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はやぶさを取り入れた宇宙教育

的川泰宣

2011年06月09日 公開 2021年05月26日 更新

 

はやぶさを取り入れた宇宙教育

――はやぶさから学べるものは何ですか?

アメリカと日本の宇宙開発は、予算や規模を比べても勝負にならないんですよね。日本としては、はやぶさのような、アメリカができないことを精一杯やるのが使命なんです。そしてそれが結果的に日本の人たちを勇気づけることができれば最高ですね。僕は、はやぶさのストーリーの中から、宇宙教育の教材を作りたいと思っています。学校の理科や家庭科などの授業でも、宇宙を取り入れることはできます。ある家庭科の先生は、生徒たちに衣服に関心を持たせることが、難しいとおっしゃっています。たとえばそういったとき、宇宙服を持っていくと教室中が静まりかえります。先生が「この宇宙服はみんなの着ている服と違うでしょ。何で?」と生徒に尋ねると、今までにないくらい生徒たちは興味を持って想像をふくらまして発言するんですよ。
また、はやぶさの姿勢制御は、てこの原理など理科の教育につながっています。宇宙といえば物理学という固いイメージがあるかもしれませんが、宇宙には音や色彩もあり音楽や美術という多面的な世界で、ものすごく魅力があります。

――これからの宇宙教育で何か具体的な取り組みはされるのでしょうか?

僕はそれに専念したいと思っています。子供たちの心を育む上で、非常に重要なのは小学生の時期だと考えています。「あなたの人生の中で自分が人間として一番変わったのはいつですか?」という質問をしたとき、圧倒的に多いのは小学校5年生という意見。この答えがすべてというわけではありませんが、小学校5年生というのは、中学生になるための準備をする時期だけではなくて、人生の準備をする大切な時期だということをお父さんやお母さんに強調して話しています。そういった時期に宇宙の持つ広さや素晴らしさを感じとって欲しいですね。これからは、教育活動にもっと力を注いでいきたいですね。

――これからJAXAに求められることは何だと思いますか?

JAXAは、10年後20年後の具体的な長期ビジョンを打ち立てなければなりません。またこれからは、日本人が日本の技術で宇宙に行く時代を作らなければならないと思っています。僕は日本の技術をもう少し積み上げれば、有人飛行の打ち上げも可能だと考えています。なぜなら、1気圧の与圧モジュールを作る技術を身につけることには成功してますから。それに成功したということは有人飛行が目の前だということです。

次のステップとして、日本は有人の輸送機を開発する必要があります。安全に宇宙飛行士を帰還させるために必要で、独自の予算がつけばこれも遠くないと確信しています。日本が独自の宇宙計画を作って、宇宙を自在に日本人の力で飛べるような時代がくれば、日本ならではの宇宙飛行士が誕生しますし、生きているうちにぜひ見てみたいですね。そのためにも日本の宇宙飛行士には、今までの経験を活かして大いに働いてほしいと思います。

必ずしも自分の欲望を満たすためだけに行くわけではないので、世界の見方や今後の人類の展望、よりよい社会を目指して宇宙飛行士は宇宙へ飛び立って行くのですね。だから現在の日本人宇宙飛行士たちの表面的な活躍だけを取り上げるのではなく、彼らが、世界の人たちのためにどういう働きをしているのか、という観点で評価すべきだと僕は思います。

――今後、はやぶさ2やベピコロンボ、SELENE-2などさまざまなプロジェクトが計画されていますが、ぜひ成功させてもらいたいです。

日本の活躍という意味で、成功してもらいたいのはもちろんですが、宇宙を通じて命の大切さや人間として一番大事なものを子供たちに伝えていきたい。感性の豊かな境に宇宙と触れ合う機会を作っていきたいですね。

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