[店長のバイブル] スタッフのスキルアップを促進する
2013年11月19日 公開 2022年12月19日 更新
《『新しい「店長のバイブル」』より》
スタッフのスキルアップはなぜ重要か
スタッフの意欲を引き出すには、「この目標ならやりたい(目標の魅力度)」と「できそうだ(成功期待感)」をスタッフが実感できる状況づくりが必要です。
<意欲=目標の魅力度(やりたい)×成功期待感(できそうだ)>
つまり、挑戦的な売上目標をやりたいと思っても、それにふさわしいスキルが伴わないと、「やっぱり無理」と感じて意欲は低下します。ですから店長は、スタッフと目的・目標を共有するだけでなく、その実現のためのスキルアップを促す環境整備を行うことが重要です。
なかには「うちはベテランスタッフばかりだから、スキルアップは必要ない」と考える店長がいるかもしれませんが、市場環境がこれだけ変化し、競合他社との差別化も難しさを増す中では、過去に身につけたスキルだけでやっていけるわけがありません。常に新しい知識・スキルを吸収しようとする発想こそが、店舗の魅力づくりにつながるのです。
スタッフに求められるスキルの中で重要なものをあえて挙げるとすれば、「セルフマネジメントスキル」と「接客・販売スキル」の2つです。前者は自分から目標達成に向けてPDCAを回すスキルですから、本来は自分で習得する努力をするのが基本ですが、すべて本人任せでは限界があります。「接客・販売スキル」も売上や店舗イメージに直結するだけに重要であり、店長はスタッフの習熟度に合わせて、それらのスキルアップに必要な支援をする必要があるでしょう。
接客・販売のスキルアップ
スタッフ自身の仕事観を高める
今の時代、販売スタッフに求められることとして、マナーや商品知識だけでなく、会話力、気配り、クレーム対応など範囲が広くなり、それに応えていくためにはさまざまな情報のインプット支援が必須です。ただし支援を行う際、スタッフの仕事観を高めることも同時に行わないと、意外に効果は生まれません。
仕事観とはたとえば、「販売スタッフとは何をする人で、どうあるべきか」についての考え方です。店長は「新人のころから繰り返し教えており、理解していて当然だ」と思いがちですが、「商品の良さをお客様にわからせて、販売するのが仕事」と考えているスタッフもいれば、「押し売りにならないよう、お客様が欲しいというものをお見せし、お勧めするのが仕事」と理解しているスタッフもいます。あるいは、「会社から与えられた情報どおりにお客様に説明すればよい」と割り切ってやっている人もいます。
その結果、一方的商品説明に終始したり、受け身の接客、ワンパターンの接客を仕事と思いこんでこなす状態が発生しています。それを前提にクレーム対応の仕方を学んだとしても、根底で「クレームにあたってしまった」「余計なことまでしないといけない」という気持ちでしぶしぶ対応する結果となります。
仕事観は、スタッフが体験を積み重ねたり、先輩などの姿を見たりして、自分なりにつくり上げてきたものです。その人の行動パターンにも根強く影響を与えるだけに、店長としては正しい仕事観を植えつけるように指導していかなければなりません。
実は、各スタッフが持つ仕事観を最も明確につかんでいるのは、お客様です。お客様は商品説明の巧みさよりも、スタッフがどんな気持ちで今自分に接しているのかを敏感に感じとります。どうせなら自分の仕事に対して責任感を持ち、プロとしての誇りを持って仕事をしている人から買いたいと思います。そして、「売り込みとは関係なく、本当に私のために役に立ちたいと思って声をかけているんだな」とお客様がそのスタッフを見ながら感じられれば、喜んで答えてくださるでしょう。
今やプロとして多くの固定客と高い売上を保持している販売員の新米時代の話です。ベテランでも売るのが難しい高額商品を販売したとき、自分でも不思議に思って、上品な年配のご夫婦に「なぜ私から買っていただけたのですか?」と率直に聞いたそうです。すると、そのお客様はこう言われました。
「たどたどしい面はあったけれど、わからないことはわからないなりに汗をかいて調べまわってくれたのと、本当に君がこの商品に愛着と自信を持っていることが、商品を見たりさわったりする素ぶりから伝わってきた。私たちのために無心でできることをしようとしてくれる姿に、すがすがしい気持ちで買い物ができた。ただ、これは応援の意味も込めての買い物だから、次に来たときはもっと立派に成長していなさい」
彼はそれ以降、「もしかすると今日、あのご夫婦がふらりと店舗に立ち寄られるかもしれないと思いつつ、毎日店頭に立っています。今の私を見て『やっぱりこの人から買ってよかった』と思ってもらいたい一心でがんばってきました」と言います。
今の時代、「お客様はスタッフの仕事への姿勢を瞬時に判断される」との認識のもとに、どのような仕事観のスタッフを育てるのか、そのためにはどのような支援が必要かを定期的に見直すことが大切です。
プロを育てる
ステージに立たせる以上は、そのステージのプロに育てなければなりません。そう考えると、店長は「自分たちが考えるプロとは何か」から再度見つめなおし、スタッフに浸透させる働きかけが必要です。
プロである以上、妥協は許されません。お客様の期待を超えるための努力は当たり前に行うからこそ、みなが誇りを持って仕事ができるのです。
スタッフに求められるプロ性は、会社・店舗によって異なります。たとえばセルフサービスに近い店舗であれば、「品切れしないようてきぱき作業する」「明るいあいさつで、楽しめる雰囲気を創り出す」「質問されたときには、的確な情報提供やアドバイスをする」などがプロとして求められます。また、ラグジュアリーブランドでは、「アンバサダー(親善大使)」という新たなコンセプトも浸透してきました。アンバサダーには、接客・販売はもとより、会社・ブランドの顔として、「きちんとブランドの価値を伝える」というミッションも重視されています。
あなたが育成するプロとは、どういう人材でしょうか。それを改めて明確にしてみましょう。同時に、時代とともにスタッフに求められるスキルを進化させつづけるため、店長自身も現状に甘んじず、自己革新、自己学習が必要です。
<書籍紹介>
新しい「店長のバイブル」
「お客様が望む商品がない」「他社と差別化ができない」「ナンバー2が育たない」……、店長の悩みを解決する”バイブル”が誕生!
<著者紹介>
株式会社サービスデザイン研究所代表取締役、サービス革新支援コンサルタント
石川県生まれ。東京大学教育学部卒、明治大学専門職大学院にてサービスマーケテイング、サービスマネジメントを学び経営学修士号(MBA)取得。日本電気株式会社を経て企業研修会社にて16年間講師経験を積む。2004年株式会社サービスデザイン研究所を設立。「グローバルサービスデザインで新たな時代を切り拓く」を経営理念におき、“サービスミッションの構築、その具現化のためのシナリオ作りと組織への浸透・実践化”を推進し、業績に結び付けるコンサルティング・研修を数多く手がける。特に、ラグジュアリーブランドを含むリテール業界、コールセンター業界等で多くのサービス革新実績を持つ。現場実態に即した納得感の高いコンサルティング・研修で成果につなげ、のべ約1万8千人以上の受講者から高評価を得ている