマメイコーポレーション代表取締役)

2013年10月17日 公開 2023年01月05日 更新

アメリカで痛感した「KPI」の重要性

 

 一方、MBA留学時に最初に語学研修で滞在したニューヨークでは、そのキャッチボールができずに寂しさを痛感しました。

 象徴的な場所は新聞スタンドで、日本でいうと駅の売店のようなところになります。みな「ハズゴーン」とか言いながらお金を出して、「ハヴァナイスデイ」と口ぐちに言い残して去っていくのですが、最初はこの「ハズゴーン」が何を言っているのかさえ開き取れませんでした。

 特にニューヨークの英語はやたらに速いので聞き取り難かったですし、そもそも“How’s it going?”という挨拶フレーズさえ知らなかったのですから、これではキャッチボールどころではありません。

 まあすぐに「ハーイ」とか声をかけて、飲み物やタバコを買うようにはなりましたが、その後にちょっと短い言葉をかけられると、何を言われているのかさっぱりわからず、困惑してしまう日々でした。

 しばらくの間は、会話が成立しないと通じ合うことができない、というもどかしさを味わっていたのです。

 実は、私は小さな頃から周りにたくさんの大人がいたせいか、コミュニケーションにはちょっとばかり自信を持っていました。

 最初は根拠のない自信だったかもしれませんが、就職活動でその自信は確かなものとなり、就職したリクルートでそれは確信に変わりました。そのコミュニケーションカを武器に自分のキャリアを切り拓こうとアメリカまでやってきたのです。それにもかかわらず、それが武器になるどころか、売店でさえ会話が成立しないというあり様だったのです。

 しかし、3カ月もすると事態は変わってきました。相変わらず英会話は上達していませんでしたが、渡米したての頃に較べて生活に不便を感じることが少なくなったのです。

 そのことを、同じ境遇だった日本人留学生と話したことがあるのですが、その結論は、英語が上手くなったのではなく、「言葉が通じない生活に慣れた」のだろうということでした。

 もちろん、引きこもっていたわけではありません。

 それどころか、私はアメリカ人や日本人以外の留学生といった生徒ばかりでなく、教授からもリスペクトされるようになったのです。たぶん学校中で一番英語が下手だったにもかかわらず、です。

 言葉が日本語から上手く話せない英語に変わった以上、自分のコミュニケーション力という武器が生かせなくなったはずですが、たぶん周りの私に対する評価は日本とまったく一緒だったのです。

 この体験が、「会話のKPI」、つまりは相手と心を通わすために何がもっとも重要な要素なのかについて、私が関心を持つきっかけとなりました(KPIとは、Key Performance Indicator:重要業績評価指標)。

 細かな要素については第2章以降で紹介していきますが、私は会話のKPIとは、「相手への関心」と「人柄」であるという結論に至りました。

 「人柄」というのは短時間には変化しませんが、「相手への関心」というのは、十分自分でコントロールが利くものです。ここを芯に据えると会話力が著しく向上するという事実を、まずは強調しておきたいと思います。

 “How’s it going?”“How are you?”“What’s up?”といった挨拶はすべて疑問形です。つまり、相手の今の調子や気分を「開くこと」から始まっているというのは、「相手への関心」からすべてが始まるということを象徴しているからに違いありません。

 


<書籍紹介>

1万人の体験から学んだ「聞く技術」

大塚 寿 著
本体価格820円

1万人のビジネスパーソンから「本音」を聞きだしてきた著者が、どんな相手の心もつかんでしまう「聞き方」を伝授する。

 

<著者紹介>

大塚 寿
(おおつか・ひさし)

1962年群馬県生まれ。株式会社リクルートを経て、アメリカ国際経営大学院(サンダーバード校)でMBA取得。現在、オーダーメイド型企業研修を展開するエマメイコーポレーション代表取締役。細かく取材を重ねて設計する研修(営業プロセス見える化、営業マネジメント、プレゼンテーション等)が好評を博している。新規顧客開拓や企業研修などで1万人を超えるビジネスパーソンや経営者と交流してきたが、その中には株式上場した人、総理大臣になった人、東京都知事や世界的な有名人になった人などがいた。それらの人物から共通の法則を見出しまとめた『40代を後悔しない50のリスト』(ダイヤモンド社)はシリーズ累計25万部のベストセラー。
『リクルート流』『職場活性化の「すごい!」手法』『法人営業バイブル』(以上、PHP研究所)、『「資料送っておいて」と言われたらチャンスと思え!』(双葉新書)、『部下のやる気を2倍にする法』(ダイヤモンド社)、『9割の人ができるのに、やっていない仕事のコツ』(三笠書房)など著書・共著多数。

 

関連記事

アクセスランキングRanking