出口治明・スキルとしての教養~世界史を知る醍醐味とは?
2014年08月06日 公開 2022年12月08日 更新
《大の「歴史好き」として知られるライフネット生命保険会長の出口治明氏。これまでに読んだ歴史書は5000冊以上に上り、母校の京都大学で歴史の講義を受け持ったこともある。
独自の視点から世界史を読み解いた著書『仕事に効く教養としての「世界史」』がベストセラーになっている出口氏に、現代に生きる私たちが過去の歴史を勉強する意義と醍醐味について語ってもらった。(取材・構成:塚田有香/写真撮影:江藤大作)》
※本稿は『THE21』2014年8月号より一部抜粋・編集したものです
人間の思考や感情は1万年以上変わらない
4年ほど前から、「人間の5千年の営みを学ぶ」をテーマとした勉強会を東京、京都、名古屋で定期的に開いています。以前、大学で歴史の講義をする機会があり、そのことをツイッターでつぶやいたところ、「自分もぜひ聞きたい」と手を挙げてくれた人がいたのがきっかけです。
以後、参加希望者はどんどん増え、いまでは100人の定員がすぐに埋まってしまうほど。世界史を学びたいという人は確かに増えている印象です。とくに、若い人が多い気がします。
では、なぜ世界史を学ぶ人が増えているのか。その答えは簡単で、いまは「勉強が必要とされる時代」だからです。アメリカに追いつけ追い越せの高度成長期は、目の前にキャッチアップすべきモデルがありました。だから極論すれば勉強する必要もなく、がむしゃらに働けばよかった。
しかも、人口は増え続け、市場もどんどん大きくなっていった。ただ、そんな幸福な時代は、宝くじに連続して当たるくらいラッキーだっただけの話で、歴史的に見れば、ほとんどありません。実際、いまの日本は、少子高齢化や財政悪化などを抱えた「課題先進国」となり、もはやモデルとなる国はどこにもありません。でも、それが普通の状態なのです。
では、将来が予測できない時代に、先を見通すにはどうすればよいのか。その答えこそが歴史なのです。中国史上最高の名君の1人とされる唐の太宗(李世民・598~649)は、『貞観政要』に次の言葉を残しています。
「古を以て鏡と為せば、以て興替を知る可し」
つまり、「過去を学ぶしか、未来を知る方法はない」というわけで、太宗に限らず多くの人が、同様の言葉を残しています。
よく、「いまとは状況の違う過去のことを学んでも意味はない」と言う人がいますが、人間の脳は1万3千年前からほとんど進化していないことが、医学的にも証明されています。
人間の思考や感情は昔もいまも変わりません。だからこそ我々は、2千5百年前に書かれたギリシャ悲劇に涙を流したりする一方、同じ失敗を何度も繰り返すのです。
我々は過去の体験しか未来に生かすことができないのです。過去に学んでいたからこそ、すぐに行動することができるのです。もちろん歴史を知らずとも、じっくり考えることで同じ答えに至ることはあるでしょう。でも、考えている間に時間は刻々と過ぎ、手遅れになってしまうかもしれないのです。
ビジネスでも、バブルの歴史を学んだ企業はリーマン・ショックには踊らされなかったでしょうし、今後再び起こるであろう金融恐慌を乗り切れるのは、リーマン・ショックをしっかり学んだ企業でしょう。