休日は野球やサッカー、ゴルフなどのスポーツを楽しむことが多いというアクティブなみなさん。翌日も疲れを引きずらず元気なチームメイトを見て不思議に思うことはありませんか? 同じ運動量でも疲労が残る人と残らない人の違いを、多数のプロアスリートをサポートしてきたスポーツトレーナーの中野崇さんに解説してもらいます。
※本稿は、中野崇著『最強の回復能力 プロが実践するリカバリースキルの高め方』(かんき出版)を一部抜粋・編集したものです。
疲労回復「行為」では疲労回復「能力」は高まらない
みなさんは、こんな経験をしたことはありませんか?
ヘトヘトになるまで身体を動かした日の翌日、自分はまだ疲労を引きずっているにもかかわらず、チームメイトの中には疲れなんてどこ吹く風、元気いっぱいで練習にやってくる人がいる。
シーズンの後半、周りの選手が疲労で調子を落としている中、ずっと調子を維持し続けられる選手がいる。
このように、同じ運動量(疲労行為)を行っているにもかかわらず、なかなか疲労が抜けない人と、すぐに疲労が抜ける人がいます。その違いはいったいどこにあるのでしょう?
その答えこそが「疲労回復能力」です。
本来、「疲れにくさ」や「疲労からの回復力」は、運動神経や身体能力などと同じように、その人の体質や生まれながらの能力によるものと考えられていました。
しかし、「疲労回復能力」はれっきとしたスキルの一つ。実はトレーニングによって、誰でも、意図的に、高めることができる能力なのです。
リカバリートレーニングの4つのメリット
疲れていては、本来持っているパフォーマンスを十分に発揮できないということはスポーツ選手に限らず、多くの人が実感しています。
回復能力の高い身体は武器になります。
それをわかっているからこそ、多くの選手が練習や試合の後にクーリングダウンなどの「疲労回復の取り組み」を行っているのです。
ですが同時に、クーリングダウンの効果をあまり感じられていない、という声も耳にします。
そこで私は、
疲労回復能力を高めるための知識・考え方・習慣=リカバリースキル
疲労回復能力を高めるための身体づくり=リカバリートレーニング
と位置づけ、これまでとはまったく違う「疲れにくさ」や「疲労回復」に関する考え方、疲労回復能力を底上げさせるためのトレーニング方法を構築しました。これらの方法は、私がプロ選手たちを指導する際に実際に行っているもので、あらゆる競技に役立ちます。
また、リカバリートレーニングによって疲労回復能力の目覚ましい向上につながるだけでなく、それによりこれまで実感できなかったクーリングダウンの成果も現れやすくなることもわかっています。
「リカバリートレーニング」の肝となるのは、身体の「循環」を整えて、さまざまな「固さ」を取り除き、深部にある筋肉まで柔らかくすることにあります。
これにより得られるメリットは次の4つです。
1 疲労が回復するスピードが向上する
2 疲労が回復する度合いが向上する
3 疲労の蓄積に起因するケガが減少する
4 疲れにくくなる
疲労回復「行為」と疲労回復「能力」は違う
そもそもみなさんは、「疲労の回復」についてどんなイメージを持っていますか?
・アミノ酸などの機能性食品やタンパク質をとる
・アイシングをする
・しっかり睡眠をとる
・ヒーリング系の音楽を流しながら、ゆったりとマッサージをする
・ヨガをしたり、静的ストレッチをしたりする
・アロマを焚いて、瞑想をする(呼吸に意識を向ける)
・軽いジョギングやバイクなどの有酸素運動を行う
......などが挙げられるでしょうか。
実はここに大きな落とし穴があります。これらは疲労回復【行為】ではあっても、疲労回復【能力を高めること】とはまったく別物だからです。
マッサージやアイシング、睡眠やサプリメント......いずれも疲労を回復する作用が期待できますが、その効果は限定的です。心地よいマッサージを受けたり、高価なサプリメントを摂取したりすると、そのときは疲れがとれるかもしれませんが、疲労を回復する能力そのものは向上しませんよね?
一方、体内で疲労を素早く処理し、回復できるのならば、それはその人自身に「疲労回復能力」が備わっているということです。
本稿でトレーニングするのは、この疲労回復能力=リカバリースキルです。この能力はトレーニングによって向上させることができるだけでなく、持続させることもできます。
2つの違い、目的を整理すると、
・疲労回復行為 ⇒ 疲労した状態からさまざまな方法を駆使して、元気な状態に戻すことを目的とする
・疲労回復能力を高める身体づくり ⇒ 疲労した状態から素早く回復できる能力を高めることを目的とする
ここからはこの2つの違いを明確にするために、また、解説の混乱を避けるために、疲労回復のための行為を「回復行為」、疲労回復能力そのものを「回復能力」と記載し、厳密に区別していきます。
また、本稿で紹介する「リカバリートレーニング」の中には、ストレッチやマッサージと似た動きもあります。ですが、目的がまったく異なるということを頭の片隅に入れておいてください。
「横向き腰腹呼吸」
普段は複数のトレーニングを組み合わせて順を追って行いますが、具体的にリカバリートレーニングをイメージしていただきやすいように、今回はその中から一例をご紹介しましょう。
回復能力を向上するための核心部分である「横向き腰腹呼吸」です。
腰腹呼吸は内臓を直接マッサージできる唯一の筋肉である横隔膜の動きが高まり、回復能力をはじめ、多くのメリットが得られる呼吸法です。
ここでは横向きでの腰腹呼吸を練習。横向きになることで腰に余計な力がかからず、腰の動きがわかりやすいやり方です。
腰を膨らませようとする際に、力んでしまうことがあるので注意。その場合は、手でさすることで力を抜きやすくします。慣れてきたら座った状態や立った状態でも行うなど、空き時間を見つけてどんどんやりましょう。
<ここをチェック>
▶腰が内側から押し広げられている感覚を追いかける
▶腰が動く感覚がわかったら、動きを少しずつ大きくしていく
▶朝ベッドから立ち上がる前の習慣にすると取り組みやすい
みなさんも、ぜひ「リカバリートレーニング」を取り入れて、長く健康にスポーツを楽しんでください。
【中野崇(なかの たかし)】
スポーツトレーナー。フィジカルコーチ。理学療法士。株式会社JARTA international 代表取締役。
1980年生まれ。大阪教育大学教育学部障害児教育学科(バイオメカニクス研究室)卒業。2013年にJARTAを設立し、国内外のプロアスリートへの身体操作トレーニング指導およびスポーツトレーナーの育成に携わる。イタリアのトレーナー協会であるAPF(Accademia Preparatori Fisici)で日本人として初めてSOCIO ONORATO(名誉会員)となる。イタリアプロラグビーFiamme oroコーチを務める。また、東京2020パラリンピック競技大会ではブラインドサッカー日本代表フィジカルコーチとして選手を支えた。
YouTubeをはじめとするSNSでは、プロ選手たちがパフォーマンスを高めるために使ってきたノウハウを一般の人でも実践できる形で紹介・発信している。 著書に、『最強の身体能力 プロが実践する脱力スキルの鍛え方』(かんき出版)がある。