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松下幸之助に聞いた 商人にとって大切な3つのこと

岩井虔(PHP研究所客員)

2017年02月28日 公開 2024年12月16日 更新

松下幸之助に学んだこと

松下幸之助という人の近くで長年仕事をしてきて、今改めて思うのは、この人の人間的魅力というか、一緒にいて楽しかった、教えられたという思い出がたくさんあるということです。特に人を育て、生かし、全体をレベルアップさせていく知恵と心くばりは、実にねんごろなものでした。

松下は、「ビジネスマンとしていちばん大事な心がけは、人に愛されることである」と言ったことがあります。人に愛されるためには、まず自分のほうから人を愛し、人のために尽くすことが何よりも大事だと思います。

聖書のなかでも、キリストの言葉として、「あなたの隣人をあなた自身のように愛せよ」という有名なゴールデンルールがありますが、まさにその愛の実践を、人間・松下幸之助の言動のなかから私なりに感じることが多かったのでした。

「商人」とは

PHPの研修であるPHPゼミナールがスタートしたのは、昭和52年のことでした。当初は、松下グループの幹部対象の経営ゼミナールから始めたのですが、翌年、多くのご要望もあって、外部の方々にも参加していただく「商道コース」をつくることになりました。

その時私は松下幸之助に、次のように尋ねました。

「昔、松下電器が株式会社になった時、〈 これから会社がどんなに大きくなっても、いつも一商人としての観念を忘れないように 〉という趣旨の内規をつくっておられますが、これは今日的に考えればどういう意味になるのでしょうか。いったい商人って何ですか。どんな心がけでやるのが商人の道なんですか」

すると松下は、「君、大事なことが3つあるな」と即座にハッキリ言いました。

「まず、商売の意義が分かっとらないかん」

こんな、分かるようで分からない言葉が返ってきました。
この時に私が思い出したのは、松下が常づね口にしていた話です。

「商売が分からん人は、家の近くの評判の高い商人に聞いてみなさい。魚屋のおじさんでも、八百屋のおばさんでも、夜鳴きうどんのご主人でもいい。立派にやってる商人はな、みんなやってることがあるもんや。それがその商売の意義なんや」

つまり分かりやすく言えば、お客様が喜ばれ、役に立つことを、いわば自分の使命、生きがいとし、心を込めながら効率的にあるいは自分なりに工夫をしながら熱心に進めていく。そして一方でちゃんと収支が成り立っている。これが商売の道であり、組織体の大小にも左右されない原点だと言っているのでしょう。組織が大きくなると、そういう意識はどうしても薄れがちになりますが、あくまでも、これに沿って進めていくのが筋である。そういうことを、1つ目として、言いたかったのだと思います。

「2つ目は何でしょう」

「2つ目は、お客様の心が読めないかん。心を読むのが必要なのは、政治家でも教育者でも同じや。しかし、一を聞いて十を知るのが商人や」

そして、自分が親しくしているお茶のお道具屋さんの話をしました。

「わしがお茶会をやりたいと言うやろ。そしたらそのお道具屋さんはな、わしの話に基づいてプランを立てて、持ってくる。そのプランを検討して一段落するやろ。そしたら彼は、別の件についてわしに改めて提案をするんや。『ご主人、こんなのいかがでしょうか』と。その提案がわしの心にぴたっとかなうことが多いんや。なぜか分かるか。彼はな、わしの心を、読んでるからや。彼こそ一流の商人や」

「3つ目は何でしょうか」

「3つ目は、相手より頭が下がっていること。商人というのは、お客さんのために奉仕をするんやろ。だから頭が下がっていないとほんとうの商売はできん」

つまりは常に"お蔭様で"という感謝の心を持ってお客様に接し、商売の道に誠実に励むことが大切だと説明するのでした。
「この3つが分かったら商売うまくいくで」

これらをきっちりやったらお客様に喜ばれて、必ず儲けがいただける。そして適正利益を出して税金を払う。さらには少しずつでも貯金して、もっと大きな商売に結びつけていく。これができるのがプロの商人なんだということでしょう。

私は今、講演や研修会で、時々この話をするのですが、話すたびに松下が説明してくれたその時の情景が頭に浮かんでくるのです。

※本記事は、PHP文庫  岩井虔著『松下幸之助 元気と勇気がわいてくる話』 より一部を抜粋編集したものです。

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