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松下幸之助が「不正」について社員に強く訴えたこと

PHP研究所経営理念研究本部

2013年11月27日 公開 2024年12月16日 更新

『松下幸之助.com』 より一部を抜粋

 食品・食材の偽装表示問題が世間を騒がせています。「偽装でなく誤表示」と釈明する企業もあるようですが、「無意識に不正を働く」ということがはたして企業にとって許される行為なのでしょうか。また昨今、社会問題化している「アルバイトの不正・不適切行為」など、唖然とさせられる不祥事が残念ながらニュースのネタになっています。こうした行為が明るみにでるたびに、経営の効率化や売上・利益拡大の追求のなかで、なにかが忘れられているのではないかと思われる方も多いことでしょう。

 松下幸之助は、自らの経営を急速に拡大させていたころ、(1941年3月31日の朝礼で)従業員にこんな話をしています。

 

 わが社の遵奉すべき精神の中に「力闘向上」という一項がある。会社事業の伸展も、各人個々の成功も、この精神なくしては成り立たない。事業を経営することも、商売を営むことも、そのこと自体が真剣の戦いである以上、これを戦いぬく精神が旺盛でなかったならば、結局敗者たらざるをえないのである。ただし、その戦いたるや正々堂々でなくてはならぬ。他を陥れ、傷つけて己一人独占せんとする精神行動はもとより排すべきであり、どこまでも正しき闘争でなければならぬことはもちろんである。よい意味における闘争心、正しい意味における競争精神、これなきところ、事業の成功も個人の向上も絶対に望めない。この精神のない人は結局熱のない人であり、物事をして伸展せしむるに役立たない人である。
 幸いに松下電器の人々には、この精神が伝統的に旺盛であったことが、今日を成す大きな因であったと考える。されば今後といえども、諸君にこの正しき闘争心をどこまでももち続けて、日々の業務に処していただきたいと希望する次第である。

 

 40代後半の意気盛んなころだけに、経営拡大への執念が前面にあらわれていますが、そのなかでも「正しさ」をまず追求するという姿勢をはっきりみてとることができます。

 また「力闘向上」とともに、松下は従業員が遵奉すべき精神の一つに「公明正大」を掲げました。ものをつくって売る。代金を回収する。経費をはらい、正しく税金を納める。そうして残る儲けを、松下は創業間もないころから従業員に明らかにしていました。そこに不正な経理が許されるはずがなく、公明正大が貫かれる。その正しい仕事が社内の一体感を生みだし、明日の発展の礎となる。だからこそ松下は「公明正大」であることを従業員にも要求したのでしょう。

「正しさ」の価値判断基準は、それぞれの人・企業に存在するはずであり、その基準は、企業風土・文化を形成するといっていいものです。一商人としての姿勢を貫いた松下はというと、「世間」の判断を基準にしました。「世間は正しい」と考え、その正しい世間の要求に従って、経営はなされるべきだとして、お客様の要望にこたえることができないと判断した商品は、市場に出さず、ハンマーで叩き壊したという場面もあったといいます。値段を割り引いて、市場に流すことも決して許しませんでした。

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