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「俯瞰力」―なぜ、ビジネスマンに必要なのか

山口真由(ニューヨーク州弁護士)

2015年03月26日 公開 2024年12月16日 更新

《『東大首席弁護士が教える「ブレない」思考法 仕事に必要な「俯瞰力」の磨き方』より/写真撮影:片桐圭》

 

なぜ、俯瞰力が必要なのか

◆「勉強ができる人」=「仕事ができる人」ではない

 俯瞰力(ふかんりょく)─それは「全体を見渡す力」。

 上空から下の世界を見渡すように、物事の全体像を読みとる力です。

 私は、これを、社会人に必要不可欠なものと考えます。なぜそう思うようになったかを、最初にお話ししましょう。

 社会に出るまで、私は「勉強のできる人」と言われてきました。

 そして、その評価を受け続けるために、私は、たゆまぬ努力を続けてきました。

 学生時代の私の努力は、まっすぐに結果に反映されていきました。さまざまな苦労はあったものの、基本的には、テストの点数や学年での順位は、勉強量に比例して上がっていきました。大学在学中に司法試験と国家公務員試験に合格したことや、東大を首席で卒業したことも、努力が結果に結びついた例と言えるでしょう。つまり私は、「優秀な学生」になるためのノウハウに関しては明確につかめていた、と言えます。

 そんな私が、「優秀な社会人」になったかというと──。

 実のところ、はなはだ心もとない、というのが本音です。

 私は、財務省で2年、弁護士事務所で5年働き、テレビ番組でコメンテーターを務めたり、こうして本を書いたりとさまざまな種類の仕事に携わってきました。しかし、それぞれの場面で、未熟さを感じることは多々あります。

 今でもそう感じるくらいなのですから、社会人になりたてのころは、もう本当に羞恥と困惑の連続でした。

 勉強のノウハウと仕事のノウハウはまるで違う、ということに、愕がく然ぜんとし、今思えば顔から火が出るくらいの恥ずかしい経験もしました。

 思えば、これは当然のことです。

 勉強とは、知識を頭に入れる=「インプット」の作業です。試験のとき以外は、頭に情報を入れることだけを考えていればいいのです。

 対して、仕事はほとんどが「アウトプット」の作業で占められます。報告や伝達、会議での発言やプレゼンテーション。インプットの量と成果がまっすぐな比例関係にあるというセオリーは通じません。

 インプットの量を増やし続けることを強固な信条とし、成功経験を積み重ねてきた私にとって、これまでと勝手の違う社会は大きな衝撃となりました。そして、「勉強ができる人」から「仕事ができる人」になるには何が必要なのかを考えるようになったのです。

◆「仕事ができる人」=「上に立てる人」ではない

 学生時代と同じく、社会に出て以降も、私は、「向上心」をとても重要なものと考えてきました。

 「向上心」というのは、「上を向く力」のことです。企業の中で上を目指す人というと、出世欲にまみれた人物という、若干ネガティブなイメージを抱かれるかもしれません。しかし、向上心がどのような形で表れたとしても、向上心そのものを否定的に捉えるべきではありません。

 会社員であれ、自営業者であれ、政治家であれ、何か目的があるならば、そのために最も有利な手段を選ぶべきです。志を持って、それを可能にできる立場を目指すのは、むしろ社会人として当然持つべき姿勢です。

 しかし先に述べたとおり、社会の中で、向上心を抱き、上を目指そうと思うと、勉強とは別の能力を身につけなくてはなりません。

 では、その能力とは何か。アウトプット力は、まさしく、その基盤をなすものでしょう。しかし、それだけでは不十分なのです。

 「優秀なビジネスマン」といわれる人々の多くは、正確で網羅的な資料を短時間で作成し、素晴らしいプレゼンテーションをします。

 しかし、多くの優秀な方々と一緒の仕事に携わる機会を得て、私は、組織の中枢部で大きな権限を持つ一部の人々には、単なるアウトプット力とは全く別の、本質的な力が備わっていると確信するに至りました。

 それこそが俯瞰力だと思います。

 どんなに業務執行能力が優れていても、視野の狭い人間には、その視野に見合った責任しか与えられません。

 自分の責任が小さいうちは、業務執行能力にばかり目がいきがちです。あれこれ考えているよりも、まずは手を動かす人。こういう人が重宝されます。実際に、財務省では、作業を頼まれた新人が「この作業はどういう意味があって……」と口を開きかけると、「まず、やって!」と釘を刺されるほど。

 しかし、新人時代の忙しさにかまけて、業務執行だけに忙殺されると、その後の成長は明らかに頭打ちになります。

 自分のチームが社内で果たす役割は何か、自分の会社がこの業界において果たす役割は何か、そして、この業界が現在の日本社会において果たす役割は何か──。

 業界の、国内の、そしてグローバルな視点を持てない人材が、会社のトップになれるはずがありません。つまり、責任が大きくなるほど、広い視野が必要になるのです。そして、この広い視野というのは、社長になって、突然、身につくものでは決してありません。業務執行能力が重んじられている若手の時期から、意識的に身につける必要があります。さらに言えば、それができた人材こそが、一番脂の乗った中堅の時期に、その能力を認められ、大きな飛躍の波に乗れると思うのです。

<<POINT>>仕事で成功する人は、広い視野を持っている

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「頭のいい人」と「仕事で成功する人」

著者紹介

山口真由(やまぐち・まゆ)

弁護士

1983年生まれ。札幌市出身。筑波大学附属高等学校進学を機に単身上京。2002年に、東京大学入学し、法学部に進み、3年次に司法試験、翌年には国家公務員Ⅰ種に合格。また、学業と並行して、東京大学運動会男子ラクロス部のマネージャーも務める。学業成績は在学中4年間を通じて“オール優”で、4年次には「法学部における成績優秀者」として総長賞を受け、2006年3月に首席で卒業。同年4月に財務省に入省し、主税局に配属。主に国際課税を含む租税政策に従事。2008年に財務省を退官し、2009年に弁護士登録。現在は主に、企業法務を担当する弁護士として活動するかたわら、テレビ番組や執筆等でも活躍中。
著書に『天才とは努力を続けられる人のことであり、それには方法論がある』(扶桑社)、『東大首席弁護士が教える超速「7回読み」勉強法』(PHP研究所)がある。

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