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齋藤孝・思考力を高める ~まず、レビューを書こう!

齋藤孝(明治大学文学部教授)

2014年07月29日 公開 2022年12月21日 更新

《『5日間で「自分の考え」をつくる本』より》
写真撮影:長谷川博一 

 

 現代のように潮の流れが速い場合、いちいち誰かの指示や指導を待っていては、たちまち置き去りにされてしまう。

 しかもその指示は、かならずしも自分にとって有利とはかぎらない。「会社に生命を預けた」という人は別にして、自分で考え、自分でリスクを取って動かなければ、なかなか浮上できないだろう。つまりは、常に当事者意識を持ち、状況に適応する能力が求められているわけだ。

 本書『5日間で「自分の考え」を作る本』は、そういう領域に達することを最終的な目標とする。ただし忙しい現代人に配慮して、以下のように5つのステップに分け、わずか「5日間」で身につくように工夫した。

 1日目にブログやSNS、ネット上に書評を書いて勘を養い、
 2日目に偉大な先人たちが生み出した思考パターンを学び、
 3日目に生活習慣を見直すことで「考える体質」をつくり、
 4日目に読書によって素養と話題を味方につけ、
 5日目に満を持して「意思決定」に挑む。

 本書によって「自分の考え」の何たるかを学び、それによって自分や周囲を動かし、現実に変化をもたらすことができたとすれば、著者として望外の喜びである。

 

1日目/レビューで思考力を高める

 

ほんの数行のレビューで「自分の考え」を磨く

 ある新聞記事を見せられ、「どう思う?」と尋ねられたとしよう。即座に気のきいた回答をする自信があるだろうか。

 もちろん、「記事の内容による」という見方もあるだろう。予備知識のある分野なら答えやすいし、未知の分野なら言葉に詰まるかもしれない。

 だが、「自分の考え」を持つべき現代人としては、それでは心許ない。対象が何であれ、とりあえず、「何かを見聞きしたら、何かを言える」という状態になることが求められる。

 これが最初のステップだ。どんなボールでも見逃すことなく、バットを出して当てにいく。そんな状態を目指すわけだ。

 もっとも、力んで大上段に構える必要はない。「自分の考え」とはいっても、自分の頭ですべて考えなくてもいいのである。10割すべて「自分の考え」で語ろうとするから苦しくなる。

 感覚としては、8割は事実や情報などで固め、残り2割に自分の色をつける。それが「自分の考え」なのである。

 まずは身近な例として、映画や本などのレビューを書くことをおすすめしたい。

 世の中はもはや、「一億総レビュー時代」の様相を呈している。ネットを通じ、誰もがあらゆるものをレビューする。その潜在的な読者は国内のみならず世界中にいる。

 当然ながら、これはかつて日本が経験したことのない時代である。

 その中で、優れたレビューを書ければ、かなり「自分の考えを持った人」と見なされる。最初は無名でも、評判を呼んで有名になり、コメンテーターになったり本を出したりするといった事例も少なくない。

 そこまで目指す必要はないにせよ、どうせ書くなら多くの人に読まれたいし、「おっ!」とか「へぇ」と思わせたいだろう。実際、周知のとおりレビュー自体を評価するシステムも各種ある。

 そういう反応があれば、自分のものの見方に自信を持てるようにもなる。それは、生きる喜びにもつながるだろう。一方で、仮に勘違いをしてデタラメなレビューを書いたとしても、さほど責任を感じる必要はない。

 

 是非はともかくネット上にはそういうレビューも無数にあるから、無視されるか、せいぜいからかわれる程度だ。その意味で、レビューを書くことは「自分の考え」を表明する初期の訓練として最適といえるだろう。

 もちろん、対象は映画や本にかぎらない。鉄道やクルマのような趣味の分野でもいいし、店やあらゆる商品でもいい。あるいは旅行記の類も、その国や地域に対するレビューになる。

 いずれにせよ、その出来不出来は、センスの問題というより練習しだいだ。

 まず、自身の頭の中にある経験知から、「これならレビューを書けそうだ」と思えるものを挙げてみていただきたい。音楽が好きな人なら、お気に入りのCDのレビューなら書けるのではないだろうか。

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