【連載:和田彩花の「乙女の絵画案内」】 第10回/ボッティチェリ『春(プリマヴェーラ)』
2014年02月07日 公開 2015年04月24日 更新
コミュニケーションツールとしての絵画
絵についてのいろんな解釈を知っていくことは、絵画鑑賞の楽しみのひとつ。でも、絵を楽しんだ当時の人たちの気持ちを想像しながら、素直な気持ちで絵を観ることも私は好きです。
家の壁にこの絵を飾ったフィレンツェの大富豪も、それを観たであろう訪問客たちも、この絵を前にして、自由に楽しんだはずです。
この絵は、結婚のお祝いとして描かれたともいわれています。だから、キューピッドや女性が母親になる様子が描かれているのかもしれませんね。
それにしては、謎が多くてわかりにくいんじゃないかな? とも思っちゃいます。
もしかしたら、この絵の持ち主は、自分の教養を自慢したかったのかもしれません。この神様にはこんな意味があるんだよ、という会話をお客さんと楽しんでいたのかも。
私も趣味で寺社仏閣のご朱印を集めているのですが、スマイレージのメンバーに「これはこういう意味があるんだよ」とか話すこともあります。
この時代の絵は、家を訪ねてきたお客さんたちとのコミュニケーションのきっかけだったのかもしれません。
ボッティチェリが絵にこめた謎は、発注主からの注文だったのでしょうか。もしかしたら、絵を描く前にボッティチェリに「こんな仕掛けもしておいてほしい」とか相談していたかもしれませんね。
この絵は、フィレンツェのウフィツィ美術館にあります。絵が描かれた町にそのままあるのは、絵を観る私たちにとっても幸せなことだと思います。当時の状況を想像しやすいですから。
でも、実際にフィレンツェに行って、この絵の前に立ったら、『春(プリマヴェーラ)』の解釈についてどれだけ考えていったとしても、テンションが上がりまくって、なにもかも忘れて絵に見入ってしまいそうです。
それでも、できるかぎり、絵はたんなる絵ではなく、そこにはその絵が描かれたたくさんの背景があることを感じながら、絵の前に立ちたいと思います。
芸術家と権力が一体だった、イタリアのルネッサンスという時代。
ボッティチェリの絵の魅力に気づくまでは、それは私にとってたんなる記号のような存在でしたが、いまの私には、現在とつながっているとても魅力的な時代になりました。
〈連載:了〉
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<著者紹介>
和田彩花
(わだ・あやか)
1994年8月1日生/A型/群馬県出身
ハロー!プロジェクトのグループ「スマイレージ」のリーダー。
2009年、スマイレージの結成メンバーに選ばれ、2010年5月『夢見る 15歳』でメジャーデビュー。同年の「第52回輝く!日本レコード大賞」最優秀新人賞を受賞。近年では、SATOYAMA movementより誕生した鞘師里保(モーニング娘。)との音楽ユニット「ピーベリー」としても活動中。高校1年生のころから西洋絵画に興味をもちはじめ、その後、専門的にも学んでいる。