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出口治明・スキルとしての教養~世界史を知る醍醐味とは?

出口治明(立命館アジア太平洋大学学長)

2014年08月06日 公開 2022年12月08日 更新

 

学校で習った歴史はとっくに時代遅れに

世界史は学生の頃習ったからそれで十分、と考えるのは、実は大きな間違いです。というのも、歴史学は驚くほどのスピードで変化しているからです。

アメリカの歴史学者ジョン・ルカーチは『歴史学の将来』という本の中で、「多くの国では現在でも、学校の歴史の授業はおろか、大学院のゼミでさえ、50年前とほとんど同じ」と嘆いています。

皆さんが小中高で習った歴史は、その時点から50年遡った古い常識だと思っていいでしょう。

たとえば、世界史の授業で重要な出来事として習ったはずの「ゲルマン民族の大移動」ですが、いまの歴史学でこの言葉を使う人はあまりいないと思います。

民族の大移動が起こったことは事実です。2世紀後半に地球が寒冷期に入り、カスピ海の北にいた遊牧民たちが南下し、東と西に移動しました。そのうち東に向かった人々は中国に侵入し、数々の王朝を打ち立てました。

この時代を「五胡十六国」と言いますが、「胡」とは異民族の意で、多くの部族が多くの国を建てた時代、ということです。一方、西に向かった人々はかつては「ゲルマン民族」と総称されていたのですが、実際には中国同様、さまざまな部族が含まれていたというのがいまでは通説になっているのです。

このように、かつて学んだ歴史がいまでは通用しないことは多々あります。日本に限っても、鎌倉幕府の成立年代はもはや1192年とは考えられてはおらず、さらに、有名な源頼朝の肖像画も、実は足利直義のものだということがほぼ確証されているのです。

歴史学の進化は、新たな文書の解読や考古学的な発見、そして分析手法の進化などによってもたらされます。たとえば頼朝の肖像に関して決め手となったのは、肖像画に使われていた絹布が、鎌倉時代には入手不可能だったことが明らかになったことでした。

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